未完成
私は彼女に『恋』をしているのだろうか。
手の甲に出来た浅い傷を撫でながら、
ペンを止めた。
・
私の手を引き、不条理なこの街を颯爽と駆け抜ける。すごい速さで駆け抜ける。
生暖かい風に反して、強さを増す雨に逆らいながら私たちは走った。
彼女の手を離してしまえば、もう終わりなのだと感じた。それだけが怖かった。
雨なのか、手汗なのか分からないが、
私たちを繋ぎとめる手元がヌメついていている。
そんな手を、彼女は再び力強く握った。
彼女の美しい縦爪が、手の皮膚に食いこんで
血が滲む。
手の甲が、熱く感じる
痛い。
雨水に滲んだ鮮血が、
次第にマーブル模様になっていく。
とても、愛おしかった。
これ以上の芸術を観たことがない。
私たちの心は今繋がっている。
この境目なんて無い、混じり合うマーブル模様と重なっているのだ。
彼女と私が同じ気持ちなのだと言う事が
何よりも幸せだった。
制服は、雨に濡れて下着が透けている。
次第にマーブル模様も薄まっていき、もはや赤とも言えないような、ピンクに近いただの色水になってしまった。
彼女はまだキャラクターのスポーツブラを
付けていた。
私が思っていたよりも、
ずっと傍にあったのかもしれない。
私たちが出会ったあの日からずっと。
・
何を考えているのかまるで掴めない、親友であるはずの私は、何も彼女のことを知らなかった。
知ったつもりでいたが、肝心の根の部分は、あえて気づかないフリをしていた。
それは彼女のことを何を知らないということを認めなくなかった。
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