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「一期一会カタリバ横丁」  3人目の客人 坂詰健一さん(ミニカー専門店店主) <あえて高いミニカーを店に置く理由>

今回の「ゲスト」

プロフィール

坂詰健一(さかづめ けんいち)
絶版トミカの品揃えに定評があるミニカーショップ「ケンボックス」(西新宿)を2010年にオープン。主催者として京王プラザホテルで「新宿おもちゃカーニバル」を毎年開催している

カタリバ横丁の「ホスト」

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パリなかやま
ギター流し/流し歌手。2008年、亀戸横丁で流しデビュー。2009年、恵比寿横丁流し参入。平時は恵比寿横丁にて20時~平日中心に営業。コロナ禍はオンライン流し展開中。ほか有楽町、新橋、吉祥寺、溝の口などの街とも提携。レパートリーは昭和から平成、演歌からJPOP、洋楽まで含め2000曲ほど。大抵のことは笑顔でこなすピースな流し。出張の流しでは冠婚葬祭、同窓会、送別会、あらゆる催しに対応。場所は野外、個人宅、屋形船、温泉宿、喫茶店、場所を選ばずオンデマンド。2014年書籍「流しの仕事術」を代官山ブックスより発売。平成流し組合代表。現在流し50名程活躍中。https://www.nagashi-group.com/

その他_音楽歴等
2004年 日本クラウンより「人生に乾杯を!」でメジャーデビュー(コーヒーカラー名義)

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飛鳥とも美(あすか ともみ)
演歌歌手、流し見習い。座右の銘は「死ぬこと以外はかすり傷!」。2013年6月、ビクターより「あなたに決めました」でデビュー。2014年、「日本作曲家協会音楽祭」奨励賞受賞。2015年11月には、台湾にてミニアルバム「大家好! 我是飛鳥奉美。」を発売、台湾南投縣観光親善大使としても活動開始。2017年、三重県津市を舞台とした″レ・ロマネスク”の「津の女」をカバー、2018年6月に、新曲「絆道 -きずなみち-」を発売し、現在 精力的に活動中。

ミニカー専門店の最年少店主

パリ みなさん、こんばんは。一期一会カタリバ横丁のお時間です。

飛鳥 こんばんは!

パリ ゲストの坂詰健一さんは“レアもの”のトミカを多数扱っているミニカー専門店「ケンボックス」を西新宿で経営されています。坂詰さん、お店は何年目になりますか?

坂詰 丸10年になります。

飛鳥 節目の年ですね、素晴らしい。ZOOMの背景に店内が映ってますが、ズラーッと棚に品物が並んでますよね。全部で何品ぐらいあるんですか?

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坂詰 店内には1万台あるかないかぐらいですかね。わからないぐらいあります。あ、ネット通販のほうのラインナップは1万5千台程度ですね。

パリ 凄い数ですね。僕たちはミニカーの世界をあまりよく知らないのですが、ミニカー業界の中ではケンボックスはどういうポジションのお店になるんですか?

坂詰 個人でやっているミニカー専門店の店主では僕が「最年少」ですね。

飛鳥 最年少!?

坂詰 はい、たぶん僕を最後に、個人でやっているミニカー屋さんはいないと思います。ミニカーの買い取り専門店は多いんですけど、買い取って販売もするのはミニカーの知識がないとできない世界なので、やろうと思ってもなかなか難しいんですよ。

パリ 確かに。お金儲けのためにはじめるというのはなさそうですよね。

飛鳥 きっと坂詰さんもミニカーが好きすぎて、ミニカーとともに生きていきたいとはじめたんですね。

坂詰 他にできることがなかったということですかね(笑)。

パリ ケンボックスは開店当初からミニカー専門店だったんですか? それとも他にもいろいろなオモチャを売っていて?

西部警察に憧れてミニカーにハマった

坂詰 トミカが主軸になったのがいつからかは忘れましたけど、何が売れるんだろうと売れるものを集めていったらトミカになっちゃったという感じですね。僕は、ミニカーは昔から好きなんですけど、トミカというものにはそこまで没頭しなかったので。

パリ トミカとミニカーは何が違うんですか?

坂詰 トミカは俗にいう3インチ、64分の1という手の平に載るようなサイズなんですね。ミニカーは43分の1で、もう一回り大きい。僕は子どもの頃から西部警察が大好きで、登場する車をコレクターとしてずっと集めてたんですよ。

パリ 西部警察に出てくるセドリックとか?

