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翠雨

鬱蒼と茂る木々

蝉時雨が空間を埋め尽くすように 

隙間なく響きわたっていた


ベンチに座って瞳を閉じていると

忙しそうな羽音が耳元をくすぐる

そっと瞼を開けると 

真っ白な日傘の中に

レースのような羽衣を纏った青いトンボがとまっていた


このままじっとしていよう・・・


暫くすると 

すぅっと日傘を離れ

視線を導くように目の前の柵にとまると

玉虫色に輝き始めた


じっと見つめる柵越しの水面に 

水の輪がひとつふたつ広がり

水の精が踊り始める


夕立・・・・・・


瞳を閉じていたから

夕立の訪れを

トンボが教えてくれたのかもしれない


いつの間にか蝉時雨はやみ 

岸に上がった水鳥が

雨の中で日傘をさす私を見つめていた


雨が運ぶ微かな秋の香りは

満ち足りた夏の日々を

ノスタルジーのベールで包んでくれた



心に映る全てが美しく

まるでこの場所に歓迎されているようで 

麗しき自然の計らいに
 
しばし時を忘れ

翠雨に潤う涼の森で 

夏の午後を見つめていた





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