見出し画像

論語と算盤⑩成敗と運命: 1.それただ忠恕のみ

およそ業は勤むるに精しく、嬉むに荒むというが、万事がすなわちそれである。もし大なる趣味と大なる感興とをもって事業を迎えられたならば、たとえ如何に忙しく、また、いかほど煩わしくとも、倦怠もしくは厭忌というがごとき、自己が苦痛を感ずる気分の生ずべき理由はない。もし、またこれに反して、全然没趣味をもってイヤイヤながら事務に従うという場合には、必ずまず倦怠を生じ、次いで厭忌を生じ、次いで不平を生じ、最後には自分がその職を抛たねばならぬようになるは、蓋し数の自然である。前者は、精神潑溂として愉快の中に趣味なるものを発見し、この趣味よりして無限の感興を惹起し、感興はやがて事業の展開を来すことに至るものである。しかして事業の展開は、すなわち社会に公益を与うることになる。後者は精神が萎縮して、怏々鬱々、倦怠より困憊を醸し、困憊はやがてその身の滅亡を意味することになる。仮に前者と後者とを対照して、そのいずれを執るかを諸氏に試問したならば、前者を執ることの最も賢く、後者を執ることの最も愚なるを、明答せらるることであろう。また、よく世人が口癖のように、運の善悪ということを説くが、そも人生の運というものは、十中の一、二、あるいは予定があるかもしれぬ。しかしながらたとえこれが予定なりとして見た所が、自ら努力して運なるものを開拓せねば、決してこれを把持するということは不可能である。愉快に事務を執りつつ、一方に大なる災厄を招致すると、そのはじめ、ただに天淵のみであるまい。諸氏もまた必ずその一方を捨てて、他の一方を把持せられんことを熱望せらるるであろう。しかして諸氏が銘々その事業上に大なる趣味と、大なる感興とを有たるると同時に、その内容の充実を期さねばならぬ。まして救済事業のごときは、その性質上、注意の上にもなお一層の注意を払い、つとめてその内容の豊富ならんことにおいて、遺憾なきを期すべきである。さればといって、その内容にのみ腐心して形式を疎外視することも宜しくない。およそ各種の事業として、内外ともに権衡を欠いてはならぬ。要するに、単にその表面を衒わんがため、いたずらに形式にのみ囚わるるということは、最も注意してこれをしたならば、前者を執ることの最も賢く、後者を執ることの最も愚なるを、明答せらるることであろう。また、よく世人が口癖のように、運の善悪ということを説くが、そも人生の運というものは、十中の一、二、あるいは予定があるかもしれぬ。しかしながらたとえこれが予定なりとして見た所が、自ら努力して運なるものを開拓せねば、決してこれを把持するということは不可能である。愉快に事務を執りつつ、一方に大なる災厄を招致すると、そのはじめ、ただに天淵のみであるまい。諸氏もまた必ずその一方を捨てて、他の一方を把持せられんことを熱望せらるるであろう。しかして諸氏が銘々その事業上に大なる趣味と、大なる感興とを有たるると同時に、その内容の充実を期さねばならぬ。まして救済事業のごときは、その性質上、注意の上にもなお一層の注意を払い、つとめてその内容の豊富ならんことにおいて、遺憾なきを期すべきである。さればといって、その内容にのみ腐心して形式を疎外視することも宜しくない。およそ各種の事業として、内外ともに権衡を欠いてはならぬ。要するに、単にその表面を衒わんがため、いたずらに形式にのみ囚わるるということは、最も注意してこれを避けねばならぬ。
さらに言うまでもなきことながら、本院(東京市養育院)には、現に(大正四年一月)二千五、六百人の窮民が収容してある。その中には除外例として、善因かえって悪果を結びて窮民たり、旅行病人たるものなきにあらざれども、その多くは、いわゆる自業自得の輩である。しかしながら、彼らを自業自得の者なりとして、同情をもって臨まぬは甚だよろしくない。それ吾人の須臾も離るべからざる人道なるものは、一つに忠恕に存するものであるから、いずれもその職務に忠実にして、しかして且つ仁愛の念に富まねばならぬ。余はあえて彼らを飽くまで優遇せよとは言わぬが、これに臨むに、常に憐愍の情を欠いてはならぬというのである。諸氏はくれぐれもこの道を体得して、これを執務上に現実せねばならぬ。また医務に従事せらるる諸氏においても、収容の患者をもって単に自己研究の資料となすにこれ努むるならば、そは甚だ遺憾の極みである。研究さるるも程度問題であるから、絶対に悪いとは言わぬが、医員諸氏においては、患者を治療するということが、当面の義務と信じて勉励せらるることを望むのである。また看護婦の人々にあっても同様であって、患者へ対しては誠に新設に取り扱われたきものである。彼らには精神上欠陥する所が多い。社会の落伍者、敗残者として、これに同情するということが、前に述べた忠恕である。忠恕はすなわち人の歩むべき道にして立身の基礎、つまりはその人の幸運を把持することになるのである。

本節では、仕事や事業への取り組み方について語られています。熱意と興味を持って事業に取り組む人は、忙しさや困難さにもかかわらず、楽しみを見出し、社会に貢献できる。一方で、興味を持たずに仕事をする人は、疲労や不満を感じ、最終的にはその職を辞めざるを得なくなる。成功と幸福は、熱意と努力によってのみ達成される。また、東京市養育院の例を引き合いに出し、患者や窮民に対する同情と人道的な接近が必要であることを強調しています。看護師や医師は、患者に対して誠実であるべきであり、彼らの治療が最優先であると述べています。全体として、情熱と同情が成功と幸福をもたらすというメッセージが込められています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?