坂詰 そうです。セドリックやスカイラインなどの日産社ばかり集めていて。

飛鳥 西部警察のどこが好きだったんですか?

坂詰 4歳ぐらいからリアルタイムで見ていて、かっこいいと思いました。カーチェイスをしていて、あれが映画じゃなくドラマだというのが凄いんですよ。今はCGで何でもできますけど、当時はガソリンを使っていて。そういうところに感銘を受けましたね。そうしたら親戚のおじさんがミニカーを買ってきてくれて、そこからハマりました。

パリ 刑事には憧れずに車に憧れて、そこからコレクションがはじまって。

坂詰 はい。大学生になると、バイトしたお金が全部ミニカーに消えてました。

パリ おー、それは相当ですね。今はそういう人たちを相手に商売をされているのがケンボックスだと思いますが、当時もそういう店はあったんですか?

坂詰 ありました。お店は日暮里、駒込など、いろいろなところにありましたね。

パリ イメージでいうと鉄道模型のお店みたいな感じですよね。確かに鉄道模型、僕も小さい頃は遊んでましたよ。

飛鳥 コレクションしたがるのって男性が多いですよね。

パリ そうかもしれませんね。ケンボックスもお客さんは男性が多いですか?

坂詰 圧倒的に多いですね。年齢層は幅広くて、学生もいれば、サラリーマンの方も。おじいちゃんまで、たくさんの方が来てくれます。

奥さんの「やればいいんじゃない」の一押し

パリ 子どもの頃からミニカーにハマり、大学生になるとバイト代全てをつぎ込んでいたコレクターの坂詰さんは、どうしてお店をはじめたんですか?

坂詰 趣味がこうじてやってしまって。お嫁さんの背中の一押しもあって、ですね。

飛鳥 どんな一押しだったんですか?

坂詰 「自分の知識を生かせる仕事はミニカー専門店だ」と言ったら、たった一言、「やればいいんじゃない」と言ってくれたんです。

飛鳥 良い奥さん! こんなこと言ったらアレですけど、成功するかどうかもわからないのに。

坂詰 本当そうですよ(笑)。そのときに男ってくよくよしますよね。その一言でどれだけ気が楽になったことか。

飛鳥 ミニカー屋さんの前は何をされてたんですか?

坂詰 社会人をやってました。うちの近所の知り合いの会社で3年間、サラリーマンでした。社会人がそんなに面白くなくて、おぼろげにいつかはオモチャ屋さんやりたいなというのはあったんです。

飛鳥 その頃から心の中にあって。

坂詰 はい、ただ、それから一度は家業を継ぎました。父親が新宿で80年続いたうなぎ屋をやっていて、僕は「継ぐな」と言われてたんですけど、長年続いた店だから「わかりました」と言えなかったんですよね。大変な仕事だから息子には違うことをさせたかったんでしょうね。父は「自分の知恵でごはんを食べていけるような仕事をしなさい」とずっと言っていて。

飛鳥 良い方に恵まれてますね、奥さんにしても、お父さんにしても。

「良いものを集めれば経営は成り立つ」と思っていた

坂詰 ラッキーで幸せです。父親が倒れちゃったので一度は継いだんですが、僕が継いだ年の2008年にリーマンショックがあり、2011年には東北の地震があって、それがトドメになって3年間で辞める決意をしました。

飛鳥 なるほど。それからミニカー屋さんをオープンされたんですね。

坂詰 いえ、じつは2010年からミニカー屋もはじめたので、時期は重なってるんです。

パリ 飲食店を経営しながらもミニカー専門店をはじめたのは、以前は自分自身がお客さんの立場だったから「良いものを集めれば経営は成り立つ」という予感があったからですか?

坂詰 ありました。でも、それがめちゃくちゃ大変なのも知ってました。

飛鳥 どういうところが大変なんだろう?

