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『世界の終わりの魔法使い 完全版』1-3電子刊行に関する覚え書

 2020年3月6日に作品の15周年を記念して『世界の終わりの魔法使い 完全版』1-3巻を個人電子出版レーベル「島島」から一挙リリースする。先行する『ディエンビエンフー 完全版』1-12巻、『アオザイ通信 完全版』1-3巻に続く第3弾配信。これで「島島」の電子書籍は合計18冊になった。

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 『世界の終わりの魔法使い』は著者にとって2冊目の単行本となる一冊完結の長編ファンタジー。荒廃した世界で、魔法使いサン・フェアリー・アンと少年ムギが出会い、大冒険する物語。最初の単行本は2005年に河出書房新社より描き下ろしで刊行された。


 

 略称は「せかまほ」。順調に版を重ねシリーズ化し、第二作『恋におちた悪魔』、第三作『影の子どもたち』、版元を変え講談社から第四作『小さな王子さま』の4冊をリリース。関連書籍も1冊存在する。NHK-FM「青春アドベンチャー」でのオーディオドラマ化や、「SMAPxSMAP」のブリッジ映像に起用されるなど、さまざまなコラボレーション展開もされた。

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 2020年は作品の誕生から15周年。既刊4作に描き下ろしで新作『5』『6』を加えてリリースする「新三部作構想」を企画として提案したが、最近作である『4』から数えても8年、版元目線では『3』の刊行からすでに10年以上という長いブランクと、昨今の出版状況から企画成立は難しく、それを受け、出版社に頼らずセルフ・パブリッシングで「三部作」「新三部作」合計六冊を個人で制作、順次電子刊行することにした主な理由は以下。

 【1】企画立案時に既に『5』『6』のネーム(マンガの設計図)が完成しており、明確な「新三部作」構想ができていること

 【2】『世界の終わりの魔法使い』シリーズの紙の単行本の半数以上が品薄もしくは絶版に近い状態であり、かつ重版が容易にはできないこと

 【3】電子配信代行「電書バト」を経由した『ディエンビエンフー 完全版』のリリースにより、電子書籍が広く的確に読者に届くことが証明されたこと

 【4】出版社からリリースされている電子書籍のクオリティが実は低かったこと(特に、カラーページ! でも電子刊行自体が大昔だから仕方ない)

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 また、今回の経緯はBUNCAでの連載『文化の破壊と創造』で紹介済み。心の叫びではなく、あくまでドキュメンタリー的な創作としてお楽しみいただきたい。「島島」からのリリースに当たっては各社の担当者と相談の上、電子&紙の出版契約を改訂した。

「文化の破壊と創造」その1

「文化の破壊と創造」その2

「文化の破壊と創造」その3

 電子書籍『世界の終わりの魔法使い 完全版』ではデザインを一新。新デザインは金田遼平(YES.inc)が担当。デザイナーの変更は「権利上旧版と同じデザインは使いにくい」というネガティヴな理由からではなく、「15年前の紙の本」としての正解よりも「2020年の新しい電子書籍」を求めたため。書籍だけでなく、コーポレイト・ロゴや動画、WEBまでを手がける柔軟さこそが本書のために必要だった。

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 結果、「破壊と再生、そして最適化」として「物語性とデザインを規定するフレームを分解する」というコンセプトが生まれた。文字のレイアウトや配色についても「紙の本のルール」に縛られないことを望んだ。地図ページや本編の各話に挟まれる扉もカラー化。「折り」を意識せず自在にカラーページを挟めることは電子書籍ならではの試みだ。

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 リリース済みの『ディエンビエンフー 完全版』1-12巻同様に、奥付にはクリエイティヴ・コモンズ・ライセンスを実装。作者発信のCCライセンスにより読者は引用やスクリーンショットを自由に行える。

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 『ディエンビエンフー 完全版』は書誌データでは「青年マンガ」としたが、これは掲載誌「月刊IKKI」が青年誌だったことが由来。『世界の終わりの魔法使い』描き下ろしの全年齢向けファンタジーなので、ジャンルを「少年マンガ」とした。強い確信があるわけではなく、「試しに違う場所に置かれてみよう」という実験。書誌データの反映はストアに委ねられる。kindleでは「ファンタジーマンガ」として扱われる。

 タイトルは電子書籍として手に取りやすいように改めた。紙の本の『恋におちた悪魔 世界の終わりの魔法使いII』というタイトルは、書店に対して「シリーズ続巻」よりも「新刊」「独立した本」を印象付ける。しかし、電子書籍のストアでは伝わりにくい。まず巻数のローマ数字をアラビア数字に変更、タイトルを「シリーズタイトル/巻数副タイトル」の順にまとめ、2巻は『世界の終わりの魔法使い完全版2恋に落ちた悪魔』とした。以降の続刊もそれに準じている。

