乳幼児屈折検査のコツと弱視治療用眼鏡の度数設定
小児眼科勤務歴17年の視能訓練士ヤスです。
Instagramで子供の目に関する情報を主に一般向けに発信しています。
noteには、もう少し踏み込んだ専門的知識や自身の眼科臨床経験を『まとめノート』として記していきたいと思います。【医師監修あり】
今回は斜視弱視診療に携わる視能訓練士は知っておくべき『乳幼児の屈折検査』の知識と、クリニックでもすぐに実践できる『検査のコツ』をまとめました。
スポットビジョンスクリーナーやオートレフはもちろん、乳幼児の眼疾患スクリーニングとしても非常に有用な検影法(動的/静的)についてもわかりやすく解説しています。
特に動的検影法がマスターできると、かなり自信がつきますよ!
また、誰もが一度は悩む「弱視治療用眼鏡の度数設定」についてもその決め方を整理したので、ぜひ日常診療の参考にしていただけたらと思います。
★乳幼児屈折検査の苦手意識が払拭できる!
★明日からの臨床へすぐに活かせる!
そんな内容になっていると思います。
乳幼児に対する主な屈折検査とそのコツ
スポットビジョンスクリーナー(SVS)
スポットビジョンスクリーナー(以下SVS)は1m離れた距離から両眼の屈折度数を同時に図れる器械です。
この器械が登場してから乳幼児の屈折検査の精度は格段に向上し、弱視をはじめ多くの眼疾患の早期発見に貢献しています。
対象年齢としては『生後6ヶ月から』となっていますが、撮影モードに年齢区分がないだけで6ヶ月未満の乳児も撮影自体は可能で、眼疾患の早期発見にも有用とされています。
・暗室や半暗室であれば4mmモードでも測定可能率は100%近いが、明室では測定が困難なこともある(測定可能率70%程度)。
小児は暗室や半暗室での測定を怖がることもあり、その場合は明室で3mmモード(20〜100歳モード)での測定を行うと良い。
※3mmモードでの測定であっても据え置きレフラクトメータ(KP8100PA)での測定値と有意差はないとの報告も過去にある。
(日視能訓練士協会誌 Vol.49 2020 p113-118)
・SVS測定にて15°以上の頭位異常(特に顎下げ)があると、正面視での屈折値と有意に差が出る。(日本弱視斜視学会雑誌 第49巻 2022 p82-85 参照)
・乳幼児の撮影では円柱度数がばらつく傾向がある。
乱視度数が強いほどその傾向が強い。偽陽性として検出されることが多い。
SVSで異常値の乱視を検出した場合は、再現性をチェックするために複数回の撮影を行う。
また、検影法(詳しくは後述する)で直接眼底からの反射光を確認し乱視様の反射が見られるかを確認してSVSの結果との整合性をとることも大切。
※オートレフが可能な年齢であれば、SVSよりオートレフの方が円柱度数の信頼度は高い。
・6ヶ月以下の乳児は体動が少なくSVSの検査成功率が高いにも関わらず、測定が完了しない例では眼疾患が隠れている可能性が高い。
日本弱視斜視学会雑誌 第49巻 2022 p11-15の報告にて、「SVS測定不能だった4例中3例に眼疾患(白内障、外転神経麻痺、乳児内斜視、先天無虹彩)を認めた」とある。
それとは逆に、SVSで異常なしと判定された52例のうちの9例に眼疾患を認めたため、SVSのみで眼疾患をもれなく検出するのは限界があると認識しておく。
(日本弱視斜視学会雑誌 第49巻 2022 p11-15)
・小児の白内障では、強い混濁がある場合はSVS測定不能となるが、軽度であればSVSでは正常にでることも珍しくはないので見逃しに注意。
・斜視の検出精度は、SVSで斜視と検出された12例の内8例が眼科医の眼位検査で斜視ありと判定(偽陽性は7.1%)、SVSで斜視なしと判定された52例はいずれも眼科医の眼位検査で斜視を認めなかった(偽陰性0%)。
(日本弱視斜視学会雑誌 第49巻 2022 p11-15 )