坂詰 お客様のコレクション品を買い取るわけなんですけど、お客様がもってるものは決まってるんですよ。要は、高いものは少なくて、高いものほどみんなもってないんです。お店としては1万円のものを売りたいんだけど、みんながもってないから買い取れないし、だから売れない。お店としては看板になるから希少品を集めて高く売りたいんですけど、そう甘くはないですね。

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パリ 絶対数がないから回ってもこないし。

坂詰 そうです。だから売ったら終わりなんですよ。みんな欲しいから売るのは簡単なんです。でも、2個目、3個目といつ出会えるの?というと、いつでしょうねという。古いものを買い取って販売するお店はどこもそういうところがしんどいんじゃないんですか。

パリ それはこの業界に入る前からわかってたと。

坂詰 覚悟はしてましたけど、お店をやれば簡単に手に入るものだと思ってましたから。でも、本当にないんですね(笑)。

パリ そうすると、最初は自分個人のコレクションをさばいていって?

坂詰 そうです、最初は球数が少ないですからね。自分のコレクションのほうが自信がありましたから。

買いたいものと欲しいものの「せめぎあい」

パリ 中古ミニカーの買い取りが坂詰さんの仕事の面白いところだと思うんですが、個人で経営しているミニカー専門店なので、ミニカーの見極めも坂詰さん個人の視点や好みが出るということですよね?

坂詰 自分の肌感覚でやっているから、普通に私情も絡みますよね。自分が好きだから、好きじゃないからと。

パリ でも、好きだからと言って全く売れないものを扱っちゃうわけにはいかないし。

坂詰 そうですね。ごはんを食べないといけませんからね。せめぎあいですね。

飛鳥 売れるわけじゃないけど、どうしても欲しくて、自分のために買い付けるということも時にはあるんですか?

坂詰 多々あります(笑)。

パリ 僕からしたら中古ギター屋さんをやっちゃうようなものですよね。置けないから買っては売ってということになっちゃって、売らざるをえないという。

飛鳥 やっぱり商売なので、自分のお気に入りで手元に置いておきたいものがお客さんのお眼鏡にかなったときは売っちゃうんですか?

坂詰 売りましたね、昔は。良いものに限って売れちゃうんですよね。僕が手元に取っておきたいものに限って売れるんですよね。

パリ その仕事には自分のところに来たら手放さないといけない苦しみもあるというね。

坂詰 そう、商売と割り切らないといけないんですよね。

飛鳥 それが坂詰さんのお仕事の難しいところですよね。趣味のコレクターのままでいる人と、坂詰さんのように仕事にする人の間には、どのような差、境目があると思いますか?

どうせ死ぬなら「楽しいこと」「利があること」を

坂詰 なんだろう、考えたことなかったな。お店やると従業員もお客さんも共通項はコレクターなので、みんなでワイワイ騒げるんですよね。だから楽しいですよね。みんなから知識を教わるところもあるし。だから線引きはあまり考えたことないな。

パリ それでもお店までやっちゃう人はそうはいないわけで。坂詰さんはコレクターグループの中でもリーダー的な存在だったんでしょうね。

坂詰 うーん、どうでしょうね。売買が面白かったんですよ。ミニカーの交換からはじまって、誰かが「これ探してるんだよね」と言えば「もってるよ」からはじまって「千円でどう?」というのが昔はありましたよね。

パリ そういう意味では、コレクターと商売に境目はない、と。

飛鳥 わかるなぁ。たとえば私は歌い手をやってますけど、「楽しく歌っていたいから趣味のままでいたい」という人もいるんですよね。私はいろいろなことが楽しいので、辛いこと、大変だなと思うことがあっても、それを乗り越えていく楽しさがあったりします。

坂詰 もちろん今も辛いことは多々ありますけど、楽しいが勝ってるので。10年があっという間でしたね。

飛鳥 わかるわかる。それで濃いですよね。

坂詰 濃いですね。僕は父親を10年前に亡くして。人っていつ死んじゃうかわからないじゃないですか、明日生きてる確率って50%じゃないので。そう思うと、歌うにせよ、ミニカーにせよ、自分に利があることをやるのがいいかなって。

飛鳥 うん、どうせ同じ生きるのなら1分、1秒でも嫌々やるよりも大好きと思うことをやったほうがいいと私も思います。

坂詰 父親の死がターニングポイントかはわかりませんが、どうせ死んじゃうんだから好きなことをやって死のう、うれしいことで悩んで死のうと、前向きなことを考えたいなと。人って妙に自分は死なないものだ、長生きするものだと思うじゃないですか。でも、やっぱり運命なのか人って死んじゃうから。平等なんですけどね。

頑張ったら、頑張ったぶんだけ返ってくるのが楽しい

飛鳥 楽しい中にも辛いことが日々あるという話がありましたけど、実際に仕事で辛いことや大変なことは何ですか?

