見出し画像

科学の奇跡と患者さんを繋ぐ - Ubieの製薬事業の現在地と未来 -

はじめに

Hi !
Ubie株式会社 ファーマ・イノベーション事業本部 代表 野上(@dave_ubie)です。本稿では、Ubieの製薬業界向け事業(以下、製薬事業)が取り組む課題と現状、そして将来展望について概説します。
Ubieの製薬事業は、Ubie全体の成長を牽引する中核部門として、製薬業界が直面する構造的課題、すなわち「治療法と患者のマッチング」の最適化に挑戦しています。
本稿では、この課題の本質的な難しさ、その解決がもたらす意義、「コペルニクス的転回」とも言えるUbieのアプローチについて詳述したいと思います!


科学の結晶たる治療薬 - 0.01%の奇跡 -

——非臨床試験に入る化合物を10,000とした場合、最終的に医薬品として承認されるのは1個程度(約0.01%)と言われています。
また、新薬の開発には長い年月がかかります。一般的に、基礎研究から承認取得までは、約9〜17年という長い時間が必要です。

  • 基礎研究:2〜3年

  • 非臨床試験:3〜5年

  • 臨床試験(第I相〜第III相):3〜7年

  • 承認申請・審査:1〜2年

そして、研究開発にかかる費用も莫大です。平均的な開発費用は約500億円から1,000億円とされており、大型新薬の場合は1,000億円以上の開発費用が発生するケースもあると報告されています。 (出所:厚生労働省「一般的な医薬品の開発の基本的な流れ」、医薬産業政策研究所「医薬品開発の期間と費用」)
このように、製薬企業は膨大な費用・期間をかけて、新たな治療法や、より良い治療法を奇跡的な確率で生み出しています。まさに科学の結晶と言えるでしょう。

奇跡を届けるコスト - 製薬業界における販管費の構造 -

これだけ多くのリソースを研究開発に投下している製薬企業において、最も支配的な費用は研究開発費かと思われますが、実は多くの製薬企業において、研究開発費以上に販管費に多くのコストを投下しています。
以下は、日本の主な製薬企業5社における売上高に対する販管費と研究開発費の比率です。

出所:各社IR資料(いずれも2023年度)

研究開発費率が平均19%なのに対して、販管費率は平均34%と、研究開発費率を大きく上回っています。また、販管費率34%というのは、日本の主要産業における平均販管費率が16%であることを考えると、(出所:2023 年経済産業省企業活動基本調査速報)他産業と比較しても相当に高い水準に見えます。
TVCMや広告などマーケティングに注力している印象が強い、食料品・飲料メーカーにおける販管費率が約30-40%と言われていますので、実は、製薬業界はマーケティング・ヘビーな業界なのです。

適切な治療を開始できている患者さんはごく僅か

一方、製薬企業がこれだけ多くの費用とリソースをかけて開発・マーケティング活動を展開しているにも関わらず、様々な疾患において適切な治療を開始できている患者さんの割合はごく僅かという実態があります。

出所:日本腎臓学会、厚生労働省、医薬ジャーナル社

例えば、慢性腎臓病(CKD)は患者数が非常に多いことで知られる疾患です。日本腎臓病学会によると、日本には何と1,330万人の潜在的な患者さんがいると推計されています。(最新の「CKD診療ガイド2024」(日本腎臓病学会)では、2,000万人いると推計されています。)一方、2020年の厚生労働省の調査では、慢性腎臓病の継続的な治療を受けている患者数は63万人程度(出所:令和2年「患者調査の概況」厚生労働省 )と推計されています治療を開始できている人の割合は5%程度と、早期受診・早期診断・早期治療が十分とは言えない状況です。
慢性腎臓病は、症状が出にくい病気で、気がついたときには進行しています。末期の場合は人工透析を受ける必要があり、日本では34万人以上の患者さんが人工透析を受けています。(出所:2023 年度「全腎協ニューズレター」第6号)

