てめえの死に顔も見飽きたぜ

 私は205号室の扉の前で、ポーチから拳銃を取り出した。どうせ、扉に鍵はかけられていないだろう。いつものことだ。案の定、ドアノブに手をかけて捻るとそれだけで扉は開いた。
 拳銃を構え、室内に入る。玄関からは、すぐにリビングへ繋がっている。リビングには大きな机と二脚の椅子。片方の椅子にヘレンが座っていた。
「やあエラ、今日は君の誕生日だね。一緒にお祝いしよ——」
 気安く呼びかけてくるのを無視して、眉間めがけ、弾丸を撃ち込む。ヘレンの身体が力を失い、うなだれる。さらに心臓へ二発撃ち込む。ヘレンの身体が銃撃を受けて僅かに動く。だが、それだけだ。うめき声を発したり、痛みにのたうち回ったりはしない。死んでいる。
 机の上を見る。キャンドルで照らされた卓上に並んでいるのは、一本の赤ワインと二人分のディナーだった。メインは鴨ローストのカシスソースがけ、私の大好物だ。赤ワインのラベルには私の誕生年が刻まれている。
 背筋に冷たいものが走る。ヘレンの頭にもう一発撃ち込む。
 深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。とりあえず、拳銃をポーチに戻す。持っていると、また無駄弾を使ってしまいそうだ。
 椅子に座ったままのヘレンの死体の後ろに回り、左手で顎を持って上を向かせて固定する。ヘレンの光を失った瞳がこちらを見つめる。右手でジャケットの胸ポケットからバタフライナイフを取り出す。
「お前の目玉をくり抜くのも、もう慣れた」
 ナイフを使ってヘレンの右眼球を取り出し、その眼球をナイロン袋に入れる。面倒だが、これは依頼主に送らなければならない。ナイフの刃をヘレンの着ているニットセーターで拭く。これで。一応は依頼達成だ。
 現場をそのままにして、部屋を出る。証拠隠滅は考えない。しても無駄だからだ。

 私が依頼を受けてヘレンを殺したのは初めてではなかった。これで28回目だった。三か月前に受けた殺しの依頼が、この悪夢の始まりだった。

【続く】

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?