坂詰 お店には多種多様な人が来るので、臨機応変さが求められますよね。買わせてくださいという人もいれば、買ってやるという人もいて。三者三様なので。人との付き合い、出会いは楽しいんですけどね。

パリ 接客の大変さがね。前職のサラリーマン時代は接客業だったんですか?

坂詰 新宿で飲食店をやっている会社の本社勤務で、スーパーバイザーのようなポジションだったので接客業ではないですね。

パリ それから自営業になって自分で接客をやると大変なこともありますよね。自分が好きではじめたから頑張れることもあるということなんでしょうね。

坂詰 そうですね。いろいろありますけど、うちがずっと自営業の家系だったし、頑張ったら頑張ったぶんだけ返ってくるのは楽しいですよね。

パリ そうすると、やはり苦労よりも楽しみのほうが大きい。

坂詰 表裏一体なんでしょうけどね。僕はラッキーだなと思うのはどんなに大変な場面があっても、お嫁さん然り、いろいろなスタッフの方が助けてくださるんですよ。

パリ 優秀なスタッフの方がたくさんいるわけですね。社長の坂詰さんの業務は具体的に1日がどんな感じで進んでるんですか?

坂詰 だいたいお店にいますね。買い取りが来れば対応する、お客様が来たら接客すると、当たり前のことですね。あとは、僕は他店舗のご主人とコミュニケーションがとりたいんですね。自分のお店を守ることも大事なんですけど、それも大事な仕事の1個だと思っていて、世間話をしに行くだけなんだけど、まめに顔を出してますね。

パリ 会いに行くと思わぬ話が聞けたりして。

坂詰 やっぱり知らないことが多いし、情報収集をしたいですよね。個人事業なので、コミュニケーションが少ないじゃないですか。

個人事業主は外の空気を吸うことが大事

パリ そうなんですよ。僕たち流しも個人事業なのでよくわかりますよ。

坂詰 個人事業の人間は外の空気を吸うことが大事だと思いますね。頭が凝り固まっちゃいますから、柔軟でいたいなというか。

パリ うん、自分がボスだと「これでいいんだろうか」的なところありますよね。裸の王様というかね。たまたま売り上げが去年までは来てたけど、世間ではじつはもう違うやり方がはじまってるとかあるかもしれないしね。

坂詰 そうそう、僕がやってるのが最先端と思うと大間違いなので。

パリ 最先端は絶対にどこかでやってるんですよ。それは1人でやってなくて、連帯してる人たちが知恵を出して、新しいやり方が生み出されたりするんですよね。

坂詰 そうですよね。スタッフとのコミュニケーションも、外部とのコミュニケーションも大事にしています。卯月(パリ)さんの流しのイベントや歌声喫茶にも僕は行きましたけど、いろいろな多業種の人と出会えるから好きなんですよ。

パリ 歌声喫茶は坂詰さんが企画してね。仕事が大変ななかでも外部のイベントを企画しちゃうというところが、坂詰さんはやっぱり非常にアクティブなんですよね。僕は面倒くさがりで、そういう意味では保守なので見習いたいですね。

坂詰 いやぁ、お嫁さんが一番大変です(笑)。

パリ 従業員のことも含めて奥さんがいろいろやってるんですか?

坂詰 そうですね、サポートをしてくれますね。

飛鳥 本当に坂詰さんは好きなものを身の回りに置いて、好きな人とお仕事をするという信念があるんですね。

坂詰 そうなってますね。好きな人と仕事ができて、好きなものに囲まれてるというのはありますね。だから、辛いこともそんなに感じないんでしょうね、きっと。

高いミニカーが置いてあることがお店の価値になる

パリ お店の売り上げを上げていくためにさまざまな工夫をされてきたと思いますが、経営における閃きやアイデアがあったら教えてください。

坂詰 ミニカー屋っていうのはニッチな業界です。けど、ニッチはニッチでもそれなりのファンがいます。そこで僕が最後発の個人事業のミニカー屋として何ができるかというと、とにかく良いものを買って仕入れちゃうことですね。だから他店舗の高いミニカーを買っちゃいますよ。