この結果からもSVSで測定が完了できた場合に恒常性斜視を見逃す可能性は低いと言えるため、斜視のスクリーニングとしての信頼度は高い。
ただし、恒常性斜視の場合、測定が完了せずに測定不可となることも多く、また撮影ができても屈折度数の精度は落ちる傾向がある。
その場合は片眼ずつの撮影モードで撮影すると測定が可能になることもある。(斜視眼の測定の際は固視眼を親御様の手やアイパッチ等で遮蔽して撮影する)
・測定範囲(球面度数S±7.50Dまで、円柱度数C-3.00D)を超える結果を示す症例では、静的検影法(※詳しくは後述)もしくはオートレフやハンドレフにて度数を確認する必要があるが、これらの検査が難しい場合は、未矯正で過ごすよりはベターな選択と考え、SVSで得られた値で眼鏡を処方する。
経過中にオートレフ等での測定が可能になった時点で、屈折と眼位の精査を行い、眼鏡度数を調整し再処方する。
オートレフケラトメータ
オートレフケラトメータのメリットはなんといっても検査精度の高さと測定範囲の広さです。
また古くから屈折の標準検査として利用され、改良されてきているので安心感があります。
また、連続で複数回の撮影が可能で、その検査結果の信頼係数の表示があるため、総合的に数値の信頼度を評価しやすいところも他にはないメリットです。
さらには、モニターに角膜のマイヤーリングが表示されるために、角膜の微細な障害(子供なら内反症によるキズ等)の有無も大まかに把握可能です。
デメリットとしては、子供でも顎台にしっかりと顔を乗せてもらわないと撮影ができないため、怖がるお子様やADHDなど注意散漫なお子様では信頼できる数値がなかなか得られにくい点です。
安定して検査ができるのは概ね4〜5歳頃からですが、3歳頃からでもうまく測定するコツを以下に説明していきます。
【 子供のオートレフ測定のコツ 】
① 幼い子供の場合、顎台に安定して顔を乗せることや視線を固定することは困難です。
5歳未満の小児は(5歳以上でも固視不良あれば)、まずマニュアルモードで複数回の測定を行い、多少信頼度が落ちたとしても数値を出すことが大切です。(特に子供が検査慣れするまでは)
屈折値の信頼度は複数回の測定によりカバーします。
固視が安定しないと撮影できないオートモードの撮影にこだわり、屈折値を検出する前に子供の集中力が切れるといったことはよくある失敗パターンです。
特に弱視眼の撮影時は余計に固視は不安定です。
マニュアル撮影後にまだ子どもの集中力が持続できていればオート撮影もトライするという優先順位の検査がベストです。
低年齢児でもオート撮影が可能だとわかれば、カルテに「オート撮影可能」と記載しておくと次回検査がスムーズになります。
② 子どもを椅子に誘導する前に器械の設定、台や椅子の高さ調整をしておくとスムーズな流れで検査が可能です。(以下参考に)
・3〜4歳児は椅子はやや高めに設定し、親御様に抱っこしてもらって撮影が基本。
※4〜5歳児以上は1人で座って撮影。
・顎台は一番高い位置に設定しておく(子供の顔が小さいため)
・検査台は低めの位置に設定しておく(子供の座高が低いため)
・5歳未満はマニュアルモードに設定しておく
③ お子様が座ったら、穴を覗いてもらえるように声かけをします。
「この中に何が見えるかな?教えてくれる?」
「アンパンマンがいるかも!」等
比較的怖がらずに興味を示すお子様であれば、頭を無理に押さずに自分で乗せようとするのを少し待ちます。
乗せようとアクションを起こしたら、さりげなく手(利き手と反対側の手)で頭を支えて位置を調整しますが、それと同時にすぐ質問攻めを開始します。
※ 怖がって顎台に乗せることもできない子は無理矢理押さえてもまず測定できないので、恐怖心を助長する前にあきらめてさっと他の検査へうつりましょう。「できることからやる」が小児検査の鉄則!!
