きょうだい ~続~

兄が中学入学してからも、ちょっかいを出されるのは変わりませんでした。今思えば、本当に子供じみた、しつこい嫌がらせにしか過ぎないのですが。

ある晩、夕御飯も食べ終わり私は卓袱台で宿題か何かをしていて、同じく卓袱台で父はテレビを見ていて。父の視線を遮るように、また兄がいつものように小さな玩具を私に投げてきました。私は自分の感情を冷静に言葉にするのが難しく、すぐに騒いで泣き出すのが常でした。宿題か何かを邪魔されるのが腹立たしく、玩具を泣きながら兄に投げ返すのですが、兄が堪えるはずがありません。煩いとすれば、声をあげて泣いて、玩具を投げている私の方です。

ところが、突然父は兄を柔道の技のように投げ飛ばしました。「うるさい!」と言ったかも知れません。投げ飛ばされた兄は、父を睨んでいました。テレビの音が聞こえなかったとしても、目の前で玩具がチャラチャラして画面が見辛かったとしても、叱られるのならば私の方だと思います。それなのに、一度も父は私を見ず、兄を見下ろしていました。

もう少し言えば。父が不在のときは、いつも母親から私が叩かれるので「どうして私が叩かれないんだろう?」と不思議な気持ちでした。

大人になった今だから考えるのですが、父は私が受けていた虐待に、薄々気付いていたんじゃなかろうかと。母親が留守番をして、きょうだい揃って祖父母の家に遊びに連れてってくれた父が、私の様子から何かを感じ取っていたんしゃないかと思うのです。いつも祖父母の家に行くときは、私だけが父が運転する自転車の後ろに乗っていました。特に何かを話した記憶はありませんが、父の背中に頭をくっつけて、甘えるようにしくしく泣いた記憶はあります。「どうした?」とも聞かれませんでした。言葉が少ない分、家の中の空気を読んでいたのかも知れません。そんな父だったから、それまでの鬱憤のようなものが爆発してしまって、兄を投げるという行動になってしまったのか?とも思うのです。何故なら、父が私たちに向かって手を上げることは、殆ど無かったからです。そういう人が、少し体の大きな中学生とはいえ子供を投げるくらいの感情って、よほど大きな怒りでなければ難しい気がします。

その夜を境に、私は兄から無視・一切口を利かない・目が合えば睨む、舌打ちをする・声を出すと舌打ちをする・兄の物を触ると怒鳴り散らされる。そんな毎日が、10年ほど続きました。もちろん、親からのフォローはありませんでした。


申し訳ありません、まだ続きます。

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