飛鳥 高くても思い切って買っちゃうと。

坂詰 そう、思い切って買うことがお店の広告宣伝費になるから。「ケンボックスは価格は高いけど良いものがいっぱいあるね」と、お客様を驚かせたいというのはありますね。ただ、そうやって買ったミニカーはそもそも売る気がないから怒られちゃうんですけど(笑)。

飛鳥 いいですね。自分が好きなものを買って、お店の価値が上がるわけじゃないですか。良い相乗効果になってるということですよね。

坂詰 そうですね。おかげさまで他のお店のご主人とも仲良くさせていただいてるので。どのお店も以前は僕がお客さんだったんですけど、同じ商売の土俵に乗ってきたから嫌なところもあると思うんですよ。でも、「坂詰くんなら」と言って売ってくれるのはありがたいですね。

パリ 最年少ということは他のお店からしても息子のような存在であったりね。その人たちも老舗なわけだから、引退したときに全部、お店のミニカーがケンボックスに集まっちゃう可能性もありますね。

坂詰 うーん、どうでしょうねぇ。

パリ あると思いますよ。だってライバルだなんだと言っても最終的には業界を残したいと思うのが人情だと思いますし。だったら「坂詰くんに」ってね。ポッと出じゃなくて、子どもの頃から筋金入りの人に……という可能性はありますよね。

飛鳥 買い取りでは高いミニカーを買うということでしたけど、販売のほうではどのような工夫がありますか?

ギター流しにも共通する「価格づけ」

坂詰 オープン当初は販売価格をわざと高くしてましたね。お客様は店を選ぶ権利があるけど、店も客を選ぶ権利があるからと思って。それでコンディションの良い希少品に突っ張った値段を付けて売っていたら、「ケンボックスで買えば良いものが買える」と、実績になりましたね。

飛鳥 信頼が生まれたんですね。

坂詰 そうですね。最初は高く、価値あるように見せたかったんです。そういう存在と演出したくて。

パリ 大事ですよね。趣味で集めたり、集めて喜ぶもののわけだから、思い切りそういう方向にしたほうがいいですよね。

坂詰 えぇ、ミニカーなんて人生にとって一番関係ないじゃないですか。でも、小さい頃ってほしいものってだいたい高くて、そういうものへの憧れってありましたよね。それを今も続けたいなと思ったんです。

パリ 手が届かないから余計に価値を感じちゃうというかね。

坂詰 それもありますし、僕は実際に何千、何万とミニカーを見ていて、「ないものはない」とわかるから、どうしても価格にも差が出ちゃいますよね。

パリ やっぱり数のせいで自動的に価格差が出るということですか?

坂詰 そう思います。みなさん、今でも「ケンボックスは高い」って言うんですよ。だけど、このミニカー1個手に入れるのに、どれだけの頭を下げて、どれだけ経費使ってるのか(笑)。僕の苦労を知らずになぜ高いとか言えんだろうというのは正直ありますね。そのかわり、コンディションの良い、きれいなものを出してますよ。

飛鳥 その理念、考え方は大事かもしれない。良いものを手に入れるためには大変な思いをして、苦労してるんだということがその価値になるわけだから。

坂詰 僕の言い方は乱暴だったかもしれませんけど、良いものはよく見せて、お客様にも僕にも利があるような展開にしたいですよね。

飛鳥 私も自分を安売りしちゃいけないなって思った。ちゃんと価値があるように見せていくことが大事なことなんだなと。

パリ 見せていくというか、実があって、準備があってね。磨くだけじゃなく、手がかかってるということですよね。僕たち流しも自分自身が生身で売り物になるわけだから、もっと値付けを強気にやってね。それもそうですよ。どこに商品として自分を置くかによって値段も変わるわけだから。選択ですよね。

アジアのお客様の変わったこだわり

パリ Googleにケンボックスの店舗レビューがあって、海外のお客さんがいっぱい書き込んでるんだよね。

坂詰 へー、うちの?

パリ あ、見たことないですか? お客さんは海外の人も多いのかなと思ったんですけど、どうですか?

坂詰 多いですね。特にアジアの方は日本のものが好きなので。1月ぐらいまでは凄かったですよ。

パリ 大人買いですか?

坂詰 大人買い。買ってくださるのはうれしいんですけど、仕入れが大変なんですよ。欲しがるものは決まっていて、なくなっちゃうから。

パリ 何が欲しいかわかってるんですか?

