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ペレアスとメリザンド その2

 最初の最初の録音は1904年の作曲者自身のピアノ伴奏によるメアリー・ガーデンの第3幕塔の場面抜粋が忘れられたアリエッタ三曲とともに残されています。私は第二次世界大戦前に録音された女声で心から感心感動できた事がないのでうまく評価できませんが、この録音に関してはドビュッシーのピアノ伴奏を称賛する声が多い。曰くアコスティック録音からでも驚くほどの色彩感が等。そこまではどうかとは思いますが、一種物々しいくらいのニュアンス付けは確かに感じられるかも。
 アンゲルブレシュトはドビュッシーとの交流が深く、いわば口伝えでその作品演奏の奥義を託されたというか自らもその認識で、また評価も高いので毎年毎年上演が続いた訳でしょう。クナッパーツブッシュのパルジファルそっくりの状況。
 アンゲルブレシュトのペレアスはグランドオペラ風というか、大オーケストラに支えられたともすると壁画的世界に感じられる時もあるんですが、それがドビュッシーの求めるものだったのか? 初演はオペラ=コミックなのでむしろこじんまりとした空間で、アリアやワーグナーの如き大声ではなく朗誦でという事だったんでは?
 この辺り、ビゼー「カルメン」受容の歴史を思い出します。オペラ=コミックとしての初演は理解されず、レシタティーヴォを補作されてグランドオペラ化して復活、その形で全世界に広まりました。アンゲルブレシュトにもドイツ占領下のマルセイユで「カルメン」の録音が残されていますが、前奏曲がゆっくりびっくり、どうもこれが意識的らしくカルメンやペレアスの演奏について論じた本で主張しているらしいですが、根拠は原文が読めてないんで分かりません。ただペレアスについて論じた部分の抜粋などをみると、他稿で触れたプフィッツナーと同じ匂いが…
 毎年恒例の“祝祭劇場”的繰り返しの中で、伝統芸能的な硬直が生じないものか。これまで聴くことの出来た三録音でそんな意識は起きませんでしたしむしろステレオ録音の恩恵を喜ぶばかり。1963年録音のリリースでイメージが変わらないかどうか。アンゲルブレシュトに関しては手放しで礼賛し難いアンビヴァレントなところが多いです。
 ロジェ・デゾルミエール(1898/9/13 - 1963/10/25)による世界初録音の方がむしろオペラ=コミックのイメージに近い、小回りの効いた新鮮さを感じるというのもパラドックスです。アンゲルブレシュトの18歳年下で慣例に囚われずスコアに向き合った感が強い。主役二人も当時二十代ですしね。ペレアスにある劇的なドラマ性をはっきり打ち出したなどと称され、その系譜としてジャン・フルネ(1913/4/14 - 2008/11/3、日本初演の指揮)、そしてブーレーズが挙げられる事が多いです。ブーレーズもパラドックス、ピリオド・アプローチなど目もくれず独自の斬り込みで大オーケストラのまま別次元の音世界に。ただ声楽特に独唱には甘い人で妥協が多い気が。声の魅力ではジャンセンやモラーヌたちにかなわない。(この項続く...)

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