④ 声かけの方法とタイミングにも少し工夫が必要です。
ただただ子どもと仲良く会話するだけでは測定はうまくいきません。
NG例とOK例を示します。
NG例が絶対にダメというわけではないのですが、OK例では視能訓練士が質問している時間をできるだけ長く取り、お子様が話すタイミングを上手にコントロールしている点が異なります。
こちらが話している時間は、子どもはそれを聞こうと聴覚に意識がいきやすくなり、その瞬間は視線が安定しやすい傾向にあります。
子どもが喋っている最中は顔が動くので、聞いている隙を狙ってマニュアルモードでの連続撮影(撮影ボタン押しっぱなし)を行います。
お子様の頭が離れやすい場合は、利き手でスティック操作、反対の手で頭を後ろから支えます。
(親御様がいる時は頭をさりげなく支えてもらいます)
お子様が好きなキャラクターなどが分かれば、そのキャラの話をするとさらにうまくいきやすいと思います。
調節介入は免れませんが、まずは数値(屈折値)を出すことと子どもが検査に慣れることを主目的と考えます。
検影法(静的・動的)とred reflex法
検影法は検影器から開散光を眼底に照射し、瞳孔内に見える眼底からの反射光と影の動きを観察することで、患者の屈折状態を評価する方法です。
検影法には静的検影法(static retinoscopy)と動的検影法(dynamic retinoscopy)があり、前者は調節麻痺下にて屈折度数を調べる方法で、後者は他覚的な調節検査として主に小児の眼疾患のスクリーニングに用います。
red reflex法は同じく検影器を使用して、眼底からの反射光の明るさや左右での違いによって眼内の疾患を発見する方法です。
外国人は眼底の色素が少ないので赤い反射red reflexが返って来ますが、日本人ではオレンジ色~黄色の反射になります。
角膜、水晶体、硝子体のような中間透光体に濁りがあると綺麗な反射が返って来ず、瞳孔の中が暗く見えたり、影が映ったり、 また眼底に腫瘍や大きな病変があると白色など異なる色の反射になります。
検査を行う時は明室ではなく、半暗室〜暗室で行う方がわかりやすいです。
後述する動的検影法の一環としてこのred reflexも行います。
投射光は点状と線状がありますが、自分は視能訓練士でもポケットに入れて持ち歩けるポケレチライト(ORT-Y)を使用しており、これは点状の検影器になります。
【静的検影法 static retinoscopy 】
静的検影法はオートレフがまだ検査不可能な乳幼児に対しての屈折検査として行うことが多いです。
現在はSVSが登場したので必ずしも行う必要がなくなってきてはいます。
ただ、SVSの測定範囲が狭く(球面度数S±7.50Dまで、円柱度数C-3.00D)、屈折異常が中等度以上(±4D以上)の場合は精度が少し落ちる可能性があるため、現在でもSVSと併用しながら行われています。
基本的には調節が介入しない状態(調節麻痺薬使用の遠方視下)で行います。
◎ (理論上) ∞遠方から瞳孔を観察した場合…
逆行→近視、中和→正視、同行→遠視
となるが、実際に遠方からの観察は不可能なので…
+2Dの板付きレンズを使用する(前置する)ことで、50cmの距離からでも∞遠方からの観察と同等の条件下にすることができます。
逆行→ ‐2.00Dより強い近視
中和→ ‐2.00Dの近視
同行→ ‐2.00D未満の近視 ・正視・遠視
上記のように屈折をふるい分けした後、前置レンズの度数を逆行ならマイナス寄りに、同行ならさらにプラス寄りに変更していき、中和が得られる度数を求めます。
最終的に中和が得られたレンズ度数から2Dを減じた値がその目の屈折値となります。
例)+2Dを前置した状態で同行
→レンズをプラス寄りにシフトしていく
→+6Dのレンズで中和
→(計算式に当てはめると)6(D)ー1/0.5(m) = 4(D)
【乱視の精査】の測定も行う場合は、水平だけでなく垂直方向へのスキャニングも必要です。
垂直へのスキャニングはポケレチライトを下図のように持って、縦にスイングさせると観察しやすくなります。
水平と垂直でそれぞれスキャニングして、それぞれの方向で中和が得られるレンズ度数を求めます。
それをスコア式に当てはめて計算します。
斜乱視の場合は反射光が斜めに動いて見える(下図)ので、その方向に合わせたスキャニング、直交方向へのスキャニングを行い、中和が得られるレンズ度数をそれぞれ求めます。
※例) 150°方向に光が動けば150°方向へのスキャニングと60°方向へのスキャニングを行う。
反射光の見え方については、ナイツの公式YouTubeがわかりやすいので参考にしてください。↓↓
【動的検影法】
他覚的に調節反応を評価することができる検査法で、主に小児の眼疾患(弱視や斜視、眼内疾患等)のスクリーニングとして行われます。
これをマスターすると、乳幼児の弱視や斜視、また眼疾患の見逃しがかなり避けられるようになるはずです!
ここから先は
¥ 500
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?