坂詰 アジアの方は80年代のシビックやMR2など、80年代の日本の車が好きなんですよ。ジャッキー・チェンが映画で三菱スタリオンに乗ったり、いわくや因縁が何かあるんですね。日本人コレクターは順番に1番から集めたいんだけど、アジアの人は同じものが何十個あってもいいんですよね。

飛鳥 えー。同じものでいいんだ。

坂詰 いいんですって。考え方が全く違くて嘘だろうと思ったんですが、そういう文化らしいですよ。何でもいいわけじゃないんですよ。

パリ 何人もが同じものを大量に欲しがると、被っちゃって大変ですよね。

坂詰 そう、だからみんなお菓子やケーキをもってくるんですよ。

コロナ自粛でもネット通販は好調だった

パリ 何それ、裏金みたいな感じで? 入ったら連絡くれよと。

坂詰 そう、順番待ちで。

飛鳥 いいですね、人間臭い感じが(笑)。

坂詰 海外の人は日本人が好きなので、やたらフレンドリーになります。僕は英語しゃべれないながらも「ケンさん、ケンさん」と言ってくれるとうれしいですね。

飛鳥 1月までは大人買いで凄かったということですけど、3月頃からコロナで自粛モードになって、やっぱり影響は大きかったですか?

坂詰 お店は誰も来なかったですね。ようやく最近、来客は増えてきたけど、6、7月は散々でした。

パリ その間はどのような対策、工夫をして乗り越えたんですか?

坂詰 うちはネット通販もやっているので、通販のほうに力を入れました。だから、通販はめちゃくちゃ元気でしたよ。

パリ お客さんも店に行きたくても行けないからネットで買うわけですね。

坂詰 そうです。その期間は通常よりも1.5倍、2倍の量をネット通販に毎日出しましょうと言って。めちゃくちゃ大変なんですけど、スタッフのみなさんが頑張ってくれたので、何とか乗り切れましたね。

パリ Web頑張れと。僕らもリアルの場での流しができずにZOOMでオンライン横丁をはじめたので一緒ですね。

坂詰 でも、やっぱり店頭販売ができないので大変ですよね。

飛鳥 そうですよね。店頭でのやり取りのほうが確実だし。

坂詰 というか、楽ですよね。業務的にはミニカーを袋に入れればいいだけなので(笑)。ネット通販は梱包して送らないといけないし、入れ間違えがないか確認しないといけなくて。

新宿おもちゃカーニバルとは?

パリ そうか。それに現物を見ないで買うから、発送後にどんなクレームをつけてくるのはわからないというのはありますよね。

坂詰 だから返品しないための理論武装が大変でしたよ。同封する手紙の文章を徹底してつくりこんで。ただ、うちのお客様は良い方が多いこともあって、返品は全然ないです。

飛鳥 それも坂詰さんが10年かけてお客様との信頼関係を築いてきたから。

坂詰 確かに、僕は続けることが好きで、継続は力だなという部分はありますよね。諦めるのは簡単なんだけど、続けたもん勝ちというか。続けてるから語れる部分ってありますよね。

パリ そのへんはさすが80年続いた老舗の息子。続けたらそのぶん、信用にもなりますしね。それに年月だけはマネできないし、絶対に追い抜かれないものですよね。長く続けているでいうと、坂詰さんが主催している「新宿おもちゃカーニバル」というイベントがありますよね。新宿京王プラザホテルで開催していますが、これはどんなイベントですか?

坂詰 最初は「参加したい人よりも僕が出てほしい人を呼ぶ」というコンセプトではじめたんですよ。つまり、好きな出展者しか呼ばないという。

飛鳥 好きな人だけ呼んだカーニバル。

パリ オモチャのフリーマーケットのような感じですか?

坂詰 フリーマーケットはみんなを募集するじゃないですか。逆なんですよ。僕がオファーして、出てくださいって。

パリ 出展されるオモチャのジャンルはどういうものなんですか?

