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STRANGE STORIES

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奇妙だったり 不思議だったりする物語のコレクションです
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#多汗症

滝汗 流 の物語 第一部

久しぶりに男性を主要キャラにしてみようということと、今書いている長編の段落内構成をもっとうまく書きたいので、その練習をしようと思って、習作として書きました。 第一部  芭蕉の葉に似た色のワンピースを着た女性が私の前へ笑顔で現れた。が、差し出した手を私が握ると不快な顔になり 手を引っ込めた。眉間に皺が刻まれたまま お掛け下さいと言われた。 採用面接は失敗だった。 当然だ。採用というものは能力や経歴だけで決まらない。面接における印象 つまり採用担当者の感情に左右される。 相手

滝汗 流 の物語 第二部

第二部 ミスターシェイクハンドの日常 海に運ぶのは手間だ 途中で観られるかもしれない その点私の掌という沼に沈めてしまえばそんな問題は起こらない 忽然と部屋から消えて 行方不明ってことになる 大学を出てからこのアルバイトは私の本業になった 彼女と別れて以来誰かと親しく付き合うということもなく 私の心は固く閉ざされていった 私生活で誰かと言葉を交わすこともないが、それなりに日常はある。室温を十四度に設定して 汗が出ないようにした部屋で映画を観たり 本を読んだり 近くの浜辺を

滝汗 流の物語 第三部  完

      第三部 ミスターシェイクハンド再び 冬のある日 私と仲介屋は依頼を受けて大手町の高層ビルに向かった。 二十畳くらいの会議室に通された。 汗がじんわりと出てくるのを感じる 室温はたぶん二十度くらいだろう 男が話し出す 「私は依頼人の代理人です。本日 お二人に来ていただいたのには訳があります。それはこれまでのお仕事とは性質が異なるからです。作業自体は変わりませんが、人助けなのです」 私が身振りで続けるように示すと、 「あなたが溶かした人間は実は生きているんです」 妙