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散桜鬼 其ノ四~ヴァサラ戦記二次創作~

「そうね、あなたの事ばかり詮索してもいけないわね
私は幼い頃両親に捨てられ、たった一人の妹も戦争で失ったわ」

「激しい戦火の中で倒れていた所をアサヒ隊長とエイザン和尚に救われたの」

「そう・・・だったんですか・・・」

「うん、最初は絶望したわ
あの状態で生きる意味を見いだせなかった
そんな私をアサヒ隊長は真剣に育ててくれて
隊長になれる所まで連れてきてもらったわ

もう、いないけどね」

「あなたも家族を失って
紆余曲折を経てここへ来た
私達、似てるのかもね」

「だからあなたも一緒に!なんて
無理強いはしないわよ」

「ハズキさん、あなたはヴァサラ総督をおじいちゃまと呼んでさぞ慕ってるように見えましたが何故、あの人に着いていこうと?」

「さあね
まあ一つ言える事があるとすれば
おじいちゃまはガサツで不器用で人一倍まっすぐ
いつも本気で自分の信念を貫き通す人なの

誰に対しても平等に本心で語り全力で行動する
傍にいるとおじいちゃまの"真心"をいやでも肌でかんじるのよ」

「そうですか・・・」

確かにあの人の目は澄んでいた
澄んだ目で私を真っ直ぐ見ていた
今まで会ってきた中で一番
私には眩し過ぎるくらいに

「私のような半妖でも受け入れてくれるでしょうか?」

「あら、あの時私の傍に居なかったかしら?」

!?
そういえば私と同じような鬼の気配を感じた
あの人もそうなのだろうか

「強引に信用しろとは言わないわ
でも折角こうして会えた訳だし
今まで周りに頼れる人が居なかったでしょう?
これからは頼る事を覚えなさいね?」

そう、何時までも閉じこもったままではいけない
ハズキさんにヴァサラ総督
こんな事もなければ決して会う事も無かった
少しくらい頼ってもいいのかな?

「まあ何れにせよ今日はもう寝なさい?」

「はい、相談に乗って頂いてありがとうございます
おやすみなさい」

「うん、おやすみ」

ーーーー翌朝ーーーー

私は再度ヴァサラ邸を訪れた
こんな私でも何かの力になれるだろうか
新しい居場所を見つけられるだろうか
あの時の暗い雰囲気とは違う
淡い期待と不安を胸に・・・

「おおサクラ、おはよう
答えは出たかのう?」

「はい
私を・・・ヴァサラ軍に入れて下さい」

「よく解った
だかその前に一つ、聞いておかねばならん事がある」

「お前がこれから突き進まんとするその先に
地獄の痛みや苦しみが待ち受けようとも
立ち続けられると、約束出来るか?」

「私は今までに幾度か死の淵に瀕して来ました
もともと地獄がお似合いなんです」

「なら良い
修羅の世を生き抜いてゆけ!」

「・・・ありがとうございます」

ーーーーーーーー

「一先ずは安心ね」

「ハズキさん・・・」

「まあでも、あなたはまだスタート地点に立っただけなんだからしっかり精進しなさいよ?」

「は、はい!」

この先何が待ち受けているか分からない
ヴァサラ総督の言う通り、ここからが本当の地獄なのかもしれない

でも後ろを振り返る余裕は無い
ここまで生かしてくれたお母さまの為にも
そして私自身の為にも・・・

ーーーーーーーー

それから私はヴァサラ軍の見習いとして様々な鍛錬を積み重ねてきた
初めは周りから奇異な目で見られ時にはやっかみをかけられる事もあった
またある時は弱音を吐いて、ヴァサラ総督から拳骨をくらうことも・・・
ただ言えることは

その一つ一つがかけがえの無い物だと言う事
あの暗く浅ましい雰囲気を放っていた私のままでは決して見ることが出来ない世界だ!

ああ、幸せだ
これを幸せだと感じ取れる今が幸せだ!
途切れさせたくない!
今この瞬間をずっと・・・

ーーーーーーーー

ある日のヴァサラ邸

「サクラ、調子はどうじゃ?」

「お陰さまでここにも大分慣れてきました」

「そうか、それは良かった
わずか数ヶ月ではあるがあの頃と比べても見違えるようじゃ
よし、ならお前に任務補助の命を下す」

「任務補助・・・ですか?」

「何じゃ不満か?」

「いえ、そのようなことは・・・」

「なあに冗談じゃ、まあそれは置いておくとして
ここ最近カムイ軍に何やら不穏な動きがあると聞いてのう
特にブドウの村付近が怪しいとの情報もある」

「そこでハズキに同行しカムイ軍の動向を探って欲しいのじゃ
無論、よからぬ動きがあればその都度対処して欲しい、よいな?」

「はい、わかりました」

「まあ大事な任務ではあるが固くならずとも良い
何かあればハズキを頼れ
儂からは以上じゃ」

ーーーーーーーー

「おじいちゃまから話は聞いてるわ
改めてよろしくね」

「はい、よろしくお願いします」

数刻が過ぎ二人はブドウの村付近に辿り着き怪しい動きが無いか辺りを警戒しながら進む

「そっちはどう?」

「はい、今の所変わった動きはありません」

「まあ何も無いに越したことは無いけど
カムイ軍の事だからまだ油断は出来ないわ
慎重に」

ガサッ!

