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【アイデンス】レイニークリスマス

 アイデンは一人、病院の待合室にいた。

 ここは事故現場から車で三分もかからない距離にある『ナナク大学病院』である。事故車がサークの父親の会社のものだとわかると、サークはスマホに来ていた連絡を確認し、その足でここに駆けつけた。その流れで病院についてきたアイデンは、流石に病室に入るわけにはいかず、こうして待合室でボーッとしている。

 時刻は零時を回った。まだ起きて一時間も経っていないというのに、この一連の出来事で脳は覚醒状態だった。アイデンは自分を落ち着かせるために、今回の事故について振り返っていた。

 此度のナナク四つ角における交通事故は、軽のワンボックスカーとリムジンの正面衝突によるものだった。乗っていたのはどちらもドライバーのみで、その二名はアイデンたちが現場に到着したときは、すでにこの病院に運び込まれていたらしい。だが、その容体はその時点で絶望的で、助かる見込みはほとんどなかったらしい。待合室から双方の関係者の動向を見ていたアイデンは、その雰囲気から良い知らせはないのだと悟った。

 窓から外を覗く。雨は止む気配がない。今夜がクリスマスだと言うことも忘れさせるこの騒動は、アイデンを眠らせてくれそうにない。そんな予感を感じていた。

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