見出し画像

【上級者向け】運転資本インパクトとバリュエーション上の注意点

これは苦手というか、気にしてない方が多いのでないかと思います。

今日は運転資本に焦点を当てて解説します。後半は、実際の素材メーカの数値例を用いて説明していきます。

運転資本とは

まず、運転資本とは事業を進めるうえで必要な短期の投資です。これはいわゆる設備投資ではなく、”業務を回す中で必要になる資金”というイメージです。以下の3つの構成要素があります。これを売上高月数で表現したのがCCC(Cash conversion cycle)です。単位は運転資本が円、CCCは"ヶ月"になります。

運転資本=在庫+売掛金-買掛金
CCC=運転資本/売上高×12

①在庫投資
企業が仕入でキャッシュを使ってから、販売する間(リードタイム)は、お金が入ってきません。この分、資金を拘束されます。分かりにくいですね。極端な例を考えます。例えば、八百屋と組み立てPC屋を考えます。

八百屋は、仕入れてから販売まで平均1日だとします。PC屋は3ヶ月だとします。どちらの商売のほうが少ない元手で商売できるでしょうか。これは八百屋ですね。

なぜなら、PC屋は3ヶ月間の間キャッシュが入ってこないので、手持ちのキャッシュが無ければ年間に4回転しかできません。したがって継続的にビジネスするためには余計な元手が必要になります。八百屋は翌日にキャッシュが戻ってくるので、仕入れて売るという1サイクルを2日で回せます。毎日取引しようと思えば、PC屋は3ヶ月間分、八百屋は1日間分のキャッシュを余計につぎ込んでビジネスを回さないといけません。両社の差は大きいです。月商の約3ヶ月分の現金が事前に必要ということだと結構重くないですか?

②売掛金
これは投資というか、会計上の売上と実際の入金のタイミングのずれを表します。PCを売っても、相手が法人だったりすると、3か月後支払いになります。一方、八百屋はその場で現金で回収しますから0日です。

どちらが、資金効率がいいでしょうか。これも当然八百屋です。PC屋はそもそも、仕入れてから3ヶ月間売上が立たない上に、さらに3か月間キャッシュが回収できないので、仕入れてから計6か月間は”販売したのにキャッシュが全くない状態”になります。これだと、手持ちキャッシュなしでは年間に2回しか取引できません。

③買掛金
これは売掛金の反対で仕入にかかる支払いの猶予ですね。したがって売掛金を相殺する項目になります。極端な話、買掛金の支払いサイト(期間)が取引から10年だとします(ありえませんが)。そうすると、10年間はまったくお金を使うことなくいくらでもモノを買えますので、めちゃくちゃ資金効率がよくなります。会計上で仕入が立っても、実際は全くお金を払っていないので、キャッシュフロー的にはコストは0です。

ただ、誰かの買掛金は誰かの売掛金なので、そんなことにはなりません。売ったのに10年間お金が入ってこないということは、10年分の売上に相当する資金を用意しないと普通に商売を回せないからです。これはあり得ません。

追加で考慮する項目
たとえば企業が新製品の開発やオーダーに対して前受金をもらう場合、これはある意味で売上の前倒しですからCFにプラスです。これが大きい場合、算入してCCCを計算したほうが正確になります。

運転資本の増加=CFのマイナス

まずはこれを理解しましょう。

運転資本の増加=営業CFの減少

売掛金が昨年末より増加したら、それは売ったけどすぐに回収できない分が増えたということです。他の条件が全く同じなら、営業CFの額は、売掛金が増えた分、減ってしまいます。掛売りではなく現金ですぐに回収してれば、CFがその分増えるのですから逆も当たり前ですよね。

在庫が増えた場合はどうでしょうか。これはややこしいです。完全に理解するには、原価に関する決算処理を理解しないといけないので、ここではイメージを覚えましょう。

仮に、3/30まで去年と全く同じ状態だったとします。しかし、期末日に材料を余計に買ってしまい、去年より在庫が増えたとします。この場合、利益には何の影響もありません。売れなかったものはコストにならないからです。しかし、CFにはマイナスです。実際お金を支払っているので。在庫が増えた分、キャッシュフローが悪化します。

結局、”運転資本が増えたら同額だけCFにはマイナス”なのです。


運転資本増加の影響(対売上)

ここでややこしいのが、売上対比の影響です。売上が増えればCCCが一定でも運転資本の絶対額は増えますが、売上もしっかり増えているので比率でみると増えなそうです。

なぜ、売上対比で計算するかというと、FCFマージンの計算に直接反映させるためです。FCFマージンはFCFを売上で割ったものなので、売上で割った形にするとDCFモデルの中で扱いやすくなります

ここはややこしいので、具体的に計算してみましょう。

画像1

計算方法は上記の通りです。まず、CCCから運転資本を計算して、その変化分をとるとCFへのインパクトになります。絶対値では増えていきますね。売上の比率で見たのが一番下段の数値です。

イメージ、CCCは燃費です。CCCが3⇒6に悪化すると、ビジネスの燃費が下がって同じスピードで進むにもキャッシュアウトが多くなります(-1.2%⇒-2.4%へ)。また、悪化した年は大打撃があることも分かります。大ダメージを食らった上に、ランニングコストも悪くなります。さて、ここでさらに成長率が加速するとどうなりそうでしょうか

質の悪いエンジンをふかすので何やら悪い影響がありそうです。

画像2

CCCは変えずに成長率だけ上げましたが、やはり売上対比の運転資本インパクトが増加しています。これはあまり理解されていません。

運転資本インパクトは、成長速度CCCの関数なのです。おそらくCCCの関数だと思っている人が多いと思います。こんな簡単な計算で確認できるのですが、意外にみんな手を抜きます笑

数式で書くと、売上成長率をgとした場合、

対売上の運転資本インパクト=g/(1+g)×CCC/12

となります。g=5%でCCC3の場合、5/105×3/12=1.2%となり、上記計算と整合的です。ざっくり暗算したい場合はg×CCC/12でいいと思います。


具体例でチェック

これはある日本の素材メーカーの実際のデータです。CCCを表しています。

ここから先は

1,076字 / 4画像
この記事のみ ¥ 100
期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

サポートしてもらえたら週5でアップできるかも!