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野良猫ミウからの伝言(2)

第二章 クロさんの教え

ボクはけっきょくのところ、その魚をたべてみた。

たしかに、いつもたべているカエルのあじとはちがって、あぶらがおおくて、ひげがよごれるのがへんなきもちだった。でも、おもったよりもおいしいかったので、こんどあのにんげんがきたら、ついていってみようとかんがえたんだ。

じつは、それからまいにち、あのにんげんはボクをみつけると「ミウ、ミウ、ミウ。」とよぶようになった。ボクはずっとボクで、なまえなんかもっていなかったか ら、「ミウ」とよばれるのは、ほんとうに、へんなきもちだったよ。だって、ボクはボクなんだから。

でも、そのにんげんは、いつもまるいいれもの【作者注・缶詰のこと】から、魚のにくをくれるんだ。ボクはたべおわるといっちょくせんにしばふのところにいって、あそんでいた。でも、そのにんげんがついてきて、

「おい、友だちにならないか?猫とは一四年も一緒に暮らしていたから、お前の気持ちは良くわかるんだよ。」

というんだ。

猫とにんげんがいっしょにくらす?

そういえば、ともだちから「家の中にいる猫。」のうわさをきいたことがあったから、もしかしたら、そんなこともあるのかなとかんがえたんだ。

だから、ぼくは住田町の野球場のそばにすんでいる、住田町野良猫協会の長老さんにきいてみようとおもったんだ。あのテントのにんげんたちはだれかってね。

住田町野良猫協会の長老さんは、むかし「ケンカのクロ。」とよばれていたらしい。なんでも、たったひとりでカモシカをやっつけたことがあるっておじさんがいっていたっけ。ボクはそのクロさんにきいてみたんだ。

「クロさん。おばんです。」

「おう、おまえはだれだ。」

「ボクはこうえんをなわばりにしているんだ。」

「おう、わかいのにえらいやつだな。さいきんは、なわばりをだいじにしないやつがふえているからな。で、おまえはだれだ。」

「だからこうえんで・・・。」

「だいたい、いまのわかいやつは、けんかもできないらしいな。おらなんざ、むかし、あのでかいカモシカあいてにだな・・・。」

ボクは、そのはなしがおわるまで、ひるねをすることにしたんだ。で、やっとカモシカのはなしがおわったので、きいてみたよ。

「ねえ、あのこうえんのテントにはだれがいるの?」

「おう、あれはな、なんだかわからないが、よそものだらけだ。なんでも、海のほうで、おそろしいことがあったらしくてな、それから、よそ者がたくさんくるようになったのっさ。おれにはわからないが、なんでも、海がいきなりおおきくなって、サンマいちばの仲間たちがおおぜい、さらわれて、いなぐなったらしい。 いやあ、世もすえだな。だから、おまえはあそこに行ってはならねえど。だいたいよそものは、この土地の礼儀作法をしらないからな。」

「ふーん。でも、そんなにわるい、にんげんじゃないみたいだけど・・・。」

「おまえ、人間さ近づいじゃならんごとを、わすれたのか?いいか、人間は、おそろしいもので、やさしそうにみえても、信用してはならんぞ。あいつらもいつかいなくなるにちがいない。そんなやつらにちかづいてもいいことはない。いいか、あの人間たちには、かかわるんじゃねいぞ。」

「・・・ふーん。そうなの。」

「ああ、そうだ。人間なんて、うるさいだけだ。おれたち野良猫には、関係ない。わかったか?若いの。」

「うん。きをつけるよ・・・。」

「よし。そんだら、あしたの猫会議にはおくれるな。海の猫たちに義損またたびをあつめるかんな。」

「わかったよ・・・。」

ぼくは、テントのにんげんが、ほんとうにわるいやつらなのか、たしかめることにしたんだ。

>第三章


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