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 作品制作を進めるのと並行して、一連の試みを企画書にまとめ、令和元年度の「文化庁メディア芸術クリエイター支援」に応募。これは文化庁メディア芸術祭の入賞または入選者を対象にした育成支援プロジェクト。企画は採択され、この予算により、新規デザイン費や、今後予定している別作品のデータの調達費(各版元、関係者への配慮により実例は出さない)などを補填することができた。しかし、紙を刷るほどには潤沢ではないため、「私家版」という簡易的なPR冊子を除き、プロジェクトの目指す場所はあくまで「電子書籍」とした。

 また、支援アドバイザーの磯部洋子しりあがり寿との面談により、単なる作品制作や個人的なビジネスを超えて企画自体に「公共性」が要請された。これは、読者やクリエイターに対して創作と複製を促す「影の魔法のライセンス」というアイデアに繋がったが、このライセンスはやや難解なので、後日、別記事にて詳細に説明する。

 紆余曲折を経たが『世界の終わりの魔法使い 完全版』1-3巻大幅なアップデートを施され刊行される。旧版元である河出書房新社、講談社の理解と協力、新・旧デザイナー、メディア芸術クリエイター支援のアドバイザーと担当者、電子配信代行「電書バト」他、関係者への感謝もここに併記する。(文中敬称略)

 プー!(魔法の言葉で「愛している」の意味)

(西島大介・島島)

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 で、で、で、で。ここからが話長いんですけど、とにかくこの「影の魔法のライセンス」については謎が多いと思います。pixivFANBOXでは先行して全文公開しています。創作と物販(クリエイティブ&ビジネス)を試みたいユーザーにとっては便利なはずですが、「なぜそれをやるのか?」は伝わりにくいかもしれない。なので記事を改めます。雑に言うと、物語までを含んだ「せかまほ」の「いらすとや」化あるいは「クトゥルフ神話」化です。コピーOK、二次創作OK、売っても、法人もOKです。せかまほの奴隷化方宣言、あるいは僕自身の奴隷化か? 純粋に「創作と複製」を促し、コピー数を増やせば増やすほどユーザーの自由度が上がる仕組みです。ぜひご参加ください。下記はその草稿。この時点では明らかな「CCコモンズ」インスパイア系です。そういえば、昔キャラ作ってましたね。

Shadow_license のコピー

 企業にできないことも個人ならできちゃう。不利益も多少のリスクも、僕が引き受ければOK。また、「想定されるリスク」は物語上の「影」魔法の副産物「魔物」に相当します(ここ大事! 物語のテーマをなぞる)。「豊かな発想で未来を実装」島島を引き続き宜しくお願いします。

タグは「#影の魔法のライセンス 」に統一しようかなと。追跡します。

 また、3/6から下記日程で銀座にて成果展が開催されます。ここでは「影の魔法のライセンス」の実用例としてボードゲームやアクセサリーを展示予定。厳密に言えば展示されている何かは「影の魔法のライセンス」という「概念・ルール」なのかもしれません。

 3/14の文化庁主催のクリエイタートーク「ENCOUNTERS」では、西島の出番はトップバッター。お話しの相手のタラ・マキネニーさんは日本の二次創作についてリサーチされている作家さんなので、必然性のあるブッキングだと思います。こちらもぜひ。他登壇者の方も面白そう!

「ENCOUNTERS」

令和元年度メディア芸術クリエイター育成支援事業成果プレゼンテーション
日時:2020年3月6日(金)〜 14日(土)
会場:東急プラザ銀座
入場無料 / 申込不要
主催:文化庁
協力:東急プラザ銀座、METoA Ginza


[プロジェクト紹介展示] 11:00〜21:00
東急プラザ銀座3F・4F・6Fみゆき通り側エスカレーター横
10F・11Fパブリックスペース、RF グリーンサイド

勉強会4

 さらに!! 東急プラザ銀座の成果展はあくまでプレゼンテーションなので商業施設なのに物販なし。ご支援予算はありがたく使い切ったし(pixivFANBOXではいつでもご支援受付中!、銀座一等地で稼げないってもったいない。そんなわけでその前日13日に前乗りし、自主開催イベント島島 presents「無理ない範囲の勉強会4〜文化庁の裏側に〜」を開催します。こちらは物販あり、エロ漫画家「師走の翁」先生のDJあり、吉田隆一さんによるジャズSF論あり、レクチャーありの勉強会。アンチではなく「公共性」をアンダーグラウンド側から照射する良いイベントだと思います。ご予約ください!

 キラー通りの志高き私設美術館の牙城「ワタリウム美術館」のカフェ、ギャラリーを併設する書店「オンサンデーズ」でも文化庁主導成果展の真裏で、展示、ゲーム試遊、物販なども行う予定です。今流行りのボドゲ・カフェです。詳細をお待ち下さい!

 で、肝心の『せかまほ5』の進捗は? ペン入れ中〜〜〜(箒に乗ってヒューン)

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