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所作。

 つい先月くらいから散歩をしております。冷夏のせいか、体重が思った以上に減っていないのでいつもより多めに歩こうと5キロ先のスーパー、100円ショップまで何も買うわけでもなく値段や品揃えを見にいきます。

 夕方、ふらふらとスーパーを歩いていると女子学生からおばあちゃんまでほぼ女だらけでした。そんな中、全身黒の怪しげな30代男性の僕は何気なくお菓子コーナーをさまよっているとお菓子を物色している一人の女子高校生が棚の向こう側から歩いてきます。
 おや?と思ったのは、彼女がぶつぶつなにかを話していることでした。

「こないだのさー…そうそう…いやほんとに…へー。」

 両手が空いた状態で右手にお煎餅の袋を持ち裏面を眺め、片手にはスクールバック。2メートルぐらい近づいてから気がついた。耳にワイヤレスイヤホンをして通話をしている。僕はその光景をあまりジロジロみるのもどうかと思って、酢昆布を眺めていました。
 すると、女子高生の反対側から僕が挟まれる形で40歳ぐらいの女性が歩いてきます。僕を挟んでその女性は

「アカリ!帰るわよ。なんか買うの?」

そう、言ったのです。あ、この人らは母娘の関係か。アカリさんは

「なんにも~…いやこっちのはなし。」

アカリさんは僕の背後を抜け、母親の方へ向かいます。
母親は娘を少し小突いてこう言った。

「ちょっと…手ぶらで電話で話してたら、危ない人と思われるでしょ?
電話で話してもいいけど、外で話す時は耳に携帯あてて話しなさいよ。」

「なんで~?重いし。」

店を出てコーヒーを一本買って駐車場でタバコを吸った。この母親の言葉が何度も何度も頭の中で反芻した。

 よく考えると「もしもし」という言葉も電話交換手が居た時代の所作、挨拶として残っている。言語として落としこんでいるし、一対一の相手との関係性の中で使える言語だ。
 しかし、あの耳に電話を当てて話すという所作は見事に相手との関係性以外の効果を発揮している。今、手が離せません、話せません。という効果を発揮している。LINE、Discord、カカオいろいろな通話アプリが出てきてもこの『携帯を耳に当てる』という所作を超えられないというのがどうも引っかかった。
 電話のあの所作を超えられないうちはまだまだスマートとは言えないな。
いや、むしろ対外的なアピールはスマートなんだろうか。

と勝手に思ったという駄文。

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