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DCFから考える適正PER水準

上の記事は、DCFをPERにブリッジすべく書いたものですが、数式が多く実践的ではありませんでした。そこで今回挑戦するのは、DCFの主なパラメータである

①10年間成長率
②永久成長率
③割引率

の3つを動かしながら、適性なPER水準は何倍なのかということを考える実験です。もちろんDCFベースで話を進めますので、まず実験のためのDCFツールを作ります。ファイルは最後に添付しておきますので安心してください。

簡易DCFモデルの作成

DCFなんて難しく考える必要はなく、基本的に上の3つのパラメータがあればできてしまいます。実際の企業価値評価においては、当然様々な利益項目、CF項目、ビジネスモデルの理解、となかなかの作業量ですが、こういう計算関係は全くもって難しくありません。

まず、CoE(割引率)10Yg(当初10年の成長率)永久成長率(LTG)、debt/FCF(対FCF負債)を変更できるようにしておきます。この4つの項目で株価は表現できます。負債が入っているのは、このnoteで採用しているunlevered FCF(負債がないとして計算したFCF)を使ったDCFでは、BSの左側(営業資産)の価値を求めます。したがって、最終的に株価を計算するには、そこから負債を差し引く必要があるということです。PERは負債の影響を受けますので、注意してください。この実験ではFCFの200%(EBITDAの0.8倍程度をイメージ)で固定しています。是非この数字も変えてみて、どのくらいPERに影響があるか確かめてみてください。

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なんといっても大事なのは、10Y gですね。そこで、太字にしていますが、10Y g をどんどん増やして20%まで変化させたときの株価(PER)の変化を見ていきます。この例ではLTGは0%で固定します。いろいろ一気に動かすと何が効いているのか分かりませんからね。

実際に答えをみるまえに、まずエクセルの作りですが、縦にみていきます。D6セルにある100というのが終わった期のFCFです。それが、10Ygの速度で成長していきます。Tはターミナルです。ここでの数式は少しトリッキーです。

T=FCF10×(1+LTG)/(CoE-LTG)×(1+CoE)

となっています。FCF10は10年目のFCFですので、E列の場合は105です。(1+LTG)をそれにかけると、11年目のFCFを表しますよね。LTGというのは難しく考える必要はなく、10年目以降の成長率ですから11年目を求めたければ10年目に(1+LTG)をかける。それだけです。なぜ11年目かというと、無限等比級数の和の公式により、10年目末時点の価値を出すには、そこからみて1年目(全体では11年目)のFCFをCoE-gで割らないといけないからです。算数的な理由です。

最後の(1+CoE)が違和感あると思います。これは実際にはターミナルイヤーの価値としては間違っているのですが、NPV関数を使いたいがために、1年分利殖しています。実はモデル的には、10年目のFCFとターミナル価値は同時点です。ただし、NPV関数は数値が1つずれると1回割引回数が増えるという関数なので、見た目的に10年目の次(=11年目)にターミナルがあると、余計に1回割引してしまいます。そこで、それを逆手にとって、1回分多く割引率で増やしておきます。そうすれば、1回余計に割り引かれても問題なくなります。

これでEVが計算されるので、そこから負債を引きます。FCF100の200%で負債=200としています。株式価値にするには、EVから負債を引いてください。

PERは、こうして計算された株式価値を、1年目のFCFで割ったものです。厳密にはFCFと純利益は違いますが、ここではその細かい違いは無視します。これで、DCFにおける主要3インプットごとにどれくらいのPERになるべきかということが見えてくるはずです。

(注意)
実際は運転資本の影響や、非現金項目の影響でずれます。とくに運転資本は恒久的に差が出てきますので、運転資本を多く喰うビジネスの場合、この実験で求めたPERは少しディスカウントする必要があります(FCF=純利益を仮定しているが、FCF<純利益なのであれば、実際はFCFが少ない=企業価値が 小さい⇒それを同じ純利益で割った商であるPERは小さくなる)。

実験結果(CoE8%,LTG0%)

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横軸に10Y gを取って、縦軸にPERを取ります。これはさきほど添付した、LTG=0%で割引率8%の場合です。例えば、今後10年間は成長率0%⇒永久成長率も0%というシナリオの適正PERは10.5倍になります。

ポイント①株主価値は10Y成長率に対して加速度的に上昇
これは非常に重要です。成長率が高まっていくと、”思ったより”PERが上がっていきます。これは、成長率gが公式=FCF/(CoE-g)の分母にあるからです。gは定率の永久成長率ですが、10Y成長率を含んでいますので、やや雑ですがこの理解で問題ありません。

永久成長率0%というのは、割引率8%の世界観の中では、かなり弱い部類(日本株ではCoE8%とLTG3%が標準的なレベルと思ってください)ですので、そんな会社が今後10年間は15%CAGRで成長するというのは違和感ありますよね。したがって現実的には「標準リスクの業態で成熟産業」であれば、PER10-12倍ぐらい、というのが目安になります。

ちなみに利益率は関係ないのか?と思われた方は、改めて利益率とPERの関係を確認してみてください。

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