見出し画像

生成AIの台頭とSaaS企業へのリスク

2024年5月31日、WSJがセールスフォースの決算が期待を下回る結果だったことを報道しています。

AIの脅威、クラウドソフト市場に迫る
https://jp.wsj.com/articles/salesforce-darkens-the-skies-for-cloud-software-as-ai-threat-looms-1946baa1
WSJより

ざっと記事を要約すると、ポイントは下記です。

  • セールスフォースの最近の四半期決算では、売上高の伸びが過去最低であり、ビリングの増加率も予想を大幅に下回る

  • 次の四半期の売上見通しも低い成長が予測されている。

  • これらの報告が投資家にとって失望の材料となり、セールスフォースの株価は大きく下落。

  • 他のクラウドソフトウェア企業も同様に厳しい市場環境に直面しており、AIへの投資の増加が企業間の競争を激化させている。

  • 市場分析家たちは、AIへの投資が企業ソフトウェア支出の減少につながっていると指摘。

このうち、特に気になるのは「AIへの投資の増加が企業間の競争を激化させている」という点です。

セールスフォースのようなSaaS企業のほとんどはサブスクリプション契約で儲けていますが、その内訳は大抵「基本料金 + ユーザーアカウント料金(数量比例) + オプション機能料金」です(話を簡単にするために、生成AIサービスの提供をメインとしていないソフトウェア企業をここではSaaS企業と呼びます)。

このうち、ユーザーアカウント料金はそのソフトを利用するユーザー数に大体比例して金額が決まるため、特に大企業や中堅企業を相手にしているようなSaaS企業では重要な収入源になります。

WSJ記事内では、この点について触れています。というのも、今アメリカでは生成AIへの投資と人員削減が並行して行われているためです。人員削減はダイレクトにSaaS企業の収益減少に直結します。

また、企業のIT担当者は手元の予算を生成AIに振り向けるか従来のSaaSに振り向けるかで逡巡しています。これもまたSaaS企業の業績に対しては下押し圧力になります。

しかしこれはアメリカの話です。同じような動きは近々日本でも起きるでしょうか。

個人的には半信半疑です。

アメリカと同じことが起きるとは言えない理由は、(悲しいことに)日本の生成AI活用度の低さと、雇用の流動性の低さです。

まず、生成AI活用度の低さについては日経が報じています。

企業向けのアンケートでは生成AIを業務で利用している割合は46.8%だった。米国(84.7%)、中国(84.4%)、ドイツ(72.7%)に比べて低い。

従って、顧客企業のIT予算獲得ゲームにおいて、生成AI企業にSaaS企業が押し負けることはしばらくなさそうです(日本社会として望ましい状態かどうかは微妙ですが)。

また、仮に企業が生成AIの活用に前向きになったとして、それがすぐ人員削減につながるかどうかについても、日本の雇用慣行からして私は懐疑的に見ています。

また、そもそもの問題として、生成AIの企業における活用については、今はまだ試行錯誤の段階であり、確立されたものは未だないと思います。実際、生成AI関連企業で利益が出ているのは半導体部門くらいではないでしょうか。

AI革命、すでに失速している
https://jp.wsj.com/articles/the-ai-revolution-is-already-losing-steam-64f8b4f4?st=efj42h2bx8l7xxj
WSJより

しかし中長期的なスパンで見た場合、SaaS業界には停滞のリスクが存在すると思います。

SaaS業界に身を寄せるものとしては、そのリスクにいかに備えるか、対応するかが今後のSaaS業界の課題になると思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?