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愚鈍に生きる
母親は軽い痴呆。足も悪い。
先日、突然こう言った。
湘南在住。6才から幼馴染の友達が家を新築した。どうしても会いにゆきたい。
1人は無理。一緒にお供で連れて行った。
駅で老女2人、約30年ぶりの再会。
お互い手を取り合いはしゃぐ姿はまるで小学生。
お友達のkさんはオノ・ヨーコ似。大地主の
娘で大昔、通産省にお勤め。
つまり、生まれながら富裕層で容姿端麗。頭脳明晰。
対して母親は僧侶の父親が早死。
生活は貧困。夫と共に自営で昼夜働き通し。
天然で人を疑わない。
生き様は真逆。面白いな。
そう考えてたら、いきなりKさんが
私の目を見てこう告げた。
K「○ちゃん(私)が出来た!妊娠したって電話口で言われた時ね…」
私「はい。」
K「悔しくて…とにかく悔しかったの。」
私「……は?(いきなり何言う?)」
K「子供が欲しかったけど、中々出来なくて…先越されて…悔しかった。2年後にやっと身籠って娘を授かったから、良かったけど…。」
その後、悔しかった気持ちを吐露しだす始末。
え?…つまり勝ち続けてきたのに、唯一
妊娠→出産は先を越された。勝てなかった。
え?出産マウント?今更言う?
しかも私に?
脳内ドン引き状態な自分。
そっと傍らの母の様子をチラ見した。
大好物の茶碗蒸しを匙で口に運ぶ。
「アラ!そうだったの?」終始笑顔。
母はマウントされてることすら理解していない。
痴呆だからではなく、昔から人の心の機微に愚鈍な母。
子供の頃、何度も歯がゆい思いをした。
母は損をしてる。と感じていた。
だけど、そのおかげ?で他者の闇にも気づかない。全て聞き流す。(笑)
マウント志向のKさんには格好の話し相手なんだろう。
最初はドン引きしてたが、会話に慣れてくると俄然、面白い。マウントが全く通じないので、毒にもならない。
ボケとツッコミの漫談状態。
吉本新喜劇みたく何度も椅子からずり落ちそうになる。(笑)
帰り道、老女2人。杖をつき海岸沿いをヨロヨロ歩く。
K「長生きしてよ。話し相手(マウント相手)いなくなるのは嫌!」
母「はい。はい。あなたも長生きしてね」笑顔。
生きる。ただ生きる。
「楽しかった。楽しかった。
有り難う…有り難う」
何度も私に感謝の言葉を繰り返す母。
「うん。また、行こう」
言いながら何故か胸の奥が熱くなる。
生きる。
ただ、シンプルに生きる。
初めて母の愚鈍さを誇らしく思う。
その心の在り方、尊敬する。
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