見出し画像

散桜鬼 其ノ二~ヴァサラ戦記二次創作~

誰にも見つからないような穴倉にひっそりと身を隠し飢えを覚えれば里や森に降りて人を喰らう
私はただ飢えを凌ぐため、生きるため、無差別に人間を狩った

毎夜毎晩
同じ事の繰り返し

あれからどのくらいの年月が経ったか
どのくらいの人間をこの手に掛けたか
そんなことはどうでもいい

私が欲すのは人間の血と肉
私にとって人間など生きるための糧

世間では私の事を物の怪などと言う者がいる
あの時は苦痛でしか無かった
仕方の無い事なのに・・・
ただもう今では身も心も物の怪に成り果てた

アア、またおなかが空いてキタ・・・
食べたい・・・
タベタイ・・・

足リナイ・・・
足リナイ!!
タリナイィィ!!

ーーーーーーーー

その夜

「ようし、久々の仕事だオメェら
足引っ張んじゃねえぞ!」

「分かってますよアニキ!」

薄暗い森の中、五人ほどいるだろうか
賊共は町からまた食糧や財宝をふんだくろうと企んでいるようだ

「なんかヤベぇ奴らがその辺をウロついてたらしいが何とか上手く撒けたようだなー」

「よし今日も一稼ぎと行くか
オメェら慎重に降りてこい」

賊共はそろそろと森を降りていくその最中

ビチャ・・・

グチャッ
グチャッ・・・

一人は何か異様な物音がするのを察知した
何かを食べるような水気の混じった
しかしどこか不穏な音

「アニキ、奥に何かいるような・・・」

「んなもん放っておけ
さっさと来るんだよ!」

賊共はその場から離れようとしたが
異様な物音は聞こえなくなった様だ
いや、何か来る

一歩、そしてまた一歩
ゆっくり近づいてくる

「おい!何やってんだ!」
賊の頭と思しき者はしきりに声をかけるが
下っ端の一人はその場を離れようとしない

いや、離れられないのだ

「フフフ・・・」

「お、女・・・?」
賊の一人がそう呟いた矢先

!?

視界が突如傾き賊は天を仰いだ
目の前には全身に返り血を浴びた女がこちらを凝視する
狂気に塗れた笑顔で・・・
紅く濡れた虚ろな目で・・・

「フフッ・・・
ヒヒヒ」

女は懐から包丁を取り出し
賊に思い切り振りかざした
何度も・・・
何度も・・・
周りの賊共は恐怖に慄いているのか
ただ呆然とその場に立ち尽くしている

賊を滅多刺しにした女は
変わり果てた賊の身体に噛みつき牙を突き立てる
呻きとも唸りともとれる声をあげ
血を啜り、肉を噛みちぎる
引き裂かれる肉の音
錆び付いた鉄のような血の香りが辺りに響く

「ア、アア、アア、オイシイ・・・
ヒヒッ、ヒヒヒ・・・」

一口だけでは物足りないのか
女は何度も肉を貪っては
恍惚の表情を浮かべている

「ヒィッ、ま、本気かよ・・・」
「何なんだコイツ・・・」

ありえない光景を目の当たりにし、
他の賊共は完全にその場にへたり混んでいる

賊の一人を一通り喰らい尽くした女は
他の賊共を見遣り、笑みを浮かべたまま
近づいていく

そして・・・

ーーーーーーーー

翌朝

「で、伝令です!」「・・・」
「何じゃと!?」

ヴァサラは以前の森に調査に来ていた
現場の状態や遺体の検証、物の怪の情報も加味し今回はヴァサラの右腕でもある一番隊隊長・鬼神ラショウと医療に長ける六番隊隊長・才神ハズキを同行させていた

「これは・・・酷いわね・・・」

三人の目に飛び込んできたもの
無惨に引き裂かれ物言わぬ肉塊と成り果てた遺体の数々
そして辺り一帯は血の海と化していた

「この結果を招いたのは儂の責任じゃ
無念・・・」

「嘆いてる暇は無いわおじいちゃま、
今はこの状況を明らかにしましょう」

「そうじゃな、今は儂らが何とかするしかあるまい」

しばらくして

「ハズキ、何か分かったかの?」

「うーん、夥しい刺し傷もあるけど
肉体を強引に引きちぎったような痕に引っ掻いたような傷・・・
人間の仕業とは思えない・・・
噂されてる物の怪の仕業に間違いなさそうね」

