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【唖然】NHKによるロッキン2024の”解禁破り” なぜ水戸放送局は暴走したのか?

8月9日、日本最大の野外ロックフェスティバル、ROCK IN JAPAN FESTIVAL(通称ロッキン)を巡ってNHKが異常な”独自”報道を行いました。

しかし、このニュースを巡って主催者は猛抗議。「フェスの最終日にファンたちと喜びを分かち合いたかったのに、NHKに台無しにされた」ことに対して強い怒りを露わにしています。今回は、その一連の報道に関連して、NHKの裏側に資料をベースに迫っていきましょう。

ロック・イン・ジャパン2024を巡るNHKの報道への主催者の抗議

私が今回の件を知ったのは、主催者の発表からでした。

いろいろな調整を経て決めた開催発表の日程でした。何度もNHKには開催発表を公式と揃えることをお願いしましたが、全く聞いてもらえませんでした。

公式と同時に発表し、開催を祝ってほしい。僕の望みはそれだけです。そんなに緊急性のあるニュースなんでしょうか?確かに話題にはなるでしょう、でも本当にフェスを盛り上げるなら同時発表の祝祭感を作って欲しかった。

何度もリークはやめて欲しいとお願いしましたが、叶いませんでした。

あの蘇我の終演時にビジョンでひたちなか開催を発表する時の高揚感、それだけを楽しみに頑張ってきました。とても重い気持ちです。

主催側の渋谷氏が発表した文書より抜粋

エンタメ系ニュース媒体で報じられた他、X(旧Twitter)上でもNHKに対する抗議の声が渦巻いています。

事態を重く見たのか、NHK水戸放送局も早速次のような事実上の“謝罪文”を主催者に送付。早くもNHKが完敗を認めた形です。

ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2023
総合プロデューサー 渋谷 陽一様


 平素よりNHKの放送と事業にご理解を賜りまして、誠にありがとうございます。

 「ロック・イン・ジャパン・フェスティバル」は、国内最大規模の野外音楽フェスティバルで、開催場所が2022年から千葉市内に変更されたあとも、茨城県内では「国営ひたち海浜公園」での再びの開催を待ち望む声があり、地元のNHK水戸放送局としましても、音楽ファンはもとより、地域振興に与える影響など、様々な側面から非常に関心が高いと考え、取材を重ねてきました。
 今回の報道は、関係者への取材により、来年のイベントを国営ひたち海浜公園でも開催する方向で最終調整されていることがわかったため、広く伝える意義があると判断し、お伝えしたものです。
 一方で、開催について、関係者の皆様が様々な調整を重ねてこられた実情をくみ取り切れておらず、ご指摘を真摯に受けとめて、今後の報道に生かしてまいります。

NHK水戸放送局

主催者が公表した、NHK水戸放送局名義での“謝罪メール”

確かに、ロッキンはコロナ禍におけるエンタメ業界を象徴する問題でした。行政・医師会との利害の衝突なども多数報じられてきた中、NHK的には「ニュースバリューがあるから報道に踏み切った」と捉えられなくもありません。

実際、このニュースを巡っては、自称新聞記者やメディア関係者が「NHKは普通のことをしただけ」・「文句をつける主催者がおかしい」的な論調のPostを多数投稿しています。

自称ジャーナリスト達の奇妙なNHK擁護

文藝春秋への所属を明らかにしながら、NHK側を取材せずにこんなPostを行う人がいるとは正直呆れました… 他にも新聞社系のアカウントで類似の論調が多数見られました。貴方達、NHKのような巨大権力に対しては、「不正」を前提に疑いの目を向けて真相を暴き出すのが仕事じゃないんか?

