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博物館と知識創造理論

知識創造科学との出会い
 知識創造科学(理論)とは、かつて1990年代、野中郁次郎氏が提唱した知識を基盤にした企業経営理論であり、「ナレッジマネジメント」として大いに注目された。イノベーションを生み出すために、暗黙知を形式知に変換し、組織で共有した知識から、新たな創造を繰り返し生み出す知識創造モデルである。

 私はこれまで30年以上、企業の展示空間デザイナーとして、博物館・科学館・児童体験施設などの展示・空間を専門にデザインをしてきた。その後、機会があって、95年には、アメリカで世界最大のチルドレンズミュージアム(インディアナポリス・チルドレンズ・ミュージアム)に数か月間、滞在し、当時日本では知られていなかった児童博物館の理念を学び、日本での展示設計に生かしてきた。日々の業務のなかで、同じような施設をいくつも設計するなかで、利用者にとって、本当に価値のある博物館とは何だろうかと言う思いが強くなっていった。
そんな折、2003年、知識創造科学(ナレッジマネジメント)という学問を知った。知識創造理論を応用し、市民参画による政策立案等の研究を行っている梅本先生(北陸先端科学技術大学院大学)を知り、現業をしつつ、約1年間、知識創造理論を学びながら、同教授から指導を受け、知識創造理論から新たな博物館の価値を研究し、「価値創造博物館」論文を研究成果として作成した。

 欧米のミュージアムはどうして、あのように活気があり、にぎわいがあるのか、ずっと考えてきた。一言でいえば、欧米のミュージアムは「文化」のひとつであり、市民の生活の一部になっていると感じていた。それに比べて、日本では、当時まだまだミュージアムは特別な場所で、特別な興味や知識をもった人が行く場所であり、日常から距離がある場という感じがしていた。
 ミュージアムは学芸員や研究者などの専門家が主体となり、歴史文化を保存・研究・展示・保存する場所でなく、もっと生活に密接につながり、市民が積極的に主役になる「場」になるべきだと考えていた。北陸先端科学技術大学院大学梅本勝博教授が提言する「市民の直接参画による知識創造自治体」という考えのもとで、市民が主役のミュージアム」とは何かを、知識創造理論による地域課題の発見と解決の手法に沿って、従来型のミュージアムとの違いを論じ、今後のミュージアムの方向性を論じ、21世紀の新たな「価値創造ミュージアム」を提言し、その特徴、可能性、活動の手法を論じた。
 私は、市民が主体となり、ミュージアムの歴史文化(知識の蓄積)を再発見し、現在の課題解決、地域づくり、自己の実現に生かす場とする。そしてこども、おとな、老人など多世代間交流により、市民地域学、まちづくり、自己の夢実現、多世代交流(老幼施設)などを目的とし、知の発見、共有、実践を行う「地域のナレッジセンター」として、ミュージアムは新たな価値創造の場となると提案した。

 個人の知識を体験により組織や地域で共有し、新たな知識創造へ生かす「知識創造理論」の考え方は大変興味深く、「博物館+知識創造理論(科学)」という考え方は、私にとって、大きな研究テーマとなっている。

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