「やはりそうか・・・
しかしその正体はおろか特徴すら未だ掴めておらんからのう」

「そうね・・・」

「・・・」

「ラショウ?ねえ聞いてるの?さっきからずっと黙って・・・
何か分かっ」

「鬼だ」

「えっ?」

「鬼の気配がする」

「何じゃと!?」

「ああ、人間のそれとは違う匂いと僅かだが鬼の力が残っている」

「ジジイ、捕らえるとしたら今夜だ
この真昼間にわざわざ鬼が出てくる可能性は無い
それに何時までも悠長にしていて益々被害が出るのは面倒だ」

「分かった
ラショウの言う通り今夜、そやつを捕らえる」

ーーーー深夜ーーーー

「来い、大体の察しは付く」

三人は再び森を訪れた
ラショウの鬼の勘を頼りに
鬱蒼とした森を進んでいく
そして・・・

「ジジイ、ここだ」

そこには人が容易に身を隠せそうな洞窟があった

「恐らく物の怪じゃろうが、何があるやら分からん
二人とも慎重にな」

三人はゆっくりと洞窟の中を進む
そして・・・

「行き止まりか・・・」

「待って!何かいるわ!」

ーーーーーーーー

私は最早人では無い
そんな事はわかってる
人間を喰らうなど狂気じみてる

ただ、こうするしかない
私が私のままでいるには

今私が人里に降りたところで
こんな私を救ってくれる者など
人喰いの鬼の子を救ってくれるはずなど

無い

あの時
お母さまは自らを犠牲にしてでも
私を生かしてくれた
血肉となって
私を救ってくれた

どんなに苦しい決断だったか
どんなに悲しい現実だったか
お母さまのお心は計り知れない

だから
お母さまの愛に報いるためにも
こうするしか・・・

お母さま・・・

お母さまのお陰で
私は今日も生きてます

人を喰らいながら・・・
お母さまが・・・教えてくれました

ーーーーーーーー

今三人の前に佇むのは
物の怪とは思えぬ一人の少女
しかしラショウの勘で辿り着いた
その少女からは間違いなく
鬼の気配を感じる

ラショウでなくとも分かる程の・・・

「物の怪の正体は貴様じゃな?」

「・・・」

「おいお前、名を名乗れ」

「・・・」

「聞いているのか!?」

語気を荒らげて詰め寄らんとするラショウを
ヴァサラが制する

「儂はヴァサラと言う者じゃ
貴様と話がしたい」

「・・・」

「おじいちゃま・・・
この子、様子が・・・」

「・・・フフフ」

「?」

「オイシソウ」

「!?」

そう少女が呟くや否や
ヴァサラに掴みかかり
今にも喰らわんとしている

「そうか・・・
貴様も半妖か」

「!?」

「貴様が今までどれ程の苦難を乗り越えて来たか儂には解からぬが、さぞ辛かったろう
貴様の討伐を依頼されてきたが、どうじゃ?儂の所に来ぬか?」

「黙レ」

「オマエに・・・
私の苦悩が解ラント言うなら、
知ッタ様な口ヲ、聞クナ!」

少女の瞳は煌々と紅く染まり
身体からは狂気とも憎悪ともとれる程の
気が溢れる

(ほう・・・子奴の力、相当な物じゃ
しかし、やはり悲しき気の流れ・・・
何時かの誰かさんを思い出すわい・・・)

「それはすまなんだ・・・
しかし儂とて今のお前さんを放って置くことは出来ん
ちいと痛いが、我慢せよ!」

ヴァサラは少女を柔らかくいなすと
手刀で少女の首辺りを叩き気絶させる

「よし・・・連れて帰るぞ」

「ったく、ジジイのお人好しには飽きたぞ」

「帰ったら医務室に運んでちょうだい?」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?