前田改革の最中に生まれた“火種”

少し前置きが長くなりましたが、実はこの件、NHK側が「独自」を打った背景にあったのは「ニュースバリュー」とか「知る権利に応えるため」といった通常の報道基準ではありません。いや、それも少しはあったかもしれませんが、単なるオマケでした。

原則局長級幹部のみが回覧するNHK内部の資料を読み解くと、SNSで「バズる」ことだけに執着したNHK水戸放送局の異常性が浮かび上がってきました。奇しくも、前田改革の一環として、ネット受信料獲得のためにWeb業務を膨張させていた頃に、今回の“事件”の火種が生まれていたのです。

発端は、2022年に投稿されたNHK水戸放送局のあるツイート

なぜ、今回のような事案をNHK水戸放送局が起こしたのか?その発端は、2022年1月のツイートでした。

NHKが証拠隠滅した場合に備えて、公益のための観点から、当該投稿を画像でも貼っておきます。

NHK水戸放送局の投稿(2023年8月11日AM6:15にスクショ)

この投稿、奇妙なことに午後0:00ピッタリになっていますよね?

ちなみに、ニュースへのリンクは切れていますが、第一報は当日の全中昼ニュースに先立ち、11:59にWebへとアップされています。

実は、この時もNHK内での扱いは【独自】(※いわゆるスクープ、PDの私も幾つか持っています)でした。しかし、【独自】が、昼ニュースで原稿が読まれるよりも前にWeb投稿されたばかりか、Twitterにまで投稿されるとかおかしいと思いませんか?

このツイート(現post)こそが、今回のNHK水戸放送局暴走の引き金となっていたのです。

若者へのニュースのアピールだけが目的だった

取材を進めると、暴走を紐解く鍵となる資料「地域改革通信」という内部文書を入手することができました。これは、全国局長会議に関連して作成されたもので、部長級以上の幹部だけが原則回覧できます。

地域改革通信とみられる文書

この中で、当時の水戸放送局長が報告した、一連のツイートと報道連動の取り組みが異様なまでに激賞されていました。

水戸局長の報告も、意欲的なデジタル活用事例です。若者の関心を集めそうな特ダネの1報を、放送に先んじてツイッターで発信したというものですが、狙いは大当たり!その一方で課題も浮かび上がりました。

地域改革通信

一体、どんな狙いがあったのか?連中にとっての課題とは何なのか?文書を詳しく読んでいきましょう(なお、取材源保護の観点から、文意を保ったまま一部改変しています)。

水戸放送局から『ニュースの独自ネタ、ツイッターで狙い通りバズる!』について報告いたします。1月5日、『ロック・イン・ジャパン・フェスティバル』が、千葉市に会場を変更すると発表されました。3年前は、Official 髭男dism など人気アーティストも出演する夏の一大イベントでしたが、コロナ禍で中止。対策のしやすい会場にやむなく変更したというのがその背景です。これは、地元経済だけでなく、県外を含む多くの若者にとって悲しい大ニュースでした。

地域改革通信

のっけから、局長級幹部とは思えないような軽いノリですが、私が紹介した0:00のツイートこそが、「狙い通りバズる」ための仕掛けでした。

この先には、独自情報をどのように掴んだのか?一体、どのような調整を経て報じられたのかが赤裸々に語られています。

実はこの情報、水戸局の記者が年末にはつかんでおり、報道のタイミングを主催者と交渉してきました。

特ダネの第1報をテレビやラジオで発信していたこれまでとは違い、水戸局公式アカウントから発信しようとニュースデスクが仕掛けました。若者に極めて関心の高いニュースだけに、テレビに先駆けてツイッターで発信すれば必ず“バズる”はず!若者に対し、NHKニュースの強力なアピールにすることが狙いです。

情報が事前に漏れたら作戦は水の泡、1秒を争い確実に最速でツイートするために、デジタル担当と綿密に相談しながらもネタの内容は伏されていました。「敵を欺くには味方から」はNHKの基本ですよね。

