「出る杭」への誤解と環境の力学

出る杭の誤解

「出る杭は打たれる」という言葉には、日本社会の集団主義や調和を重んじる文化が色濃く映っているとされ、日本の悪い面の典型例とされています。このことわざは、突出した能力を持つ個人が周囲から抑圧されてしまうことで、能力を発揮できない様子を表すとされています。

この点の誤解を解くことが本記事の第一の目的です。すなわち、出る杭に喩えられるのは「周囲と不調話」を生み出す言動のことであって、「能力の高さ」ではありません。そして、この2点に直接の関係はありません。私の20年以上の社会人人生を振り返ってもそのような相関を感じたことはないですし、そのようなエビデンスを見たことはありません。

能力と人格のトレードオフ

よって、能力と人格を結び付けて考えてしまうのは、出る杭と言われる本人よりも、周囲の人間が抱える認知の歪み(正しく事実を見れない様)にあると考えられます。それが嫉妬です。

「能力が高い人は人格の点でどこか劣っているはず。そうであってほしい。そうでなければ不公平だ!」という、ネガティブな願望を含んだ嫉妬によって、能力の高い人材が攻撃の対象になってしまうのです。

競争と協調

ただ、「嫉妬は良くない、広い心を持ちましょう」と結論付けても根本原因に辿り付けません。第一、嫉妬は人間誰しもが持つ感情であり根絶は不可能です。むしろ、嫉妬が頻発に発現する原因を考察する必要がありそうです。

能力の高い人間が自分にとって不利益になる状況、それは会社(あるいは業界)が競争モードの場合です。会社や業界が成長しきって、それ以上の拡大が見込めない場合、限られた成果を取り合って社員同士が競争しあいます。個々の成功が他の人々の機会を奪うことになり、優秀な社員は蹴落とされることになります。

一方で、社員の関係が競争ではなく協調モードになる組織も存在します。それは会社や業界が成長している場合です。こうした環境では、個々人の成功が他者の利益を侵すことなく、むしろ協調して大きな成果を残せばWin-Winになります。例えば、衰退する日本の中でも唯一成長しているIT業界でこの傾向は顕著で、優秀な人を心の底からウェルカムしていまる風潮があります。そこに蹴落としたいなんて発想は湧くはずもなく、結果として人間関係も平和でストレスも溜まりません。

ただ残念ながら、日本全体で見ると、限られたパイを奪うしかない業界が多いですから、ストレスを溜めながら競争モードで働く人が多いんじゃないかなと思います。その悪循環の中で苦しむ人々の中で、能力の高さと人格欠陥が異常なまでに結びつけられしまったのではないでしょうか。

負の循環から抜け出すために

社員のメンタルヘルスケアに力を入れる企業も多くなっていると思いますが、残念ながら効果は限定的だと思います。根本原因にアプローチできていないからです。結局のところ、良い循環が回る成長産業や企業に身を置くしかないく、良い環境を積極的に求めて移動する姿勢が重要です。

もちろん、誰でも簡単にそれができるとは思っていません。置かれた環境から抜け出すのは簡単なことではありません。私は、日本の中でもかろうじて良い循環が回っているIT業界で働くことができていますが、IT業界の成長が頭打ちになったときに、別の環境を求めて自発的に動けるか?と言われたら正直自信はありません。

国家の衰退という避けようのない環境が競争の激化を招き、我々の心を荒廃させています。盛者必衰と言うように、この悪循環も自然の摂理だと私は捉えています。と、宿命論のような結論になりましたが、もしあなたが会社でメンタルをすり減らしたとしても、根本原因はトラブル相手ではなく、本記事で述べたようなどうしようもない環境力学が働いていることを理解するだけで気持ちが軽くなるんじゃないでしょうか。

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