また、診断をつけることが難しい希少疾患においても、治療率が低いという傾向は同様です。遺伝性の希少疾患の1つである遺伝性血管性浮腫(HAE)の有病率は5万人に1人といわれており 、日本にはおよそ2,500人の患者さんがいると推定されます。(出所: Zuraw BL. N Engl J M ed 359 :1027-1036, 2008, Lang DM, et al . Ann Allergy Asthma Immunol 109 (6) :39 5-402, 2012)
わが国の調査では、国内で診断・治療中のHAEの患者数は430名程度(2016年時点)(出所: 大澤勲編:難病遺伝性血管性浮腫 HAE 医薬ジャーナル社) といわれており、推定される国内の患者数に対し20%に留まっています
また、浮腫などの症状が出現してからHAEと診断されるまでの平均期間は13.8年と言われています(出所:Ohsawa et.al., Ann Allergy Asthma Immunol, 2015)この間、患者さんはむくみや息苦しさ、腹痛など、様々な医療機関を受診しても原因がわからない症状に悩まされ続けています。
勿論、これらは製薬業界だけではなく、様々な要因が複雑に絡まりあった文字通り構造的な課題でありますが、従来型のアプローチ「だけ」では限界があることを示唆していると考えられます。

医師・患者さんに情報を届けきる難しさ

製薬企業は膨大なリソースをかけて医薬品を開発し、マーケティング・情報提供活動を通じて、医薬品を必要な人に届ける努力を日々しています。そして、マーケティング・情報提供活動に係る費用の多くは、医師を始めする医療従事者向けの情報提供活動に費やされています。MR(医療情報担当者)や医師向けメディア等を通じて、自社の医薬品の有効性・安全性・副作用情報等の情報提供を通じて、1人でも多くの患者さんに自社製品を届けるための活動を展開しています。
しかし、このアプローチが抱える課題は大きく2つあります。

  1. そもそも、病院に来ていない患者さんにリーチすることはできない

  2. 製薬企業がカバーしていない病院に行ってしまった患者さんに情報を届ける事が難しい

出所:Ubie実施の患者サーベイ (2022年2月実施、N=4,462、対象:直近3ヶ月に症状発症経験のある人)
  1. そもそも、病院に来ていない患者さんにリーチすることはできない
    製薬企業は主に医師に情報提供をしていますが、その先にいる患者さんは、当然ながら「現在通院中」の患者さんです。更に言えばお薬が処方できる医師にかかっている患者さんです。Ubieが過去に実施したサーベイによると、多くの患者さんは受診までに約半分が離脱し、診断がつくのは全体の4割に満たないのです。従来のアプローチ「だけ」では、診断が付く前の6割の患者さんに自社の薬剤を届けることは難しいことを示唆しています。

  2. 製薬企業がカバーしていない病院に行ってしまった患者さんに情報を届ける事が難しい
    製薬企業は相当な販管費をかけて医療情報を提供していると上述しましたが、全国にある10万もの病院を全てカバーすることは現実的ではありません。従い、自社の薬剤や類似の競合薬の処方実績がある医師や、診断をつけることができる専門医が在籍する医療機関を中心に情報提供を行うのが一般的です。(勿論、薬剤のポジションやライフステージによって戦略は異なります。)
    患者さんの多くは、発症したらまずは最寄りの医療機関や行き慣れた医療機関を受診するので、製薬企業がカバーしている様な専門的な医療機関にたどり着くには、かかりつけ医からの紹介を受ける必要があります。当然、ファネルが増えれば増えるほど離脱率が高くなるので、通院はしているものの、専門的な治療が開始できていない、という状態の患者さんが多く存在すると考えられています。
    全国の施設を製薬企業がフォローできれば理想ですが、「診断が付く前の患者さんがどこに、どれくらいいるのか」というデータは従来正規化されていなかったので、紹介元となる医療機関を回り切る事は難しかったと考えられます。

真のPatient Centricity実現を目指して

Ubieの製薬事業では、上述の様な課題を製薬企業とタッグを組んで解決することを志向しています。Ubieのプラットフォームとデータを介し、潜在的な患者さんの早期受診・早期診断の実現、並びに、治療中であるが、より適切な治療を必要とする患者さんへの標準的治療の導入を実現しています。

