見出し画像

初ヒット

ーーー2試合3打数3三振、1四球
それが彼女がプロ野球選手として残した数字だった。

プロ2年間の在籍は育成チーム所属だったこともあり、公式戦の数は限られていた。昨年の期間限定でのトップチームへの移籍期間でも、ついに出場機会を得ることができないまま、彼女はプロ野球選手のキャリアを終えた。

そして今年、彼女は地元である愛知県のクラブチーム「東海NEXUS」の選手となった。それまでのプロ生活からは環境が変わり、一般企業で仕事をする傍ら野球を続けることとなった。

チームは発足したものの、そのころには世界の状況がおかしくなってしまっていた。リーグに所属して試合をすることはおろか、練習もできなくなり、さらには外に出ることすら制限の続く日々。予定されていたリーグ戦も中止となってしまった。

去る11/14(土)に、ついに東海NEXUSは結成後初の公式戦に臨んだ。10月にも行われる予定だったセンターリーグの交流試合は天候不良で中止となり、暦の上では立冬を過ぎてしまった。発足から数えて9か月目の初めての公式戦となった。
まだ選手が揃っていないため連合チームでの参加となった東海NEXUSの結果は2試合で2敗。勝利を手にすることはできなかったが、この日チームの公式戦初安打を放ったのが、プロで安打を記録することができなかった青木悠華だった。

プロでは捕手登録だったが、東海NEXUSでは内野用のグラブで練習に臨んでいた。私も何度か足を運んだサポーター限定の公開練習では毎回練習着が土まみれになっており、新しいポジションで活躍をするために必死に練習を重ねていた。149センチと小柄な体格ながらバッティング練習では少しでも強い打球を飛ばそうと、守備練習では少しでも上手くなろうとボールを追いかけていた。

努力を重ねて挑んだ公式戦で、青木悠華がプロ野球選手として打てなかった公式戦でのヒットは、チームの歴史に残る初ヒットとして記録された。これから誰がどれだけヒットを重ねようとも塗り替えられることのない、チーム史に永遠に残るチーム初ヒットだ。
残念ながら私は試合を現地で見ることができなかったが、選手、監督、コーチ、関係者、サポーター、そこにいる誰もが彼女のヒットを喜んだことだろう。それは彼女の少しでも上手くなりたい、活躍したいという思い、姿勢があったからに他ならない。

この1本は誰もが忘れることのない、格別なヒットになるはずだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?