燃えよ振動剣

 俺の身体が燃えている。常用制限解除して散々ぶん回した人工筋肉の熱が、疑似肌の発火点を超えたのだ。
 足元には、俺がぶった斬ったサイボーグ傭兵どもの残骸が3ダースほど転がっていた。だが、まだピンピンしてる傭兵があと2ダースは居て、俺の背後には、護衛対象のハンナ・ウェイカーズがぶるぶる震えている。
 こんな無茶をする気はなかった。たった3ブロック先に、お得意様の企業のご令嬢をエスコートするだけの仕事。いつものように、車内でハンナと雑談でもして、報酬を貰うだけのウマい仕事のはずだった。だがしかし、ハンナの父親が―—ハメられたのかなんなのかは知らないが――企業警察に逮捕されて状況は一変した。社に雇われた傭兵どもが、次々と襲ってきた。最初はハンナを保護したいだけだとか言ってたが、戦い方からしてハンナの命をなんとも思っていないことは透けて見えた。見せしめかなにかのために、ハンナを殺すつもりなのだろう。
「投降しろ。“鉻切り”キョータロー。ここまでだ」
 リーダー格らしき五眼の傭兵が言った。
「なぜ戦う。ウェイカーズが金を支払うとでも? すぐこちらに与すれば、ウェイカーズの報奨金の倍払うぞ」
 五眼は見え透いた嘘を吐いた。ハンナが不安げに身じろぎするのを感じる。俺は口の中に溜まった白い人工血液を吐き出した。
「断る」
「ふん……金で動くのが俺たち傭兵だろうが。その女に情でも移ったか」
「そうじゃない。蝙蝠じみた安い生き方が気にくわないだけだ」
「くだらないこだわりで死ぬつもりか」
「そうだ。粋じゃなきゃ、生きてる価値がねえ」
 俺は燃える手で、得物を逆手に握り直した。エビネ2225。ミワ・オニキス工業製。淡い紫色の刀身と年輪めいた刃文が特徴の振動刀。非効率極まりない、しかし、美しい近接武器。
「……馬鹿の考えることはわからん。もういい。死ね」
 五眼がそう言うと、俺たちを取り囲む傭兵たちが、一斉に引き金を引いた。

【続く】

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