#02 社会を変えた本と表現のはなし
僕は小さい頃から本が好きで、いつか自分もつくりたいと思っている。(手作りの絵本とかはつくったことがあるけどね。)電子書籍よりも、やっぱり手に取れる「モノ」としての本が好きだ。
1冊の本との出会いが、人生を変えることもあると思うし、1冊の本が世界を変えてしまうこともあると思う。
僕は特定の信仰は無いが「聖書」は世界中の人に影響を今でも与え続けている本だろうし、近代では「資本論」や「沈黙の春」なんかも世界の見方を変える本だろう。
比較的近年(2011)、ドイツ社会を動かした本を紹介しよう。
弁護士、フェルディナント・フォン・シーラッハの手になるミステリー小説「コリーニ事件」である。
日本でもベストセラーになっていたし、映画化もされるようなので、ご存知の方も多いだろう。
この本を紹介するのは非常に難しい。ミステリー小説であるためネタバレになるようなことを書くべきではないのは当然だが、本書の内容を明かさずに、しかしこの本がもたらした現実社会への影響を述べるのが困難だからだ。
よって、内容の紹介に関しては本書の表紙ウラに書かれている紹介文に留めることにしよう。これはドイツの新米弁護士ライネンが請負ったある殺人事件の弁護をめぐる法廷劇である。
2001年5月、ベルリン。67歳のイタリア人、コリーニが殺人容疑で逮捕された。(中略)だが、コリーニはどうしても殺害動機を話そうとしない。(中略)ドイツで本当にあった驚くべき”法律の落とし穴”とは。
この「ドイツで本当にあった驚くべき”法律の落とし穴”」に対して、本書の出版が契機になり、2012年にはドイツ法務省内にこの件に関する検討委員会が設置された。小説が社会を動かしたとして、話題にもなった。
そうした社会の動きが、どこまでシーラッハの構想にあったかはわからない。しかし、本書の着想ないし問題意識の根幹には、彼の生育歴に関係したドイツ社会や歴史に対しての想いがあったことは間違いないだろう。彼の人生に深く関わる問題意識が、彼の弁護士という職能を生かしながら、ミステリー小説の形をとって冷静かつ繊細に描かれている。
この本に出会って感動した点は、「社会を動かす」ためには本当に様々な方法がある、ということだ。
結局のところ、「社会を動かす」というのは、「人の心を動かす」ことでしか実現しないのだと思う。
できればなるべく大勢の、あるいは非常に強く一人の心が動くことから、社会は動き出すのだ。
尊敬するコミュニティ・デザイナーのランディ・ヘスターは、「人の心に触れる都市をつくる」ことの重要さを説いた。どのようなコミュニティや都市になるかということは、結局のところそこに住む人々の心がどうあるかということによって決まり、またそれは都市と人間の間で相互に作用するものだと、僕は理解している。
人の心を動かす、というのはかなり大それた目標で、奢りとも言えるかもしれない。
そんなに簡単に人間の心は思い通りには動かない。でも実際に、そういうことも起こり得る。
「コリーニ事件」が教えてくれたことは、その表現は様々でいいということだ。小説が世界を変えることもある。
その表現方法は社会運動や選挙でなくとも、人の心に触れるものであれば、可能なのではないか、と。
何かを変えたいとか、より良くしたいと思うとき、どのように動いたらいいかわからない。
でも少なくとも、僕は僕自身の心が動くような方法はなんだろうか、ということを考えてみることにしている。
おそらく、小さくとも自分なりの表現があるはずで、それをやればいい。
その表現を、模索する日々である。
※ちなみにシーラッハ初期3部作ともいうべき本書と短編集である「犯罪」「罪悪」だが、単純に小説としては1作目の「犯罪」のほうが味わい深いように思う(個人的感想)。
デモクラティック・デザイナー 北畠拓也
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