見出し画像

散桜鬼 其ノ六~ヴァサラ戦記二次創作~

ーーーーブドウの村ーーーー

「お父さん、お母さん、ただいまー!」

「おおショウキ!帰ってきたか!」

「ショウキ!今までどこをほっつき歩いてたの!?心配したんだから!」

「ご、ごめんなさい
道に迷っちゃって」

「アッハッハ、そうかそうか!
まあでも無事で良かった」

「もうあなたは甘いんだから!
・・・あら、そちらの方は?」

「申し遅れました
私はヴァサラ軍六番隊隊長のハズキ、こっちは隊員のサクラです」「よろしくお願いします」

「サクラお姉ちゃんに助けてもらったんだよ!」

「そうですか、これは息子が世話になりましたな」「本当にありがとうございます」

「いえいえ、当然の事をしたまでですから
お気になさらず」「さあ私達もそろそろ戻るわよ」

「ヴァサラ軍の方々も道中お気をつけ下さい
最近ではカムイ軍がこの辺りをしきりに彷徨いていまして・・・」

「こちらもその事について偵察を行っておりますのでまた何事かあれば伺います
ではこれで・・・」

「待ってサクラお姉ちゃん!」「?」

「これ助けてくれたお礼、金平糖!」

「金平糖?」

「そう!甘くておいしいよ!」

(あ、あまい?)

「サクラお姉ちゃん、お願いがあるんだ
お父さんも言ってたけど
カムイ軍がね、来るかも知れないんだ
すごく・・・怖くて・・・
サクラお姉ちゃんが居たら、安心かなって」

「こ、こらショウキ?
あまり困らせちゃダメよ?」

「いえ、私は構いませんよ
ショウキくん、また必ず来るから
ご両親に心配かけないようにね?」

「うん!ありがとう!」

ーーーーーーーー

「あの子、あなたの事をかなり慕ってるわね」「え、ええ」

「あの子達がカムイ軍に怯えることが無くなるように私達も頑張らないとね」

ーーーーサクラの自室ーーーー

・・・慕ってる、か

恐らくこんな気持ちになったのは初めてだ
こんな私を慕ってくれる人がいる

なんだろう

心があったかい
ショウキくんの屈託の無い笑顔
慕ってくれる人が居るというのは
それだけで自信になる
自分の底から活力が湧き上がる

嬉しい

そういえばショウキくんに貰った
金平糖?
あまくて、おいしい?

袋の紐を解き、一口

口にいれた瞬間に広がるまろやかな香りと
強ばった体をゆっくりと解くようなとろける味

これが、"甘い"

おいしい

ううん、今まで血と肉の味くらいしか知らなかった私には勿体無い優しい味
思わず涙がこぼれた

私は"甘い"が好きだ

ーーーーーーーー

私は偵察も兼ねて頻繁にブドウの村を訪れるようになった
この村には寺小屋というものがあるらしく村の子供達はそこで勉学や武術を身に付ける様だ

村を訪れるうちにその寺小屋の臨時講師を頼まれるようになりヴァサラ軍で学んだ事などを私なりに教えた

そんなある日の暮れ、いつも通り臨時講師を務め帰路につこうかという時だった

「サクラお姉ちゃん、今日もありがとう」

「あらショウキくん、私の方こそ皆んなと会えて嬉しいわ」

「そ、そう?えへへー
あ、そうだ」「?」

「サクラお姉ちゃん、教えるの上手だね!
僕だけじゃ無くて皆んなそういってるよ!
寺小屋の先生が悪いって訳じゃないけど
サクラお姉ちゃん、特別分かりやすいし
あと優しい!
サクラお姉ちゃんが本当に寺小屋の先生だったら良かったなー
今度から"サクラ先生"って呼ぼうかな?」

「こらこら、でもありがとうね」

「うん!また来てね!」

(サクラ先生か・・・)

ーーーー深夜ーーーー

「状況は?」

「はっ!特に問題ありません
攻めるなら今夜辺りが良策かと」

ヒヨミ
カムイ七剣が一人、夢幻軍の副官
感情を表に出すことはなく淡々と任務をこなす
ただその所業は苛烈で周囲はおろか味方からも少々恐れられている
夢幻の命によりブドウ村付近で何やら探っているらしいが・・・

