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誰でもホラーを作れる方法

株式会社闇のトンカ(@tonka1981jp)です。
最近ホラーについて投稿してなかったので、
本業を忘れられそうな恐ろしさを感じ、今からなんとか取り繕おうかと思います。

皆さんはホラーが好きですよね? 
▶ はい
▶ いいえ


もう一度だけ聞きます。あなたはホラーが好きですよね?
▶ はい
▶ いいえ


ありがとうございます。
圧倒的な賛同を得られたところで話を進めていこうと思います。
以前に「ホラーをどうすれば楽しめるのか」を紹介したので
今回は株式会社闇流「誰でもホラーを作れる方法」をご紹介したいと思います。主にストーリーパートの考え方です。

あなたもホラー、作りたいですよね!
ホラーは体験するのも楽しいですが、
作るのも超楽しいんですよ!
ホラーは相手の感情コントロールが肝のエンターテイメントなので、ゲストのリアクションがダイレクトに分かるという作る側の面白さがあります。

逆にホラーが苦手な人でも「ホラーを作るロジック」が分かってることで、客観的に捉えることができそうじゃないですか?!怖さ回避としても有用ですよ!その上で、その上で、そこから好きになっちゃうかもしれないじゃないですか!

はい、ホラーを作るに当たり今回解説する項目は下記のとおりです。

1: 恐怖心の種類
2: 日本人宗教感における恐怖
3: ホラーの面白さを要素分解


これらをなんとなく分かれば、あなたも今日から「ホラーメーカー」だ!

※先に言っておくと下記の情報は全て「トンカ調べ」なので学術的にはむちゃくちゃ怪しいぞ!勉学のソースとかに使うなよ!基本的にホラーを作りやすくするノウハウとして読んでください石を投げないでください。
※過去の講演内容を一部編集してリライトしてますのでデジャブを感じても気にしないでください。


1: 恐怖心の種類

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まずお伝えしたいポイントとして、恐怖心には下記の2点があります。
・生理的な恐怖
・文化的な恐怖


この2点はホラーエンタメ上、役割が大きく異なるのでゴッチャにしないほうがよいという訳です。解説していきますね。

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「生理的な恐怖」とは、人間が誰しも生まれ持ってる恐怖心です。世界中で通用する恐怖心とも言えます。ホモサピエンスとして進化していく中で生存戦略として手に入れた恐怖心です。

・暗所
:暗い場所は危険なので怖がります
・閉所や死角:外敵が隠れていたり逃げ場がないので怖がります
・血や肉体破損:状況が超危険なので怖がります
・外敵:敵意のある存在は自分の命を脅かすので怖がります(人間だけでなく蛇や蜘蛛、肉食獣等も含みます)

なんとなく、上記の要素だけでもある程度ホラーが作れそうですね。
事実、お化け屋敷の主要要素でもあります。
「ショッカー」「ジャンプスケア」と呼ばれる、観た人が「ぎゃーー」と叫ぶような演出を作り出すのもこの要素が重要です。
他にも高所や先端・蓮コラ系などの恐怖症なんかも「生理的な恐怖」のカテゴリーですね。文化圏に依存しないホラーコンテンツを求められる場合は「生理的恐怖要因」を重要視します。

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対して「文化的な恐怖心」は後天的に手に入れる恐怖心となります。これは文化圏の影響、とくに「宗教」の影響を強く受けます。その人の信じる宗教というより、その地域にどんな宗教が根ざしていたかが重要です。各地域の宗教がその文化の死生観を司っているからですね。もちろん宗教観以外も後天的に得る恐怖心があります。
ここで取り上げる恐怖心は下記のようなものです。

・子供の頃の原体験的な恐怖
:子供の頃の体験は恐怖形成に大きな影響を与えます
・宗教的な恐怖:なにを善悪とするか、生死をどう捉えるかなど文化的恐怖心の根本を作り上げます
・物語から受け取る恐怖:ストーリーから生み出される恐怖です。ホラーの醍醐味ですね!

ホラーを作っていく上で生理的恐怖だけだと、あまり受けません。
この文化的な恐怖をどう作っていくかが、ホラー制作者の腕の見せ所になります。原体験の恐怖を扱うときは、世代によって原体験自体が異なりますので、どの年代を狙うかも大事ですね!
あと先に言っておくと、生理的恐怖、ジャンプスケア系を無くすと、これはこれで全く受けません。よく、文化的恐怖だけにしてくれ、ジャンプスケア抜いてくれって要望があるんですけど、抜くと満足度むちゃ下がるんです。バランスが大事なんです、って話は改めてどこかでします。

「物語から受け取る恐怖」がちょっと複雑なのでさらに解説します。
単に「怖い話」って言ってしまうとそうなんですが、それ以外にも
例えば部屋を借りるときに「この部屋で昔、凄惨な事件があったんですよ」と言われると嫌ですよね。「住む人住む人、みんな気が狂っちゃうんですよね」とか言われるともう帰り支度ですよね。「壁一面にビッシリと『怨む』って書かれてたんですよ」なんて言われたら全力ダッシュですよね。
必ずしもストーリーになってなくても私達は想像力で物語背景を作り出します。そのフックになるのが「いわれ」や「恨み」といった残留概念です。これらを含めて物語として捉えてください。

他にも「物語」が生み出す恐怖には特徴があります。
・あなたは「井戸」「かまど」どちらが怖いですか?
・あなたは「ビデオテープ」「SDカード」どちらが怖いですか?

