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フィリップ・グラス 「サチャグラハ」(1980) その1

 初演がザ・フォトグラファーより前だとは知らなかった。録音が1985年だったために聴くタイミングが入れ替わってました。マハトマ・ガンディー(1869/10/2 - 1948/1/30)の“サティヤーグラハ”の思想を支える大きな柱であったマハーバーラタ第六巻のバガヴァッド・ギーターからの引用がサンスクリット語のまま歌詞にされている。結果第一幕第一場以外はストーリーと歌詞に直接の関連性はない。また一般の聴衆には歌詞の意味が直ぐには理解できない様に敢えてしているとも言える(ストラヴィンスキー「エディプス王」のラテン語歌詞同様)。オーケストラパートは弦楽器と木管楽器のみに電子オルガンが加わり、拡大されたフィリップ・グラス・アンサンブルという感じ。


https://english-national-opera-live.s3.amazonaws.com/wp-content/uploads/2016/02/Satyagraha-English-translation.pdf

 あらすじと実際に歌う人物役と歌詞を整理してみましょうか。副題として南アフリカでのM. K. ガンディー(1893-1914)と記載。意図的に年代を無視して朝から夜の順、一日の間の出来事であるかのような配置されている。初録音の解説では各幕に記された人物が舞台での出来事を高みから眺めているとの記載があったしグラスのホームページでも確認出来たが、各劇場の新演出では自由に扱っているだろうから齟齬を避けるために省略されているのでしょう。
第一幕 トルストイ
 第一場 神話上の戦場:神聖なる地、クルクシェートラ
 (クルクシェートラ)   早朝です。
  カウラヴァとパーンダヴァとの骨肉の争いは雌雄を決する大戦が差し迫っている。戦士や士官達は準備は出来たと法螺貝を吹いている。パーンダヴァのアルジュナ王子は御者のクリシュナ(実はバガヴァット即ち神の化身)に両軍の兵達が良く見えるように、と話しかける(この記載は単なるパガヴァット・ギーター冒頭の要約でしかない)。緩やかな流れでガンディー(テノール)が同内容を冒頭から歌う。そして原文第二章でのアルジュナ(バリトン)のこれから起きる戦いの虚しさへの嘆き(二重唱)とクリシュナ(バス)のそれを乗り越えるための答え(三重唱)を導く。更に合唱で大きく高揚するもガンディー一人になって静けさを取り戻す。
 第二場 1910年のトルストイ農場 午前中です。

  まずは少数の賛同者と共にではあるけどサティヤーグラハの実践を南アフリカで始める。トルストイ農場と名付けた多家族のシンプルで調和のとれた共同生活は一つの達成。原文第三章理論と実践についてのガンディーの独唱に続いてミス•シュレーゼン(ガンディーの秘書、ソプラノ)、カツルバイ(ガンディーの妻、メゾ・ソプラノ)、ナイドー夫人(ソプラノ)の三重唱が続く。更にカレンバッハ氏(Hermann Kallenbach、バリトン)。その後もロンドの様に入れ替わって登場する、五重唱に。
 第三場 1906年 誓い  正午です。
  南アフリカにおいて英国政府は全インド人再登録及び指紋採取を計画していた。そうなれば常に移住許可証が必要となり、警察は身分証明書を求めて家宅捜索が可能で犯罪が罰金、刑務所や国外追放で容易に罰する事が。3000人以上が参加した集会でこの暗黒法に死を賭けて抵抗すると誓いを立てる。ガンディーの支援者だったParsee Rustomjee(バス)、の独唱、世界は嘘を為す者のものではないと歌い出し合唱との掛け合い、急速な六連音のモチーフの繰り返しとその変奏。 続く…

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