「わかった、下がれ」「はっ!」
「・・・」

ーーーー六番隊隊舎ーーーー

「サクラ、只今戻りました」

「お疲れ様
この所カムイ軍の動きが少ない様に感じる
何事も無ければ良いけど、村の様子はどうだった?」

「はい、特段変わった事はありません」

「うん、分かった
ショウキくんと出会ってからあなたも忙しくなったわね」

「ハズキ隊長のお陰です
本当にありがとうございます」

「あら私は何もしてないわよ?
でも感謝されるに越したことは」

「伝令です!」「?」
「カムイ軍がブドウの村を急襲しました!」
「何ですって!!」「!?」

「詳しい状況を・・・
サクラ!?何処に行くの?待って・・・」

迂闊だった・・・
もう少し村に居れば急襲を防げたのに
動悸が速くなり呼吸は乱れ
それでも不乱に村を目指す
最悪の状況だけは回避しなければ

「ショウキくん!村の人達は、!?」

ーーーーーーーー

「カムイ軍だー!とうとうこの村にも来やがった・・・」

「どうするんだよ、俺達このまま滅びるのか?」

「んな事黙って見てられるかよ!
カムイ軍がなんだ!俺達で追い払ってやろうぜ!」

「無茶苦茶だ!俺達がカムイ軍にかなう訳ないだろ!?」

ーーーーーーーー

「かような小さな村、完膚無きまでに叩き壊してやろう!」

「カムイ軍・・・なめやがって!
やれるもんならやってみやがれってんだ!」

「笑わせるな!殺れ!」

ーーーーーーーー

「なんで・・・? なんでこんなこと・・・
サクラ先生! 誰か! 誰か助けて!誰か!」

「ヒヨミ様、まだガキが一人残ってます!」

「!?」

「小僧には何の恨みも無いが運が悪かったな」

「お前よくも・・・
お父さんもお母さんも、村のみんなを・・・
お前なんか、僕が倒してやる!」

ーーーーーーーー

あの日と同じだ・・・

村の方々から聴こえる

悲鳴、怒声、轟音、焼ける音・・・

全てが入り混じった思い出したくもない光景

脳裏にこびり付いて離れてくれない

嘘であってほしい
幻であってほしい

今にも体が崩れ落ちそうだ
それでも僅かな望みを・・・
懸命に惨状を進んでいくサクラの眼前に現れたものそれは

「!?」

夢幻軍の副官・ヒヨミの刀で貫かれ
既に事切れたショウキの姿だった
その傍らには木の棒が転がっている

「あ・・・
ああ・・・」

「ヒヨミ様、ここら一帯は粗方制圧しました!」

「ご苦労
まあこの程度の村、我らにとっては障害ですらない
さっさと引き上げ・・・
ん?何だ、もう一匹残っていたか
今すぐ楽に」

「・・・」

「ショウキくんは、本当に優しい子でした
こんな私の事をまるで姉のように慕ってくれました」

「出会った時のこと・初めてみた金平糖・
何気ない会話・寺小屋で一緒に勉強した事
全てが私にとっては新鮮で楽しかった」

「ショウキくんだけじゃない
ご両親・村の人達・寺小屋で出会った子供達皆んな、かけがえの無い人達でした」

「それをあなたはこうも簡単に踏み躙った
あまりの節操の無さに笑っちゃいます」

「私は単に上からの命を実行したまで
こう長々と思い出話をされても困る
単刀直入に」「ゆるさない」

「ゆるさない・・・お前だけはぁ!!」

ーーーーーーーー

「ったく!心配なのは分かるけど単独で突っ走って!」
「あれは・・・!?」

ーーーーーーーー

「くっ・・・!何だこの力は!?
凄まじくも紅黒い気だ!」

「サクラ!?ダメよ!一気に力を解放しては!鬼に飲まれ」

「カクゴシロ・・・
オマエニイタミトイウモノヲオシエテヤル」

「浅ましい・・・
やはり鬼というのはなんと浅ましい
この私を倒そうなどと笑止」

「確かにあの時の様な凄まじい鬼の力が溢れている・・・
けど、暴走していない?これは!?」

「"狂逝ノ極ミ"・調狂」「吸血姫!」

姿が一瞬で消えたかと思ったのも束の間
ヒヨミの眼前にいきなり現れ斬撃を繰り出す
更にヒヨミの傷口目掛けて噛みつき血を啜る

「ヒヒヒ・・・タマリマセンワ・・・」

血を啜った事でボルテージが上がったサクラは手を緩めること無く斬撃を繰り返す

「速い!?この私が防戦一方だと!?」

「サクラ、鬼の力を解放しながらもそれを飼い慣らすような立ち回り・・・
遂に極みに達したの!?」

「音沙汰無(おとさたもなし)」

また姿を消したかと思うと瞬く間にヒヨミの背後に回り一突きを浴びせる

「っ!?このっ・・・鬼の分際で!」

「ソロソロオワリ二シマショウ」「!?」

「奥義・跡形無!(あとかたもなし)」

タガが外れたように
何度も何度も斬りつけた
不甲斐無さを、無念を、憤怒をぶつけた

涙が止まらない
助けられたのに!助けられなかった!
私の所為で!私の所為で!私の

「!?」

「もう、やめなさい?
よく頑張ったわ」「ハズキ隊長・・・」

「今回の事は、決してあなたの所為なんかじゃないの」
「・・・ごめんなさい、
ごめんなさい・・・」

「少し落ち着いた?あなたが謝る必要ないのよ?
ほら、自分で立てる?」

「お気遣いありがとうございます
でも・・・
しばらく一人にさせて下さい・・・」

「わかった
ちゃんと戻ってくるのよ」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?