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【DCFのキホン①】ディスカウントとは

ディスカウントとは

これが分かってないと、DCFはただの作業ゲーになります。キャッシュフローの計算の仕方が気になると思いますが、実はこのディスカウントが面白いところです。

いくらなら買っていいのか=この株のバリュー(価値)はいくらなのか。ディスカウントは価値>価格となっている投資機会を発見するために欠かせない要素なのです。

ディスカウントとは「リスクを加味した上で、どれくらい値切るか」ということです。【コラム】リスクの直観的な理解もぜひ読んでください。リスクという言葉の意味を感覚的に理解してもらえると思います。

嘘つき男 vs  正直者

2人の男が100万円を借りにきました。返済期間は5年。どちらの金利を高くしますか?これは明らかに嘘つき男ですね。なぜかといえば、嘘つき男は信用できないので、元本が返ってこないリスク(高値掴みのリスク)を加味すると、金利で回収していかないと損してしまうかもしれないからです。
嘘つき男には20%、正直者には5%の金利で貸すとしましょう

では、ちょっと視点を変えて、5年後に100万円きっちり耳を揃えて返してもらう仕組みだとどうでしょうか。返ってくる金額が決まっているので、貸す金額を変えて「損するリスク」を抑えましょう。どちらにいくら貸しますか?直観的に嘘つき男に多く貸してはいけないとわかりますよね。たとえば、嘘つき男には40万円、正直者には80万円ぐらいなら出せるとします。

上の2つは経済的には全く同じです。「リスクがある分、リターンを増やす」というのと「リスクがある分、少なく投資する」というのは同じことです。最初を100にするか、最後を100にするかの違いです。

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後者を「ディスカウント」といいます。あなたは、嘘つき男が信用できないので、将来の100万円に対して60%ディスカウントした40万円を投資しました。
60%がディスカウント幅です。実は、40万円貸して100万円返ってくる投資の平均年率リターンは約20%です。(40×1.2×1.2×1.2×1.2×1.2をやってみましょう。100ぐらいになります)。
このようにディスカウントは幅で表すこともできるし、年率で表すこともできます。年率バージョンを「ディスカウント・レート(割引率)」といいます。「要求利回り」「期待収益率」という言葉も使われます。
なお、最初の金利を付ける例の場合は、プレミアムといいます。リスクプレミアムという言葉で使われますね。

ここで皆さんは実は目標株価のようなものを決定しました。

嘘つき男株式会社は、5年後に100万円のキャッシュフローを生み出します。あなたは、主観的な判断に基づいて、割引率20%を適用し、40万円という適正価値を計算したのです。

30万円で嘘つき男が納得してくれたらラッキーです。でも、周りのお人好しが60万円を投資していても、便乗してはいけません。なぜなら、60万円という価格は逆算すると割引率10.8%だからです。当初、「こいつは信用できないから、20%のリターンを要求しよう」と思って40万円という適正価値を見つけたのに、10%ぽっちのリターンではリスクに見合いません。

このように「価値と割引率(=要求利回り)というのはコインの裏表の関係」なのです。

なにをもってディスカウントをするのか?

上記の例でも明らかな通り、割引率の違いで投資機会の価値は大きく変わります。

割引率は極めて主観的なものであり、その本質は「将来のキャッシュフローをどれだけ信用するか=キャッシュフローを生み出す仕組みをどれだけ信じられるか」という、いわば「信頼度や再現性」だといえます。ただし、主観的な判断とはいえ、客観的なデータが無意味ならわけではありません。

例えば、次の2社、安定社(日本:食品販売)とボラカンパニー(ブラジル:ガス採掘)の過去の5年のキャッシュフローを見てみましょう。

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ともに、この5年で10%成長しています。いま持っている情報から、どっちの割引率を高くしますか?

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私なら、ボラカンパニーの割引率を高くします。この会社は、きっと嘘つきではないのでしょうが、数字の再現性が信用できません。

過去の数字もブレブレだし、ビジネスの中身や所在地を考えても、ボラカンパニーの「5年後のキャッシュフローの信頼度」は圧倒的に低く、損をしないために「高い要求利回り=割引率」を使わないといけません。

実際の割引率

では大小関係はわかったけど、いったい何%を使えばいいのか?という疑問にお答えします。

基本的に、7.5%。信用度によって、5.5%から9.5%の間で決めれば問題ない

と思います。各種コンサル会社や証券アナリストが研究していますが、おおよそ上記の水準に入ると思います。将来がよく見通せるなと思ったら、5.5%寄り、まったく読めないと思ったら9.5%寄りを使いましょう。

なお、勉強されているみなさまにおいて、いやいやCAPMどこいったの?と思われると思います。たしかに一般的にファイナンス理論においては、CAPM(キャップエム)の成立を前提として、市場に対するβを計算して株式資本コストを計算し、さらに負債のコストを加味して最終的な割引率を算出しますが、いろいろな理由から私はこれに懐疑的です。割引率は「どれくらい値切らないといけないと思うか」という主観的で個別的な価値判断であり、とくに不確実のある株式投資においては、その根源はビジネスモデルから導かれる業績の安定感や経営陣の方針・実績などです。

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