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[公開日映画レビュー]『カメラを止めるな!』

 SNS上ではもうこの話題ばかりですね。

「少し内容に触れるだけで、ネタバレになってしまう!」ともいわれますが、特報ムービーでは冒頭の37分のワンカットを「これを撮った者たちの物語」と明かしてますので、特にここを秘密にする必要はないようです。

『君の名は。』、『この世界の片隅に』に次ぐSNSパワーが観客動員数を引き上げた例と言えるこの映画、他の大勢の方も噎せかえるほど高評価を書き連ねているので、むしろ私は醒めている感じです(笑)

さて私は誰も触れてない視点から書きたいのですが結局『カメラを止めるな!』はダブル・ミーニングだと思っています。

まずこの37分間の生放送ワンカットのゾンビドラマはワンカット依頼ですので、その意味で。そしてもう一つは“日暮一家の念(おも)い”。

売れない監督と売れない女優が婚姻を結ぶケースは「業界あるある」なのですが、そんな夫婦の許に生まれた子供も自然に映像の世界に踏み込みますが、父親似なのか完璧さを求めすぎる気性から仕事ではうまくゆきません。

さて、今回のゾンビドラマは常識外れな企画でもあるので、話題性も期待できる。その意味でもし成功できれば日暮隆之氏の監督人生が一気に変わる可能性があります。だから懸ける気持ちも強くワガママな俳優やNGありの女優に苛立ちながらも自分を殺して監督のミッションに徹します。

しかし一難去ってまた一難と次々に問題が勃発します。そのたびに制作側から「中止」がほのめかされます。ところが、そうはさせじと日暮氏は奮闘します。

監督役とメイク役の俳優が交通事故。残り2時間で撮影開始の場面。台本を諳んじているとの合理的な理由で自ら監督役を買って出ます。メイクは同じ理由で妻晴美が演じる事に。

やっと撮影が開始になるも、アル中のベテラン俳優細田が酩酊し正体不明に、飲料水が合わないと下痢をする音声役山越など、必死に撮影の軌道に乗せようと奔走するも、やがて奮闘空しくストーリーが破綻してきた事からついに「中止」のテロップまで用意されてしまいます。

しかし新進俳優神谷観たさに現場見学に来ていた日暮の娘真央が、辻褄を合わせるアイディアを強引にねじ込みなんとか中止回避。

だが、さらにエンディングカットを俯瞰で撮るためのクレーンが破損。さすがに日暮自身がこれにはギブアップしそうになりますが、真央が日暮の台本背表紙裏に貼った親娘肩車の写真から閃き、組み体操で「人間クレーン」にて俯瞰撮影を見事に完遂させる──つまり「カメラを止めるな!」は“日暮一家の念い”でもあったのではなかろうかと。「カメラを止めてしまったら何もかもお終いだ!」──かように私は思ってしまいました。

全体を包括する家族愛を入れるなど正直反則です。だれもこの映画を拒絶出来ません。綿密な構造をもつ台本は見事と言えましょう。

あと、誰も書かないと思いますが、ハンディ・カメラの効果と効用を活かした辺りは、着想のどこかにクローバーフィールド/HAKAISHAの影響があったかも知れません。

結論として傑作だと思いますが、私は二回観たい映画とは思わない──というのが正直な感想です。

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