小説:アタシは問題作

「2ショットみんな撮ってますけど?」


 スマホ片手に歩いてくるちょっと苦手な彼女
プロフィール:なんか休日なのに出勤。私服。スマホカバーはお金かけた何か。
 そう声をかけられたアタシ
プロフィール:陰キャ。人が好き。マメ。スマホカバーは透明百均。


 つーしょっと?0コンマ数秒時空が止まって、次の瞬間にはどう答えようか急速に回転し出す脳みそ。


 その先輩がやめるのは嫌だ悲しい。会えなくなるのが寂しい。先輩大好き。個人的にプレゼント渡した。その時に最後の挨拶をした。今日で会うのが最後かもしれない。
 さっきも集合写真撮った。もういちど?イミフ。撮らなくていい。撮ったとて見返す?いらない。全力で遠慮。そもそも写真嫌い。
 断ったら冷たいやつだろうか。みんな撮ってるというパワーワード。断ったって知ったら先輩はどう思うんだろう。マジョリティになるべきか。


「ええ~~みんな撮ってるんですかあ!どうしよっかなあ。あっ、でも実は今日すっぴんなんですよねえ!最後だしいっそ整形してきたらよかったー!お別れするのは寂しいですけど、今度生まれ直して可愛い私でー!」


 と、どうせなら面白く答えたかった。現実は
「どうしよう。あ、、わたし、写真苦手で。今回はいいかなあ。」
 うん、最高にイケてない。とっつきづらい。1秒で出した撮らない選択にいちおう纏わせた逡巡武装。武装の努力はやはり虚しく目の前のその彼女に届かない。


「ええ~~いいんですかあ?♡みんな撮ってますよお」


 わ、母音が続く語尾にハートの絵文字が見える。武装は引き剥がされ丸腰に。もういいんだって。どうしてそんなに陰のものを責めるのだ陽。陽の光が眩しくて目が開けられない。それでもわたしは撮らない。みんなが撮っていても撮らない。困り果てた。もうボディブロー浴びせられまくってノックアウト寸前だよ。許してくれたもう。


「ははは。写真嫌いってめっちゃ暗い人みたいな発言じゃないですかあ!」


 渡りに船。メシア。アーメン。
 仲良くさせていただいている他職種のヤマダさんからの超絶助け舟。どうやら相談があってわたしを訪ねてきたらしい。全力で乗っからせていただく。


 体にしみついた陽の芳しさを振り払いながら業務に戻る。疲れた。アタシの日常はコンナコトの繰り返しで、辟易。だいたい、なんで彼女は今日出勤でもないのにここに来ているの?こんな朝早くから。そして、まだいたの。なぜ帰らない。


 卒業式の香りがする。
 全然悲しくなくて寂しくなくてむしろ早く帰りたかったあの日。名残惜しく教室に残っている(ように見える)クラスメイトの中に本当に名残惜しく感じているのは何人いるんだろうと目を凝らしていたあの日。
 泣くのを我慢したけど溢れてきた涙を拭き取っているくらいがちょうどいいのを心得ているクラスのヒロイン。そのちょうど良さが分からずに号泣しているヒロインのとりまき。ヒロインに今日だけおずおず近づくことを許された男子。それを寄せつけたくないヒロインと常日頃近づけて当然の男子。


 あの日から、いや、もっと前からアタシの目が捉える世界は少し歪んでいる。でも物心ついた時から歪みを直そうとしているせいで余計に歪んでいってしまったのだ。嗚呼これが宿命。


 彼女はぜったい名残惜しんでいる「ふり」側だっただろう。と、ヤマダさんと仕事をしながら考える。
 あと少しで3月。ということはもう少しで4月。別れと出会いの季節が大きい口をあけて彼女に武装を剥がされた丸腰のアタシを待ち構えている。あと何十何回これを繰り返すんだろう。


 アタシは問題作
 アタシは問題作


 ああ、最近出た新曲が聴きたい。

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