【中小企業診断士の読書録】 文系でも理解できるAI 今井翔太著「生成AIは世界をどう変えるか」
中小企業診断士が古今東西の経営に関する本100冊読破に挑戦する記録 -題して「診書録」 50冊め-
■なぜ読もうと思ったのか
ChatGPTの登場以来、AIに対する関心が高まり、AIという言葉を目にしない日はないくらいです。
中小企業診断士試験では「経営情報システム」を勉強したのですが、とても身に付いたとは言えず、試験から4年近くが経って、きれいさっぱり忘れてしまっています。それでも、AIは飛躍的に進化しているようで、まったく無関心ではおれません。
アマゾンで何かいい本がないかと探していたとき、「ガチ文系でもわかる」というレビューを見つけて、思わずポチッとしたのが本書です。
■学び
<著者・今井翔太氏について>
はじめに、著者の今井翔太氏の紹介です。著者は、わが国におけるAI研究の第一人者と言われている東京大学の松尾豊教授のお弟子さんです。現在、その松尾研究室に籍を置き、AIの強化学習をテーマに研究をされています。
1994年生まれだそうですから、現在29~30歳という少壮の若手研究者です。
本書は、一般の読者向けに書かれた教養書で、アマゾンのレビューのとおり、ガチ文系の私でも理解できる、わかりやすい本でした。
構成は、生成AIの技術基盤、生成AIが人間の労働に与える影響、人間の創作に与える影響、そして生成AIの未来となっています。このうち、生成AIの技術的な側面については、やはり文系人間には難しく、読んでなんとなくわかるという程度でした。
生成AIについて初めて学んだのですが、この本での学びは3つです。①生成AIはインターネット以来の革命だということ、②AIは身近にある、③AIは私たちの労働を変える、この3つです。
1 生成AIはインターネット以来の革命だ
私が初めてインターネットに触れたのが1995年でした。ネット以前の社会を長く生きてきた人間としては驚きの連続で、遠くの世界とつながったという実感があり、夜な夜な「ネットサーフィン」に明け暮れていました。
インターネットは私たちの生活を大きく変えました。何か知りたいことがあると、ネットで調べる、いわゆる「ググる」ようになりました。
関係していそうなキーワードで検索→検索結果として表示された記事を見る・読む→必要に応じて保存・印刷→それらをまとめるという流れです。ここでは、ネットは情報の格納庫、データベースであり、人間が必要に応じて利用するというものです。
これに対して、AI、そのなかでも生成AIは、私たちが知りたいことを直接入力すれば、その答えとなる「文章」を出力します。こんな画像を作りたいと入力すれば、要求どおりの画像を作ってくれます。AIが人間の言葉を理解し、ネット内にある膨大な情報から学習して、それをまとめて「文章」や画像にして答えてくれるのです。
百聞は一見に如かず、実際にやってみた方がわかりやすいでしょう。AIに次のような質問をしてみました。
これに対するAIの答えです。
どうでしょうか。答えを得るまでの時間は数秒。文章としては完璧で、内容についても、コンピュータに多少とも触ったことがあれば理解できるものです。
古い話で恐縮ですが、電卓が家庭向けに登場したのが昭和40年代でした。カシオ計算機が発売したもので、当時のTVコマーシャルは「答え一発! カシオミニ」。初めて言語生成AIに触れたとき、このコマーシャルが思い浮かんできました。
生成AIは文字だけでなく、画像も作ってくれます(画像生成AIといいます)。AIに次のようなリクエストをしました。
これに対して、AIが4つの画像を作ってくれました。その1つが次の画像です。
人間の質問に、AIが考えて一発で答えを出してくれたという驚き。人間とAIが対話しているような感覚です。インターネットを始めて触れたとき以来の驚きでした。まさに革命だと思いました。
2 AIは実は身近にある
これまでは、AIというと遠くにあるもの、どこかに鎮座しているスーパーコンピュータを使って、白衣を着た研究者(まったく個人のイメージです)が操作しているというイメージを持っていました。
ところが、AIは私が普段使っているPCやスマホでも操作することができる。この本を読んで知ることができました。こんな身近なところにあるなんて。とても驚きでした。
Microsoftのブラウザーである「Bing」にもAIが搭載されています。右上にある、漢字の「井」のような水色のアイコン(うまく表現できす申し訳ありません)をクリックすると、生成AIを利用することができます。しかも無料です。
