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ネット右翼になった父 鈴木大介

社会的弱者に自己責任論をかざし、
嫌韓嫌中ワードを使うようになった父。
息子は言葉を失い、心を閉ざしてしまう。

父はいつから、なぜ、ネット右翼になってしまったのか?
父は本当にネット右翼だったのか?
そもそもネトウヨの定義とは何か? 保守とは何か?

対話の回復を拒んだまま、
末期がんの父を看取ってしまった息子は、苦悩し、煩悶する。
父と家族の間にできた分断は不可避だったのか?
解消は不可能なのか?

コミュニケーション不全に陥った親子に贈る、
失望と落胆、のち愛と希望の家族論!

退職後も自治体の活動に熱心だった父に、息子が異変を感じるようになったのは、父の通院の付き添いの時だった。
声が大きい変わった服装の人がいると、「あれは中国人だな。最近にはどこも三国人ばかりだ」と決めつけたり、「火病ってるって言うだろ。なんでも被害者感情に結びつけるのは心の病気だな」と言っているのを聞いて、様々なものに興味がある父とはあまりに変わり果てた言動に息子は絶句した。
テレビを見て女性議員に対して「女のくせに、所詮女の脳は」と差別的な罵倒を浴びせる父の言動に、リベラルな価値観の息子はカッとなり血圧が上がりそうになった。
他にも、「シングルマザーが多くなったのは、安易に結婚するからだ」「ブラック企業で通勤時間や残業時間が長くて辛いなんていうのは、甘えだ。俺たちだってそんなもん乗り越えてきた」などなどマイノリティや弱者にヘイト発言を繰り返していた。
かつて様々な書物を読み様々な価値観に触れるフラットな価値観の父は、ガンと共に差別的な価値観に蝕まれていた。
一方、貧困問題などをテーマにするルポライターの僕は、父に対して心を閉ざしヘイト発言をスルーし続けていた。
父は、古き良き慎ましい日本が失われていくことに対して、喪失感があった。その喪失感を入り口に入り込んできたのが、歴史的事実や証拠に基づかないネット右翼本やヘイト動画だった。
父のような中高年の喪失感につけ込み、「かつての美しい日本が失われていくのは、GHQによる民主主義教育と日教組と野党のせいだ」と偏向した思想を植え付けたネット右翼本やヘイト動画だと思われた。
だが、それさえ真実の一部だった。
民主党の東北の震災対応に対しての不満や憧れてる中国や韓国の政府の日本政府に対する外交姿勢に対する怒りから、民主党や中国や韓国に対するヘイトがありネトウヨ用語を連発しているけど、ネトウヨ特有の在日特権などの陰謀説は信じていなかった。
シングルマザーに対する軽はずみな見下す発言はあったが、シングルマザーになった自分の娘を見下す発言は、なかった。
ようは、父はガンで寝たきりになった状態で、活字に触れることが少なくなってネトウヨ動画に触れ、ネトウヨ思想を取り込んでしまったという事。
SNSでは、久しぶりに里帰りしたら父がネトウヨになっていたという実例が散見される。
ネトウヨ思想に染まる過程は、それぞれだけど、定年退職して世間と隔絶された中で、民主党や中国政府や韓国政府に対する反感から軽い気持ちでネトウヨ動画をを見てネトウヨ思想や陰謀説に染まる過程は共通している。
また、父は子供の頃は子供心を理解する良い遊び相手であり父だったが、思春期に入った子供にとっては何故か身構えてしまう父と感じた理由が、フラットに子供に対するモデルを得られなかったという家族論も説得力がある。この本を読むことで、父や親戚がネトウヨ思想に染まってしまった時の向き合い方を学べる世代論や家族論本になっています。

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