第7話「大型の洗礼」
教習所のバイクはCB750(RC42)だった。
大型二輪免許取得のために教習所へ通いだしたときは、以前乗っていたSRとのパワー差にビビリながらも、狭い教習コースを楽しみながら走り回っていた。
でも、卒研を受けるころには、そのマイルドな乗りやすさに慣れてしまい、アドレナリンが出る事も少なくなっていた。
大型免許を取ったら、もっと刺激的なバイクに乗りたいな。
そう思っていたオイラが公道で最初に乗ったバイクが、このレンタルゼファー750だ。
乗り味はCBと若干違うような気もするが、何しろSRとCB750しか乗ったことが無いのだから、違いなんて大して分かるはずもない。
とりあえずコンビニでこいつをじっくり眺めてみる事にした。
レンタルバイク店を出て、5分ほど走った所にコンビニがあった。
缶コーヒーでも買って写真でも撮っておこうかな。
そう思い、コンビニの駐車場に入る際、オイラは早速大型の洗礼を受ける事になった。
その日は朝から小雨が降っており、路面はしっとりと濡れていた。
大型初心者のオイラは、初めて乗るゼファー750にビビりながらも、さっそうと本線からコンビニ駐車場に入る・・・・いや入ろうとした時の事だ。
コンビニ駐車場は車道より10cmくらい高くなっていて、その境目はスロープが作られている。
路面が濡れているためフロントが滑るのではないか、という心配があったので、オイラはそのスロープに差し掛かる前にブレーキで十分すぎる程に速度を落とした。
そしてゆっくりとスロープへ向かうと同時にシフトダウン。
2速でそのスロープをスッとクリアして駐車場へ滑り込む予定だった。
ところが!クラッチをつなぎ軽く段差をクリアするつもりでアクセルをひねると、全くトルクを感じない?
同時にブォオオオ~ンという激しいエンジ音。
やばい、ギアがニュートラルに入ってる!!
うぁっ!!
慌ててフロントブレーキをギュっと握るという下手くそ代表みたいな動作により、スロープの上でフロントロック!
ゼファーはスロープの途中でフロントがスライド・・・
車体は大きく左に傾き、左足一本でゼファー750を支えようと必死なオイラ。
ヒーーーーーーーッ!重い!!!
しかし、借りて5分でコケル訳にはいかんやろ!と、一瞬耐えようとはしたものの、750の重量に耐えられる訳もなく、スローモーションのようにゼファーは倒れていった・・・・
ガシャッという金属音と共に、横倒しになったゼファーを必死で起こし、すぐに跨ってセルを回すもエンジンがかからない。
本当はすぐにでもエンジンをかけて、その場から逃げ出したかったんだけど、逃げる事すらできない状態になってしまった。
コンビニの前で煙草を吸っていた数名がオイラの事を見ている。
ああ!恥ずかしい・・・顔から火が出そうとは、まさにこの事だ・・・
仕方なくバイクを押してコンビニの隅に駐車した。
恐る恐るもう一度エンジンをかけてみる。
すると、ヴォンという音と共にエンジンが始動した。
ああ!良かった。
大型デビューツーリングが5分で終わらなかった事に胸をなでおろしたが、やっぱり恥ずかしい事には違いない。
オイラは何事もなかったかのようにその場から走り去り、最初の目的地「志賀島」へ向かう事にした。
こけた事に少し気が滅入っていたが、走り出せば気持ち良さが勝るもの。
時に1速全開で走ってみたり、意味なくシフトダウン&アップを繰り返してみたり、まるで暴●族のようにローリングしてみたりと10代の頃のように浮かれている。
ただ、このゼファーが古いからなのか、メンテが行き届いてないからなのか、エンジンは3000回転辺りで大きく息継ぎし、そこからは若干かぶり気味になりタコメーターはゆっくりとしか上がっていかない。
とにかく遅い。
3000回転までは750のトルクでぐっと背中を押される感じだが、そこを超えた辺りから、まるで小排気量のバイクのように力が出ない。
大型初心者のオイラだから、神様が気を使ってこのゼファー750を選んでくれたに違いない。
そう自分に言いきかせながら、志賀島へ向かった。
海の中道で横風を受けながら、いよいよ志賀島へ突入する。
ここは学生の頃、AE86でさんざん走り回ったホームグラウンドだ。
右折して、しばしの直線。
ここでテンションが上がりアドレナリンが溢れ出す!
全開だ!
ヴォーーーーーンッ・・・ボボ、ガボガボヴゥオー・ー・ー・・・
ああ、拍子抜けだわ。
走らね~!
もう諦めてゆっくり走ろう。
そう思った時、雨がポツリポツリと降り始めた。
やめてくれよ・・・雨だけは勘弁し・・・て・・・
ザ・ザザザザザーーーーーーーッ!
おいおい!土砂降りはやめてよー!
ジェットヘルにシールドは付けていない・・・
容赦なく顔面に打ち付ける激しい雨・・・
イタタタターーーーーッ
そして何とか志賀島の先端駐車場に到着し、慌ててトイレに逃げ込んだ。
うううっ!寒い!寒すぎる!
今回着てきたのは夏の在庫一掃セールで売れ残ったメッシュジャケットだ。
10月でも問題ないよねと自分に言い聞かせ、この大型デビューに合わせて着用してきたジャケットだったけど、到底耐えられないという事を思い知らされた。
小降りになったタイミングで、持ってきていたカッパを着て再スタートしたんだが、その後のツーリングは寒さとの闘いで、1時間後には唇が紫になっていた。
本当はその後阿蘇へ行くつもりだったんだけど、この装備では無理なことを悟り、近場を走ってその日のツーリングは終了した。
家に帰り、車で妻を迎えに行く時には、鼻水が止まらなくなっていたんだけど、そんな俺を見て妻は言った。
「ちょっと、風邪ひいたんじゃない?やっぱり乗るなって事だったんだよ(笑)もう乗るのやめときなさいね」
オイラは鼻水をすすりながら、何も言わず外の雨を眺めていた。
・・・絶対にバイクを諦めない!そう心で叫びながら。
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