本節では、競争が人生の多くの面に存在することを説いています。競争が激烈な場面(例えば競馬や競漕)では、人々は命をかけ、道義を忘れがちです。富の追求においても同様で、他人より多くの財産を持ちたいという激しい競争心が生じ、道徳を無視する傾向があります。しかし、孔子や孟子の教えに基づく古い時代の日本では、商業や富の追求は罪悪と見なされ、仁義道徳が重視されていました。この考えは、武士が消費者であり生産者ではなかった江戸時代にも引き継がれ、富を追求することと道徳的な生き方が両立しないとされていました。 先生は、このような歴史的背景が現代の商業や競争観に影響を与えており、日本の歴史と文化が現代のビジネスと競争の考え方に深く根ざしていることを示しています。
具体的には以下のようなことが含まれるでしょう。
道徳と富の両立の難しさ:江戸時代の日本では、武士は消費者であり、生産や商業に関わらず、仁義道徳を重んじる生活を送っていました。この歴史的な観点から、富の追求と道徳的な行動が必ずしも両立しないという観念が形成されました。これは、現代でも商業活動と道徳的、倫理的行動のバランスを取ることの難しさに影響を与えている可能性があります。
競争の見方:渋沢先生は、過度な競争が道徳を脇に置く傾向にあると指摘しました。これは、江戸時代の武士の価値観と連動しており、競争が過度になると人間性が損なわれるという考え方が、現代の競争観にも影響を与えている可能性があります。
西洋文化の影響との融合:江戸時代末期以降、西洋の文化や経済システムが日本に導入されましたが、その際にも伝統的な価値観との間で葛藤や融合が発生しました。これは現代においても、西洋式の競争主義と伝統的な日本の価値観との間でのバランスを模索することにつながっています。
要するに、渋沢先生が述べた歴史的背景は、日本が直面する現代の商業的・倫理的課題への理解を深める一助となっています。この歴史的な視点は、現代日本におけるビジネスの慣行や競争の方法に対する考え方に影響を与え続けていると思います。