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「夜明けのすべて」のすべて


原作ファンかつ朝ドラクラスタとして、この小説の実写化をあの二人が務めるということ、これでもかというほど公開を心待ちしてきた。

これはわたしが読んで、観て、よかったな〜とじんわり感じたことを憶えておくために、いつでも思い出すために、書く。

(直接的なネタバレになるような表現は控えていますが、内容に言及していますのでご容赦ください。)


原作小説では、山添くんと藤沢さん そして彼らの周りにいる人たちが、それぞれ生活する上で抱えてる、どうしようもなさやどうにかしてあげたさなんかを一つずつ丁寧に辿られるからこそ生じる温度感がすき。振る舞いの奥にある、その人の心遣いとか思いやりの描写があったかくてどこか慎ましくてすき。同時に、だからこそ描かれる暗さと深さがあって、閉塞感こそ作品の奥行きになるから魅力的だった。
そして小さな小さな一歩の積み重ねと、気付いたらどうにかなってしまった経験との繰り返しで、気付かぬうち、夜の先に明日を考えられるようになるところが良い。


映画はまず、小説の文章を思い起こすナレーションから始まることで、この世界もきっと地続きの色で描いてくれる…という種の信頼が押し寄せてきて胸いっぱいに。映像の聡明さと音の心地よさは観ていて心拍が一定になるようで、かと思えば知らぬ間にぐっと引き込まれたりして。毛布に埋もれながら深い呼吸をしてそこに居るような、そんな原作の世界観にどっぷり浸かりながら山添くんと藤沢さんの住む世界を眺めていることに気付いた瞬間、こりゃあ映像化の醍醐味だ!!!!!!と思った。

原作の大筋は大事にしつつ"夜明け"の部分の厚みを持たせる為のシナリオで、結果として映像化にあたって見応えがある設定になっていたな〜と思う。でもそれを狙って新しい背景を取り込むんじゃなくて、小説にもあったある点にスポットを当てるという形でちょっと設定を変えたっていう印象だったのと、映画を観て粟田化学(金属)の人たちをもっともっと大好きになってしまったっていうのが個人的に嬉しかったところ。小説よりもっと優しい世界になっている気がして、安心した。


原作で、わたしは二人が家族の助けを借りるんじゃなくて、自分の近くにいる人たちと関わりながら自分なりの生活を自力で見つけていくところに焦点が当たるのが良いな〜と思っていて、だからこそ映画で藤沢さんの家庭の事情に起因して展開される場面があったことをちょっと寂しくも感じたんだけど、巻末とエンドロールでこの先も続く二人それぞれの日々がどうか幸せであるように祈りたくなるのは、小説も映画も同じだったな。


個人的に、原作の"社長、山添くんと話してたらつい弟の話が弾んでしまった"という描写がだいすきで、映画の"山添くん、おつかいから買って帰ってきたけど……!!?"のシーンがすきすぎる。それぞれに山添くんという為人です。



小さな一歩を辿りながら世界に少しずつ色を足していけるからやっぱり小説って最高で、大好きな世界に色が付いて音が乗るからやっぱり映画は最高だ〜〜と思った。



夜明けのすべて、すきです。

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