渋沢先生は社会問題や労働問題が法律だけで解決できるものではないと指摘します。家族内の権利と義務の主張が人情を険悪にし和合を損ねるように、資本家と労働者の関係も同じで、法律に頼ることで情愛が薄れ、益々へだたりが生じる恐れがあると論じます。彼は王道をもって互いに対処することで、真の調和が得られると信じており、富の分配は自然の成り行きであり、人々はその間の円滑な関係に努めるべきだと主張しています。
一般的に「王道」とは中国の古典に由来する概念で、特に儒教の文脈で理想的な統治や行動の原則を指すようです。この文脈での「王道」は、正義、公正、共感、および相互理解に基づいた倫理的な行動の道を意味していると考えられます。渋沢先生が述べているのは、社会の各成員が単に法律に頼るのではなく、高い道徳規範に従って行動し、社会全体の調和と福祉を促進するべきだということです。資本家と労働者の関係においても、法律による規制よりも、相互の尊重と公正な取引によって真の調和が達成されるということです。