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古道探索のおすすめ 机上編

 実際に古道を訪れ、その場の雰囲気を味わうことは、当然楽しいのですが、出かける前に地図から古道を探してルートを机上で考えているときも、古道探索の楽しみのひとつです。
 今回は机上編として、準備としての自分が机上で行っている古道探索の手順と、参考にしている古地図を紹介します。現地でのナビも含めて、お手軽なワークフローになっているのではないかと思っています。

 まず、どうやって古道を探すかというと、自分は関東迅速測図を基にしています。


関東迅速測図

 関東迅速測図とは、古地図に興味がある方は今更だと思いますが、一言で紹介すると、明治の初期から中期にかけて、陸軍が作成した地図です。地図だけでなく、当時の風景を描写した視図というのも一緒に作成されており、歴史的価値の高いものです。
 鉄道も新橋・横浜間以外はまだ工事も始まっていない時代の地図なので、人馬で移動していた江戸時代後期の道筋が、そのまま残っています。
 そんな迅速測図が農業環境技術研究所という公機関からネット上に一般公開されていて、現代の地図と比較できるようになっています(下記サイトの比較地図)。

 道だけでなく、当時の街並みや田畑などの土地利用も記載されているので、暇なときは眺めて当時の姿を想像して楽しんでいます。

 主要な街道は、強調されて太めに描かれていて、現在の地図と比較することにより、現在の道路から古道を見つけることができます。

 それでは、古道からルートのGPS情報を抽出して、現地でのナビに利用するまでの手順を紹介します。
 PCアプリ「カシミール3D」と、スマホアプリ「スーパー地形」を使います。両方ともDAN杉本さんが開発されているこの分野では定番の素晴らしいアプリです。


ルート作成手順

①カシミール3Dに「関東迅速測図」を表示させて古道に沿ってルート作成
 カシミール3Dにはタイルマップ機能として、上記で公開されている関東迅速測図を表示させることができます。表示させた迅速測図上の古道に沿ってルートを作成します。

左:迅速測図(浦賀道東ルート)、右:古道上にルートを作成


②現在地図に表示を切り替えてルート確認
 ルートを表示させたまま、表示する地図を現在の地図(地理院地図3D)に切り替えます。

左:古道ルート、右:現在地図に表示切替


③現在地図の道に合わせてルート修正
 明治時代の簡易測量ですので、現在の地図との座標のずれが、どうしても発生します(それにしては十分信頼できる地図だと思いますが)。ずれは、ルートポイント位置をマウスで移動させて修正します。
 なお、まったく古道が残っていない個所もあります。その場合は、近くを通る現在の道に迂回ルートを作ります。
 あと、ルートに標高データを反映させるためには、GPSデータエディタで「標高値の書き換え」を行います。

左:元ルート、右:現代地図の道に合わせてルート修正


 ここまではPC上でカシミール3Dを使って作業します。同じことはスマホアプリの「スーパー地形」でも出来ますが、操作性と視認性から自分はPCで行います。

④PCで作ったルートデータをファイル(GPX形式)に出力し、スマホに転送
 
自分はメールのファイル添付で送付しています。

⑤スマホ上でファイルを開く
 GPXファイルが「スーパー地形」に関連づけされていれば、ファイルを開くだけでスーパー地形のルートに追加されるので、現地で該当のルートを選択してナビを開始します。
 GPXファイルでルートを設定できるナビアプリであれば、他のアプリも使えると思いますが、GPXファイルを開くだけでルートが設定されるのでスーパー地形が便利です。

スーパー地形・ルート表示


 以上が、独自にルートを作成する手順ですが、この手順が面倒だと思われる方は、旧街道のルートをネットで検索すれば大体出てきますので、参考にしてもらえればと思います(自分もいろいろ参考にさせていただきました)。
 先人が歩いた記録を参考にすると、地図だけでは判らない道の様子や見所を事前に確認できるメリットもあります。

 迅速測図は、関東平野を網羅していますが、関東以外では使えません。関東以外の古道探索には、多少時代は進みますが今昔マップが使えます。


今昔マップ

 今昔マップも、古地図に興味がある方には言わずもがなですが、国土地理院が発行した過去の地形図を現代地図と比較して見れるサイトです。
 だいたい1890年代から2000年代までの地形図の移り変わりを、参照することができます。
 開発された谷謙二先生は残念ながら2022年に亡くなられていますが、先生のご意志を継がれて公開が継続されています。
 今昔マップも、カシミール3Dのタイルマップ機能で表示させることができますので、同様に机上での古道探索に使えます。

 今昔マップを使うと、古道がどのように現在の幹線道路に組み込まれていったのか、もしくは取り残されていったのかを見ることが出来ます。
 その事例を最後に紹介します。


古道変遷の事例

 矢倉沢往還(田村通り大山道)のさがみ野駅周辺の変遷を見ていきます。

 まずは迅速測図においては、当然鉄道もないので主要な交通手段として矢倉沢街道が存在しています。

迅速測図(1886年ごろ)


 1921年ごろは、鉄道もまだ無く、あまり景観も変わっていなさそうです。街道の名前が厚木街道に変わってますが。

今昔マップ(1921年ごろ)


 1926年に二俣川から厚木まで鉄道(当時は神中鉄道、現代の相鉄線)が開通しますが、この時点では大きな変化は無さそうです。

今昔マップ(1928年ごろ)


 戦後になって、区画整理が行われ、宅地化、工場建設などの開発が始まったようです。整理区画外に別の幹線道路が設けられ、古道の一部は旧道として幹線道の座をあけ渡しています。

今昔マップ(1954年ごろ)


 高度成長期を迎え、更に宅地と工場が増えます。東名高速の工事も始まったようです(1968年開通)。

今昔マップ(1966年ごろ)


 急激に宅地化が進んでいます。246号線のバイパスも徐々に開通しています。旧道は厚木(大山)街道のルートから外れたようです。

今昔マップ(1976年ごろ)


 現在、主要な幹線道路としての役割は246号線が担いますが、地元の生活道路として古道が今も使われています。

現在


 上図の「写真」の位置から撮った旧道の風景です。
 旧道なのにまっすぐ延びる道が珍しいと思いましたが、地形の障害物が少ない平地なので、最短コースを進む道がつけられたと思います。

旧道の様子


 今回は、現地を訪れる前段として、古道のルート作成などをどうやっているのかを紹介しました。
 紹介したアプリは、自分も使い始めたばかりで、使いこなしているとは言い難く、もっといい手順や用途があると思います。今後何か新しい発見があれば更新したいと思っています。

 どれだけ興味を持ってもらえるかわかりませんが、少なくとも自分は、古地図を眺め始めると数時間は没頭するほど楽しくてしょうがありません。
 少しでもその楽しさを共感してもらえるように、今後も古道探索の楽しさを発信していくつもりです。

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