見出し画像

お花見

今年米寿を迎える父はサクラのお花見が大好き。

若い頃忙しい仕事の合間に、趣味で風景画を描いていたくらい絵心のある人なので、きれいな風景を見るのが好きなのだ。
最近は歳をとって絵筆は持てないが、きれいな風景を見ると、スマホのキャンバスに風景を切り取って収めている。

私は毎年この時期に帰省し、レンタカーを借りて、宮崎のサクラの名所 西都原に両親を連れていくのが恒例行事。ここは両親が青春時代を一緒に過ごした場所でもある。

お花見の前に、2人とも「高校時代を過ごした町の様子を見てみたいから、ちょっと廻ってくれない?」というので、西都から杉安まで車で軽くショートトリップ。

車の窓から外を指差して、「ここは〇〇くんの材木屋。ガタイのいい力持ちの男の子だったよね、材木がたくさん積んであって、えらい繁盛しちょるが。今は子供、孫の代やろかね?繁盛しててよかったわ〜」「ここはうちの学校でただ1人ピアノが弾けるお嬢さんだった子の豪邸があったところ。この辺で1人だけピアノを持ってたんよね。」と、土地から思い出されるエピソードを次から次へと楽しそうに語り出す。

耳の悪い父と、少し認知の入った母。互いに何度も同じことを言わないと相手に伝わらないので、喧嘩することも多いのだが、「土地の記憶」は2人を瞬時に70年前の輝いていた高校時代に戻してくれる。

耳の悪い父もなぜか母の話がちゃんと聞こえているし、認知の入った母も大昔の記憶は詳細までしっかり覚えていて話が盛り上がる。私は車のスピードを落としてゆっくり走りながら、2人の話を聞いている。

一廻りして、うなぎで有名なお店のうなぎ弁当を買って、お花見会場へ。

西都原は宮崎でサクラの絶景スポットとして有名なだけあって、月曜日だというのにすごい人。

澄み切った青空と淡いピンクのサクラ、黄色い菜の花の見事なコラボレーション。

気持ちのよい春風に舞う桜吹雪の中で、きれいな風景を見ながら、3人で黙ってとびきりおいしいお弁当をいただく。言葉はいらない。

語らずもみんなの心の中の言葉は一つ「来年もこのサクラを3人で見れますように」

土地の記憶や大自然に手助けしてもらって、私は介護のウサが晴れ、両親は日常のしんどさ、ネガティブな感情から解放された一日だった。

帰宅後心地よい疲労感に包まれ、このしあわせに感謝した。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?