まさにUbieのサービスは、従来、製薬企業がフォローすることが難しかった、以下の様な患者さんにご利用頂いてるのです。

  • 受診前・診断前だが症状が出ている潜在的な患者さん

  • 通院中だが満足な治療を受けられていない患者さん

それも、月間1,200万人という規模で。
これまで、我が国における製薬企業のマーケティング活動=医師向けの情報提供という時代が長く続いていました。Ubieが登場したことで、従来のアプローチに加え、より患者さんを意識した活動に軸足を置き始めた企業様が増えている事を実感しています。

Ubieとのパートナシップを通じて、未受診の患者さんへのアプローチや、製薬企業がカバーしていない施設、カバーしているが高頻度にフォローできていなかった施設特定することで、より効果的な治療と患者さんのマッチング事例が増えてきているのは、まさに事業開発をやってきて良かったと感じる瞬間です。
「患者さんが適切な治療に出会える事の重要性」に対する業界の認知も年々高まっています。Ubieでは、「真のPatient Centricity(患者中心主義)の実現」をテーマとした業界向けイベント “Ubie Pharma Summit”を2023年から開催しています。回を重ねる事に、より多くの製薬企業の方々にご登壇・ご来場頂けるようになりました。

今年のUPS2024では、何と1,000名以上の方にご来場頂き気がつけば日本最大級の製薬業界向けイベントになりました。製薬企業の皆様のパッションを直に感じ、共に新たな一歩を創っていこうという想いを再確認できるのは、自分たちの進むべき方向が間違っていないのだと、大変勇気づけられます。

Ubie製薬事業の現在地と近い未来 - 三方良しの実現

ここまで、主にマーケティングの観点からUbieの製薬事業の話をしてきました。製薬企業とのパートナシップを通じて、治療を必要とする患者さんと適切な治療の出会いを実現することで、患者さん、医療機関、製薬企業の「三方良し」を実現していく仕事はとてもやり甲斐があります。事業開始当初は、Ubieのプラットフォームの規模も小さく、また、前例がなかったアプローチが故、価値をご理解頂けない事が大半でした。今では多くの企業様とのパートナシップが構築できています。
無論、足元の製薬事業もまだまだ足りないことだらけなのですが、
1. グローバル展開
2.創薬領域への展開

といった新たなドメインへの進出も同時進行で展開しています。


個人的には、創薬領域で日本のプレゼンスを回復したいという想いがあります。かつて、日本発の医薬品は世界売上上位300品目の内、53品目を占めていましたが、2021年には24品目にまで減少し、2026年には21品目にまで低下すると予想されています。

また、日本国内で開発された製品が日本では上市できないというケースも散見されます。ロジカルには費用対効果の観点で薬価が低い日本市場を見送る判断は理解できるものの、日本の企業が開発した製品が、日本の患者さんには届かない。。。とてももどかしい気持ちになります。背景には、本稿では触れていない日本の薬価構造という大きな課題があるのですが、またの機会に譲りたいと想います。まさにこれらの大きな課題はテクノロジーの力で解決したいテーマです。
創薬の領域でもUbieのプラットフォームやデータが活用できる様々なアイデアは既にあり、一部の製薬企業の方々ともディスカッションを開始しています。

We’re hiring!


長々とここまで書いて来ましたが、上記はUbieの製薬事業の本当に触りの触りです。
今まで誰もが解くことができなかった人類の課題である「治療」の受給マッチング。この課題を解決することは、多くの治療に悩む患者さんを救う可能性を秘めた、大変社会的意義が高い仕事であると考えています。
医療費問題、ドラッグ・ラグ、ドラッグ・ロスといった、今そこにある日本の社会保障問題の中核とも言える課題解決への挑戦とも言えます。やり甲斐あります。

お陰様で事業成長に対して、圧倒的に人手が不足しています!社会的課題の解決を通じて、Ubieのトップライン成長を牽引する製薬事業に興味関心をお持ち頂けた方、是非ともお話しさせてください!

現在、ファーマイノベーション事業本部でも様々なポジションがOpenしています。


まずは話を聞いてみたい!というのも大歓迎です!色々お話しましょう!

10月30日(水)のイベントにも登壇させて頂きます。是非!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?