ここにある「copilot(コパイロット)」が言語生成AIです。副操縦士という意味で、ユーザーをサポートする存在であることを表しているそうです。
その下の「Designer」は、画像生成AIです。プロンプトと呼ばれる指示文を入力すると、その指示に適う画像を作ってくれます。
上記1で実例として紹介した文章と画像は、copilotとDesignerで作ったものです。
インターネットはその利用が無料であったことから、世界に爆発的なスピードで普及しました。普及にともなって、それを利用した新たなサービスが提供されるようになり、そのすそ野を広げました。
AIはもう私たちのごく身近な存在で、かつ無料で利用することができます。そして、本書によると、AIの技術は日進月歩ならぬ“秒進分歩”で進んでいます。これからAIを利用して、どんどん新しいサービスが提供されるようになるだろう、そう予感しています。
3 AIは労働を変える
生成AIは、労働や創作という人間の営みを大きく変える。これが本書のキモであり、読んでそう実感しました。
本書によると、生成AIの影響を最も受けるのはホワイトカラーです。ただし、「影響を受ける」=「仕事がなくなる」ということではありません。雑誌やネットで、「AIによってなくなってしまう仕事」といった記事がありますが、あくまでも「影響を受ける」ということです。
著者によると、生成AIが労働に与える影響には2種類があるといいます。1つは、「労働補完型」。AIが人間の労働を補助する、楽にするというものです。もう1つが「労働置換型」で、これは文字通り、人間の労働を完全に置き換えるもので、そこに人間が介在する余地はありません。
どちらになるかについては、研究者の間でも議論があるようですが、AIはどちらかというと労働補完型で、既存の労働を生産的かつ快適で質の高いものにするというのが多数説だそうです。
本書では、AIが労働にどういう影響を与えるか、あるいは与えているかを具体的に紹介されています。
その具体例が、カスタマーサポートとプログラマー。研究結果によると、いずれもAIは効率性を高め、生産性を向上させています。とくにプログラミング自体が不要になるという事例もあり、とても衝撃でした。
さらに、マーケティング・営業、研究、教育、医療にどのような影響を及ぼすかについて、どれもショッキングです。
ここで、経営コンサルタントである中小企業診断士には、どういう影響があるのでしょうか。
仮設例として、「AI診断士」であるcopilotに次のような質問をしてみました。
これに対する「AI診断士」の答えです。
どうでしょうか。これも数秒で答えがありました。困ったときのアイデアとしては、とても優れているように感じました。ただ、「売上が減った」という事象については、具体的な分析が必要で、それは経営者とコンサルタントの間の対話から、真の原因が発見されると思います。環境分析はAIで、要因分析と課題設定は人間が行い、具体策のアイデア出しはAIで行う。このように、AIは意思決定を支援するものとして使われるように思います。
<小括・感想>
AIはとてつもないパワーを持った存在であることがわかりました。労働に大きな影響を与えるが、私は、願望も含めて、AIを労働補完の道具として「利用したい」と思いました。具体的には、「調べもの」を効率化する、多面的な視点から考えるための道具として、そこで得られた情報やデータをもとにオーダーメイドで提案する。そうした使い方です。
本書の第5章「生成AIとともに歩む人類の未来」は、著者の予言と預言でした。すなわち、AIは「眼」を持ち、言語を獲得する(認知革命)。そして「超知能」が生まれる。
子どもの頃、SF小説で見た、ある挿絵を思い出しました。渦巻きの中に眼(これは全知全能の神の眼です)があり、その前に預言者がいて、人々が跪いている。人間の知能を超える「超知能」としてのAI。そこには不安と恐怖もあります。そのような、AIに支配される世界には絶対にしたくない。そのためには、人間が主体的に考えるという営為が重要になってくるように思います。
■次のアクション
生成AIがもたらすであろう革命は、もはや避けることはできない。であれば、それをうまく使いこなすしかありません。
生成AIについては、技術的な原理を含めて、深く学習していきたいと考えています。
AIは人間の脳の仕組みを真似たものだそうです。ニューラルネットワークと呼ばれる、その仕組みについても興味を持ちました。人間としての主体性を失わないためにも、人間の脳についても、さらに学んでいこうと思います。
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