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ルネ・ヤーコプスのドイツオペラ 1:ラインハルト・カイザー(1674 - 1739) 「クロイソス」 (1710, 1730) その1

 正式なタイトルは「世俗の名誉と富の不安定さに関する本当の話 ー 高慢な、転落し、再び高位に返り咲いたクロイソス」、ドイツ語オペラの初期(?)の傑作と言えるでしょ。南方の港湾都市ヴェネツィアを後追いするように北の「帝国自由都市ハンブルク」でも貿易によって富を貯えた都市市民層が木戸銭さえ払えば誰でも観られる公開劇場」(↔︎宮廷劇場)であるゲンゼマルクト(意味はガチョウ市場)歌劇場(現ハンブルク国立歌劇場!)を1678年創設、そこで1710年初演されました。ヴェネツィア・オペラの影響は顕著ですが全篇ドイツ語歌詞です。
 ルネ・ヤーコプスに依ればヴェネツィア・オペラとは謝肉祭(カーニヴァル)の期間に上演され、観客は仮面をつけていたと。シリアスとコミック、宮廷と一般庶民の乱暴なまでの混淆、英雄やモラルとそれをおちょくる“謝肉祭的”な登場人物(たいがい従者、召使たち)が対位法的に配されます。19世紀にはリヒャルト・ワーグナー流楽劇の隆盛・支配に伴い抹殺された後、20世紀になってその真価が見直されました。この議論、吉田健一の「ヨオロッパの世紀末」を思い出す。18世紀に完成された後19世紀ヨーロッパは堕落に転じた、そして再生の季節としての世紀末。
 1730年再演版に基づくベルリン古楽アカデミーとの2000年録音、全三幕。
 シンフォニア(イタリア風序曲)に続く第一幕第一場リュディアクロイソス(バリトン)の財宝に溢れた宮殿、彼を讃える合唱。クロイソスはギリシアから来た賢人ソロン(バス)と語らい自らの幸福を誇示するが、ソロンはこれが幸福だと言うのか?死を前に人は皆平等だと諌める(ヴァニタス、人生の空虚さ)。ソロンを下がらせてのクロイソスのアリアは全編中四曲あるその第一曲目、盛りの時間が短いというのならそれを謳歌するまでだと聞く耳持たずの唄。…続く


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