突如得物を持った者ら数人が現れ二人を囲む
ざっと六、七人
雰囲気から察するにカムイ軍だろう

「お前らヴァサラ軍の者だな
何が目的かは知らんが怪しい行動は慎んでもらおう」

「その台詞そっくりそのまま返すわ
何がカムイ軍・・・
無事に帰れると思わない事ね」

ハズキは刀と自前の武器を巧みに利用し相手を翻弄する
一方、刀の扱いには未だ慣れないものの見習いとしては戦いのセンスがあるサクラも負けじと相手を軽くいなしていく

しかし流石に数で劣るのか、ハズキはあろう事かカムイ軍の雑兵相手に傷を負ってしまう
左の腕からは多少の出血が見られる

「おい、夢幻様から今日は一旦引き上げるとのお達しだ」

「了解、命拾いしたな」

「ちょっと!待ちなさい!?」

鍔迫り合いも束の間、カムイ軍は早々と引き上げて行った

「ちっ、逃がしたわね・・・
まあ大方の動きは解ったしこっちも引き上げましょう」

「・・・」

「?
サクラ?聞いてるの?」

「血が・・・」

「血?ああ傷のこと?
こんなもの何でも無いわよ
だから」

「血が・・・
血ガ・・・」

「サクラ・・・?
様子がおかし」

一体何を血迷ったのかサクラは突如ハズキに襲いかかる
よく見るとサクラの瞳は深紅に染まり
狂気の笑みを浮かべている
まるであの時の鬼の姿を覗かせている

「サクラ!?
一体どうしたの!?
敵は私じゃないわ!」

「ヒヒヒ・・・
オイシソウ・・・
オイシソウ!」

「とても話が出来る状態じゃないわね!
何が起こってるのかしら・・・
初めて会った時の雰囲気に似ている」

「ウゥゥゥゥゥッ・・・
ウアアアゥゥッ!!!」

「くっ!とにかく今はこの子を落ち着かせないと!」

ーーーーーーーー

ヴァサラ邸

「ハズキにサクラ・・・
二人とも随分と時間がかかってるようじゃが何かあったのか」

「で、伝令です!」「!?」

「ブドウの村付近にて
"ハズキ隊長とサクラ隊員が交戦中"との事!
ハズキ隊長が劣勢を強いられている模様!」

「何じゃと!?情報は確かか!?」

「はい!ただ少々不可解な点が、
サクラ隊員はハズキ隊長に得物を使わず掴みかかるように襲いかかり
一方のハズキ隊長はそれを抑えるように戦っている模様です!」

「・・・分かった、下がってよい」

「まさかのう・・・」

ーーーーーーーー

「ウアアアアアア!!
タベタイ・・・
タベタイィィッ!!」

完全に我を失ったサクラはハズキに対し執拗に攻撃を繰り返す
ハズキはどうにかサクラを落ち着かせようとありとあらゆる方法を試すが暖簾に腕押しといった状況だ

どれだけの時間が経ったかお互いにボロボロの状態だが流石に生身の人間と半妖では分が悪い
とうとうサクラに押し倒され今にも喰われようとしている

「ヒヒヒヒ
ヒヒヒヒッ!!」

「まさかこの子に殺られることになるとはね・・・
万策尽きたし、私もヤキが回ったわね・・・」

・・・・・・・・・

「あれ?」

「ハズキちゃん、もう大丈夫だよ」

「イブキ!?」

癖のある髪型に麦わら帽、普段は飄々と泥酔している二番隊隊長・天神イブキの姿がそこにはあった

「詳しい事情は後で聞くとして、今はこの子を抑えるよ
無理させるかもしれないけど頑張れるかな?」

「ええ、私は大丈夫よ」

「よーし、行くよー」

ありったけの力を駆使し
気を失った状態ではあるが
無事にサクラを抑えることに成功したが

「ふー、何とかなったねー
さあ連れて帰るよ」

「ええ
ありがとうイブキ、助かったわ」

ーーーーーーーー

数日後、ヴァサラ邸にて

「・・・以上が今回の報告よ」

「ご苦労じゃったハズキ
して怪我の具合はどうじゃ?」

「大分良くなったわ
イブキが加勢してくれたお陰で私はまだ生きてる訳だし」

「そうか・・・
さて問題はサクラのほうじゃが・・・
容態は?」

「うーん、まだ起き上がるどころか目も覚まさないわね
あ、そうだ
あの時何とか隙を見つけてサクラの血液を採取したわ
これを調べれば暴走の原因も解るかもしれないわ」

「それは有難いが、もう少し休んだ方がいいのではないか?」

「そういう訳にもいかないわ
あの場に連れてきたのは私だから自分にも責任がある
それにサクラをあのままにしておけないし何とかしてあげないとね」

「相変わらずお前には厄介かけるのう」

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