主催者に迷惑をかけないよう報道解禁のタイミングを粘り強く取材した結果、主催者発表と同時刻の昼12時で決着。水戸局公式アカウントから速報ツイートを投稿しました。

地域改革通信

これが、奇妙な0:00の投稿の真相です。ただし、SNSが完全先行したとなると問題と考えたのか、当該ニュースのWeb記事の公開時刻は11:59に設定されていましたので、プチ解禁破りではありますね。

既に削除されていますが、一連の報道の経緯は公式サイトでも公開されていました。WebArchiveから読めるのでリンクを貼っておきます。

首尾よく、全中ニュースに先立って第一報をツイッターで打つことに成功した水戸放送局。その後の経緯の報告には、高揚感さえ伺えます。

するとツイッター上のトレンドにはすぐに「ロッキン」(ロック・イン・ジャパンの略称)、「ひたちなか」のワードが入ります。もちろん12時15分からの県域昼ニュースはトップ項目で報道!13時ごろには、ツイッターのトレンド1位に「ロッキン」、3位に「ひたちなか」がランクイン。14時すぎには、2つのワードに紐づくツイートとして水戸局のツイートがインプレッションされるようになりました。

ちなみに若手職員によると、ハッシュタグを「#ロッキン」にしたのが勝因とのこと。若い音楽ファンには「ロッキン」で通っているため、「ロック・イン〜」だったらここまではバズらなかっただろうとのこと。

地域改革通信

確かに、ツイッターではハッシュタグでロッキンとありますが、この時のニュース原稿は正式名称です。これ以後のニュースや今回の報道では「ロッキン」からタイトルをスタートさせていますので、この時の成功体験がいかにNHK水戸放送局的に革命的な事象だったかが伺えます。

営業(デジタル担当)までもがグルだった

AK(渋谷)一強のNHKにおいて、とりわけ存在感が薄い首都圏の水戸放送局。小さな地方局がツイッターのトレンド1位に関与したことは、職員達にとっても異様な興奮となったようです。

さらに、私の元にはデジタル担当が作成した資料が寄せられました。

局内報告資料とみられるもの

主要メディアに先駆けて報じたことや、エンゲージメントが他よりも高かったことを「全て水戸局以下でした」と、下品なまでに誇っています。

自画自賛の勢いは止まりません。資料の中には、次のようなスライドも含まれていました。

局内報告資料とみられるもの

「圧倒的な速報性や適切なハッシュタグにより、ネットのトレンドに乗って拡散された」と、まるで北朝鮮の報道を見ているかのようです。

まぁ、私の担当番組なんて大体トレンドになってたし、私個人のアカウントさえもトレンドになったことがあるくらいだから大したもんじゃないが、これが一つの“成功体験”として水戸放送局には刻み込まれてしまったのです。

2022年のロッキン報道における呆れた「課題」

成功裡に終わったと見受けられたこの施策、一方の「課題」とは何だったのでしょうか?文書内には、次のような記述がありました。

最後に課題です。今回の取り組みは肝心のTVの接触率も大きく押し上げるのではと期待していたのですが、結果はツイート直後の県域昼ニュースは12 月平均比で+0.@ポイントと誤差でした。

ツイッターは威力ある大事なツールですが、最終目的はやはりあくまでもテレビ視聴です。”バズリ”を接触率向上に結び付けることが今後に残された課題です。

地域改革通信

そりゃ、当たり前だろって内容です。あのねぇ、幾らSNSでトレンドになろうが炎上しようがWebで記事化されようが視聴率には全く影響無いよ。そんなの総合テレビの定時番組でもわかっている「常識」です。

裏を返すと、担当者からポスト長・局長に至るまで、視聴率や接触率は変わらないとわかっていながら、SNS上で目立って他の地方局に対して優位に立ち、自らが出世競争で優位に立つために行なったことだと考えられるのです。

そのために無駄な人件費を使い「デジタルファースト」の掛け声で、放送の「補完」を超えたWeb展開がなされていたわけですから、放送法にも抵触する極めて危うい取り組みでした。

