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なかまにゲット 1

151の夢を僕はずっと見ていたかった。

小学3年生の頃、夏休みの宿題で「自分の夢」という作文を書く機会があった。
私は「ポケモンマスターになりたい」という題材の作文を書くことにした。
私はその昨年のクリスマスプレゼントで買ってもらったポケモンにずっとハマっていた。近所でミュウを出す裏技があるという噂を耳にすると飛んで行ったものだ。
そこで考えた、ポケモンマスターになるにはどうすれば良いかを。その当時はポケモンが世界のどこかには本当にいると思っていて、なんなら近所の公園のセミの中にコクーンやトランセルが潜んでいるのではと本気で思っていた。トランセルくらいならモンスターボールを投げるだけで捕まえることが出来るので簡単だなとさえ思っていた。
しかし私は特別な人間だと思い込んでおり、最初に出会うのはケーシィだと思い込んでいた。ケーシィというポケモンはゲーム内でモンスターボールを投げ込んでもすぐに逃げてしまうため捕まえることが容易ではなかった。しかし捕まえた時の嬉しさは仕事で疲れきった後の生ビールを飲む行為よりも格段に高揚したことを覚えている。
 さて、作文のお題で自分がポケモンマスターになりたいと気がつかされた私は、ポケモンマスターになるにはまず道具が必要だと思いノートにどのような道具が必要かリストアップしていった。そこには
・モンスターボール
・ポケモン図鑑
・自転車
・携帯食料
・リュックサック
と書いた。
リストアップしてみると意外といるものは少なかった。しかも自転車とリュックサックは親に買ってもらったものがある。後の携帯食料は煮干でなんとかなると思っていた。
と言うことはモンスターボールとポケモン図鑑があればもうあとはポケモンを捕まえるだけである。小学3年生の私は早速近所のおもちゃ屋にモンスターボールがあるか見にいった。しかし、探しても探してもモンスターボールは見つからず、店員に聞いてみるとレプリカのオモチャならあるよと言ってくれた。当時の私はレプリカという言葉が理解できなかったが本物ではないことはニュアンスでわかった。まぁここにないだけで他の店にならあるのでは、と思い最近やっと乗れるようになった自転車をこぎ走り回った。しかし、どこも取り扱ってなく、古い小規模な小売のお店では邪魔者扱いされた。(店内には私一人しかいなかったのでもう少し話を聞いて欲しかった。)
さてここで、モンスターボールとポケモン図鑑さえあればポケモンマスターなんかすぐなれると思っていた私は「あきらめる」のあの字もないくらいにすぐ行動に移していた。
次に取った行動は友達の「たっくん」に聞いて教えてもらうことだ。この「たっくん」はポケモンのことなら私よりも知っていてゲームの中の同じ種類のポケモンでも個体によって能力値が違うだの、わざマシンの増やす裏技を知っているだの、しまいにはミュウを持っているということを実証している人物だった。学校内でも上記の噂は常時囁かれていたが、自分の目で見たのは、たっくんのゲーム画面が初めてだったのもあり完全に信じきり「ポケモン博士」と読んでいた。
 そしてたっくんの家に行きたっくんの部屋でモンスターボールを手にれるにはどうすれば良いのかを聞いてみた。
「モンスターボールってどうすれば手に入る?」
「ショップで売ってるじゃん、そこで買えばいいじゃん。ってか四天王倒しまくってたのに金がないとか?」
「いやいや、今ここでだよ!!」
「え?ここで?無理だろ、ポケモンいないし、つけもんならあるけど。」
「はあー?話にならんね、ポケモンマスターになろうとしている奴にそんなこと言うか?」
私はたっくんの言い方に対して苛立ちを隠せなく強い語調で言い放った。
「君はさ、現実とゲーム混同してるんじゃないの?まず元となるポケモンがいないんじゃポケモンマスターなんて成れっこないだろ。」
「ポケモンはいる。たっくんが見た事ないだけだろ、俺はあるね、公園でケーシィを」
「はぁ?嘘つくな嘘つき!いるわけないだろ。」
「もういい!絶交だ!」
言い放った直後、私はすごい勢いでたっくんの家を逃げ出した。

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