坂詰 ミニカーがメインですけど、超合金の強い店、フィギュアが強い店など、さまざまな店がありますね。めったにイベントに出なくなったご主人にも、たくさん頭を下げて出てもらって。

5時間で千人が集まり、会場はギチギチ状態

パリ 坂詰さんがオーガナイザーなわけですね。「自分好みのFUJI ROCK」みたいな。それは楽しいですね。

坂詰 楽しいですよ。「どうやったら出られますか?」とよく聞かれたんですけど、一般募集はしてませんと言って。大変ですけどね。

飛鳥 好きな人と好きなことで好きなように盛り上がれるって本当憧れるわ。

坂詰 今回で12回目の予定で、これまで毎年やってたんですけど、今年はコロナでさすがに厳しくて。でも、来年はまたやりますよ。

パリ 半年、1年がかりで準備していくんですか?

坂詰 半年がかりでやってますね。去年よりも面白いものにしないといけないという頭があるので大変ですよ。自分で自分の首を絞めてる感じで。

飛鳥 でもそれがよくって、オファーするとみなさんいいですよと参加してくれるんですね。出展者は何人ぐらい集まるんですか?

坂詰 20数業者さんですね。日本各地から集まってくれて、アジアを中心にイギリスなどの海外からもバイヤーさん来ます。ありがたいのは年に1回のイベントを新宿京王プラザホテルでやるということでみなさん気合が入るので、珍しいものをみなさんもってきてくれます。僕も興奮しますよね。

パリ お客さんもそれがわかってるから。

坂詰 お客様は朝6時から並んでますよ。夜行バスで来られるのか。うれしかったですね。それでまた出展者も参加者がまた来たいと言ってくれるんですよね。毎年、「今回で最後」と思って準備を頑張るんですが、それが疲れを吹っ飛ばしちゃいますよね。

飛鳥 買いに来る方はどのぐらい集まるんですか?

坂詰 5時間で千人切るぐらいですね。

パリ 5時間だけで? じゃあギッチギチですね。第1回からそんなに盛況だったんですか?

ミニカー業界のカリスマ

坂詰 最初からですね。僕もびっくりしましたよ。地方のお店も東京に来るからと気合入れてよいものをもってきてくださるんですよね。だからお客様も全国各地からいらっしゃいましたよ。京王プラザホテルさんも喜んでくださるので。

パリ そうか、それだけ人が来るって凄いですもんね。

坂詰 そう。結婚披露宴でも千人来ないじゃないですか。しかも、ホテル側は特に何もしないでもいいわけだから。

パリ コレクターの間では出展する各店は知られてるわけですよね。それが集まっちゃうのが新宿おもちゃカーニバルと。

飛鳥 それを集められる坂詰さんが凄いですよね。

坂詰 来てほしいからいっぱい頭下げましたもん(笑)。僕も好きなことには夢中になれるんですね。

飛鳥 でも、そうなると坂詰さん自身が「欲しい」というものもあるでしょう?

坂詰 そんなのばっかりですよ(笑)。買うこともできるんですけど、主催者なので。仕入れることもありますけど、なるべく後発ね。本当は自分が好きなだけ買えたら最高ですけどね。

飛鳥 そもそもの話ですが、このイベントをはじめたきっかけは?

坂詰 僕がよく足繁く通ってるミニカー屋さんがあって、そのご主人とイベントをやりたいという話になって。でも、彼はシャイで、坂詰さんが先頭でやってよと言われて。それで自分がイベントやるんだったら何やろうかなと思って考えました。

飛鳥 ミニカー業界を盛り上げるために何かできたらいいね、ということだったんですか?

坂詰 そうです。それまで東京で古いオモチャに特化して売り買いする会が十数年間なかったんですよ。昔はあったけど途切れちゃっていて。それで何かやろうよという話になって。というのがきっかけです。

飛鳥 それまでなかったということは、坂詰さんともう1人の方が筆頭になって、新しいことにチャレンジしたということなんですね。凄いじゃないですか。

坂詰 あのときは若かったですね。勢いでやりましたね。

飛鳥 パリさんも流しが昭和の時代から下火になって、誰もやることがなくなった時代から流しをはじめて、今は「平成流しのカリスマ」と言われてますけど、ケンさんは「ミニカー界のカリスマ」ですね!

坂詰 いやぁ、そんなことはないですけど(笑)。これからもミニカー業界を盛り上げていきたいですね。

<END>

取材構成・編集 廣田喜昭(代官山ブックス)

「一期一会カタリバ横丁」が開催されているオンライン横丁の総合案内
https://www.nagashi-group.com/online-yokocho


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