多分「井戸」だったり「ビデオテープ」だったりするんじゃないかなと思うんですが、これらは「ホラーアイコン(ホラーの象徴)」だからなんですね。皿を数えるお菊さんで有名な「播州皿屋敷」という物語があります。
あまりの怖さに聞いた人が「井戸」が恐ろしいと学習します。すると物語背景関係なく「井戸=怖い」が成り立ち、ホラーアイコンになるという訳です。
そして、このアイコンを利用して今度は「リング」が生まれます。井戸から出てくる貞子怖い、貞子の呪いのもとになるビデオテープが怖い、という形で今度は「ビデオテープが怖い」がホラーアイコン化する訳です。

ホラーアイコンは多くの説明をしなくても恐怖を作り出せる便利なアイテムなので怪談にはたくさんのホラーアイコンが登場します。
・鏡・水・夢・骨董品・髪の毛・爪・人形・こけし・御札・神社・お堂・巫女・儀式・タブー…数え上げれば多くのものがホラーアイコンとして存在しています。

非常に便利なホラーアイコンなんですが、多用しすぎると話が薄っぺらくなったり他と似たようなお話になってしまいます。
ホラーアイコンを使用する際は「物語に登場する必然性」を意識すると良いかと思っています。



2: 日本人宗教感における恐怖

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日本人の宗教観とか言われても私は無宗教だし、もう長文だるいし、そろそろブラウザバックだなと思ってるそこのあなた、違うんです違うんです。ここからが大事なんです。

まず、私達は無宗教ではありません。
伊集院さんのラジオの発言、目にしたことある人も多いと思うんですが。

神様もまったく信じてないんだけど、
じゃあお地蔵さんを蹴れるかって言ったら、蹴れません。
もっと漠然としたことで言えば、賞味期限切れのおにぎりでも、米踏めるかっていうと踏めないんだよね。
<伊集院光とらじおと より>

ねぇ、お地蔵さん蹴れないよねー。おにぎり踏めないよねー。

そしてホラー制作者はこのような無自覚な宗教観も物語に組み込んできますよ。油断も隙もないですね。

正月も七草粥も豆まきもひな祭りも七夕も夏祭りも月見も大晦日も七五三もお葬式も法事も存分にやっておいて無宗教ってことはないんですよ。
初詣で明治神宮に集まる数ってメッカの大巡礼より数が多いですからね。海外からはむちゃくちゃ宗教熱心って思われてます。
「当たり前過ぎて気づけてない」ってところがポイントです。
死生観や超自然現象の共有感覚は実はこの無自覚な宗教観からきてるのでしっかり学んでおくとよいわけです。

で、日本では「仏教」「神道」が二大宗教ですが、ホラーエンタメを作る上では圧倒的に神道の考え方を学んでおくと応用しやすいです。
なぜなら仏教は「仏が人々を救う」というスタンスで、人を助ける立場にあります。(地獄概念は例外です / 幽霊の存在を認めない霊魂不説の立場を取る宗派もあるぐらいです)

対して神道は突き詰めると教祖も教義もなく「自然を崇め、神をまつらないと悪いことが起きるかもよ」というアニミズム集合知なんですね。来世もなければ救済思想もない。
なので「畏怖」や「祟り」といったホラーエンタメ的には欠かせない要素を内包しており活かしやすい!という訳です。

※めちゃくちゃ雑に説明してることは理解してるので宗教関係者の方は石を投げないでください、あと皇室神道についてはここでは一切触れておりませんはい。

神道、とくに土着神道の神様って他にはない特徴があります。
・自然が神、なので実態がない
・自然が神、なので各地域にたくさんいる
・自然が神、なのでいい面も悪い面もある
・自然が神、なので私達にできるのはまつるだけ
・神に会うには依代(巫女さんとか、単に石とか)に降ろして会う
気まぐれ。タブーもたくさんある

もちろん数多くの例外はありますが「自然への恐れ=神」と捉えてることが多いので、キリスト教などの一神教とは全く別の概念が多いですね。
神様がそこまで偉くないのもポイントです。

こうなってくると「神様」「妖怪」「幽霊」の違いをどのように線引くかも重要です。
※でもこの辺の分類は決して手を出してはいけないと言われています。妖怪警察や幽霊警察が非常に厳しく、そもそも民俗学内でも揉めに揉めてるのです。
が、一旦私の見解を記載しておきます。いろんな方の受け売りですが。私の中では、元々が「人」「人以外」で分類し、対象を「祀っている」「祀っていない」で大きく分けております。祀っている場合は概ね神であり、祀られていない場合は元が人なら幽霊・元が人以外なら妖怪と分類しております。
元々が死者の霊でも、祀られることで神様として扱われてるケースもありますよね。