前田改革で叫ばれた「外部環境への適応」とは、要するところネットへの膨張です。要するにネットで存在感を増していくことで、単にインターネットに接続しているだけで受信料を取る「ネット受信料」への野望が背景にはありました。そして、この文脈の先に、あの9億円不正もあります。

報道によれば、必須業務化した場合の配信対象は「放送番組と同一のもの」に加え、「災害情報、字幕(放送番組の原稿)など国民生活に必要な情報」に絞ることと、ネットオンリーの受信料はアプリからの同意確認などを取得することになりそうで、ヒマネタを「デジタルファースト」で出すなどの暴走には一定程度の歯止めが掛かりそうな公算ではあります。

ちなみに、私は新聞嫌いが甚だしい人間ですが、今回の一連の新聞側の働きかけについては、NHKが放送局として再生するために必要なことだと捉えています。

そして、2023年の暴走へ

と、ここまでの経緯を踏まえて、今回の暴走を改めて見てみましょう。

消されないように、8月11日午前7:50時点のスクショも載せておきます。

水戸放送局の暴走(公益のためスクショ掲載)

投稿時間は午後8:39となっています。全中にはお買い上げして貰えなかったのか、時間帯的には845の前ですね。前回の「デジタルファースト」よりも更に5分早められています。直前ではなくて、5分前と少し余裕を持つことによって、ローカルニュースの視聴率・接触率が向上することを期待したと考えられます。

しかし、前回が1日経過時点で4476RT、1735引用RT、4224いいねだったことを思えば、圧倒的な成功と言えるかもしれませんね!

原稿の締めには次のような記述があります。

9日夜、NHKの取材に対して、運営側の広報担当者は、「確定はしていないが、現段階では最終調整しているところだ」とコメントしています。

ニュース原稿より

一応、主催に改めて当てた結果として、「うーん、やっちゃえ!」と判断したのでしょうね。というか「この温度感だったら、去年の経緯もあるし炎上することも無く、むしろ歓迎されるだろう」と甘えたようです。

主催からすれば、去年と同じように公式の発表に揃えて欲しかったところ、NHKからすると「他社や地方紙がフライングして抜かれるかもしれない」という、記者の世界だけの内輪の恐怖があったのでしょうね。あれだけSNS展開の準備もしてきたのが「水の泡」だ、と。

NHKの地域放送局の役割に反する愚行

もちろん、今回の【独自】にニュースバリューが無かったとは私も思いません。ただ、わざわざ【独自】にする意味があったとも思えません。今回について言えば、ただ単に、2022年に「課題」として浮かび上がった「放送への還元」をリトライするためだけに【独自】を出したのですから。

では、なぜ今回の件に関連して「事実を知ったら報道するのが記者の役割」のようなメディア関係者の擁護が的外れだと言えるのか?この点については、まずそもそもの地方局が果たすべき役割を考える必要があります。

まず、NHKの地方局(地域放送局)に求められる役割は、地元と良好な関係を築いて地域振興を応援することです。今回で言えば、ニュースバリュー云々よりも、主催者と円満な関係を築きながら、イベントが成功のうちに閉幕して、密着ドキュメンタリー等の番組まで展開しつつ、さらに来年度以降にも緊密な関係を築いていくことが最大のミッションでした。

ここがどうもNHKの職員でも理解出来ていないようで、私のような制作局系の人間からすれば当たり前でも、NHK職員記者の中にさえ今回の件を受けて「知ったことはASAPで出して何が悪いのか」と開き直る者が多数います。

そういう連中に限って、例えば先日の岸田総理ウクライナ訪問に関しては、深夜のうちに汎用化まで済んでいたのに、ご丁寧に政府の指示に従って「解禁待ち」をして大谷選手の中継に速報を突っ込んだ件はだんまりです。

証拠の画像を掲載していますので、ご覧ください。

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