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こういった神様の特徴である「存在が不確かな存在感」「依代」「祀りや儀式」「接触できる聖域」「タブーと祟り」なんかを物語にうまく組み込むと日本人の肌感覚にあったホラーを作ることができるかと思います。
具体的なモンスターを振り回さなくても「禁忌を破った」という状況だけで、そこから不可思議なことを連続させるだけで、ゾクッと来る物語ができあがります。
モイドンとかね、おしら様とかね。そういう神様や民話を参考にするのも良しですね。秘境の村を舞台に作っていくと「民俗学系ホラー」の出来上がりです。仮に都会が舞台の現代劇でも、これらの設定を背景に忍ばせることで納得度のあるホラーストーリーを作ることができます。


3: ホラーの面白さを要素分解

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第三章はホラー脚本家小中千昭氏の名言「ホラーは段取り」から始めさせていただきます。
そうなんです、ホラーは段取りなんです。
では何を段取りするのが正解なんでしょうか。

ホラーを作っていますと舞台やモチーフがある程度出来上がってきて「果たしてコレは怖いんかいな?」みたいなタイミングがそのうち来ます。
その時、段取りがきちんと組めているかどうかを、どんな定規で測ればよいのでしょうか。

一概には言いにくいんですが一概に言います。
「没入度」です。
相手の想像力の支配力、とも言えます。
想像力は積み上げ式なので、没入度を高めるには、想像力支配の段取りを進めていく必要があるのです。

そのホラーの「没入度」が高い(つまり、脳みそがそのホラーに乗っ取られるような体験)、そうなっていれば、きっと素敵なホラーが出来上がっていると言えます。逆に「没入度」は低ければ、あまり受けが悪いかもしれません。

没入度を生み出すものを分解してみましょう。
主に5つの要素で「没入度」の段取りを作ることが可能かと考えています。
・距離感:自分との距離感・ベストは登場人物と同一化
・信憑性:話のリアリティ
・強度:物語やアイコンの持つ恐怖の強さ
・意外性:想像を上回れるか(恐怖は想像の上にある)
・表現力:語り口や見せ方など脳内での再現力

※これらは互いにも影響を与えますし、必ずしも高ければよいということでもありません。信憑性が高すぎると「面白くなくなる」可能性がありますし「意外性」もありすぎると万人が理解できないホラーになるかもしれません。作り出したいホラーの理想の配分を考えると良いでしょう。

※意外性って没入度と相反する要素ではあるのですが、対象が理解できすぎると畏怖できなくなる現象があります。想像を超えていかないと怖くならない、むしろその想像を超えた瞬間こそ恐怖を作り出せるので要素に含めています。

※作りたいホラージャンルによって没入度自体が機能しにくいこともあります。作りたいホラーがゾンビものやスプラッターメインであれば別の尺度のほうが良いケースもあります。

これらの観点で有名ホラーを分析してみましょう。
例えば下記は有名な「トイレの花子さん」です。

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表現力は語る人の力量に問われるところがありますが、ポイントは距離が非常に近いということでしょう。学生の間で広まる話なので、学校のトイレという日常のシチュエーションがモチーフになっています。そして「3階のトイレで扉を3回ノックし、3回やる」といった儀式行為が信憑性を高めています。夜のトイレで実行するという強度も用意されています。

次は映画「リング」で考えてみましょう。

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超能力という概念もあり信憑性としてはやや弱めですが、「井戸」「女性の白い幽霊」「都市伝説」といったホラーアイコンもうまく使い、ビデオテープという当時の新たなメディアを使ったり、増殖というキーワードを持ち込んだりと、強度・意外性・表現力といった物語による恐怖が非常に強い作品になっています。

このようにホラーを「没入度」という観点で捉え、さらにいくつかの指標でチェックすることで良いホラーになったかどうかを確認したり、理想に近づけるべく補強することができます。
自分なりの使いやすい尺度を作ってみても良いかもしれませんね!



という訳で、非常にざっくりとした内容でお送りしました。
構成とかキャラクターとか具体的な表現ノウハウには一切触れておりません。その手のノウハウは他にもたくさんあると思いますので、それはそちらで学んでいただくことして、ここではホラー特化のテクニックとして書かせていただきました。

実はクリエイターの方に一緒にホラー作りませんかとお声がけしても「私はホラーを作ったことがなく、作るのは無理です」と断られることも多く、寂しい思いをしております。そんな寂しい声を少しでも減らすためにも、日々の試行錯誤の中で得られた知見を文章化してみました。
ぜひぜひホラーを作ってみるということにもチャレンジしてみてくださいね!
少しでも皆様のホラークリエイティブの参考になれば幸いです。


会社でホラー映画観ます。