『簡単にしろ』で終わらない難易度調整のコツと考え方
難易度をゲームの開発者に合わせたら、難しすぎるクソゲーが出来上がっちゃった!
……まぁ、良くある話ですよね。ゲームの開発者って、
ので自分がちょうど良いと思う難易度にしちゃうと「知り尽くしてて何度もやっている人向けの難易度」になってしまったり。
その結果、多くの初見プレイヤーからしたら難しすぎて「クソゲー」の烙印を押されてしまう、なんてことはよく言われる話です。
とはいってもゲームを作る以上は、我々開発者達はクソゲーの烙印に怯え震えながらもなんとか難易度調整はしなきゃいけないわけですよ。
ただ現実問題として、↑ みたいな泣き言なんざ言ってられません。
しかし「難易度調整 コツ」とか「難易度調整 やり方」とかでググっても具体的な話はあまり出てこない。困る。
っということで、難易度調整に関して「じゃあどうすりゃいいんじゃい!」というのを考えるのが今回の記事です。
※今回は「難易度調整」の話に絞るので、「バランス調整」は別だと思ってください。
◆適切な難易度とは?
◇簡単に作ればOK?すべて解決???
まぁ~皆さん、気軽に言ってくれるわけですよ。
と。でもこの言葉だけで良いゲームが作れるんだったら苦労はしないわけです。主な問題点が2つありまして、
という問題。「簡単なゲーム = 楽しい」ではないのでそこでもまた匙加減が必要になりますし、調整する人間の中に「面白い」の基準が存在しないと作っても「面白くなるかならないかは博打」みたいな事になりかねません。ゲームデザインは博打ではない。
なので難易度調整を実際にする時には「簡単に作れ」という曖昧な話ではなく、もっと具体的な話に踏み込んでいく必要があります。
ということで「簡単にしろ」という曖昧な状態から解像度を上げるべく、根本的な所から見ていきましょう。(他の要素が面白いという前提の元)難易度調整が上手くいっているのなら、プレイヤーとしては「もっと遊びたい!」となるわけですよね。
じゃあそもそも、「遊びたくなる難易度」って何でしょうか?
◇「遊びたい!」と思えるものとは
この「もっと遊びたいから遊ぶ」という状態については、心理学では「内発的動機付け」という名前がついてます。
ゲーム業界でやたらと人気な「フロー理論」も、この内発的動機付けの研究の中で提唱されたものですね。(心理学辞典によると)
んで、この内発的動機付けを高める課題の難易度みたいな話がありまして、それが
だと言われています……と主張したかったんですが、私の知識も古く曖昧なので確かそんな感じだったなってくらいのアレで今書いてます。ゴメン。
ただまぁあながち外れた物ではなく、要は
という話で、そうするとイメージがしやすいんじゃないでしょうか。
つまりこれを図にすると
てな感じで、この青枠の難易度ゾーンに入っている状態、すなわち
だと「もっと遊びたい」と思える難易度になっていると言えます。
なおこの「丁度良い難易度のゾーン」に対してどのくらいの位置が好ましいかは個人差があるので……
このゾーンのどこにラインを引いて難易度を設定するかはゲーム毎によって違ってくるかと思います。
ターゲットが決まっているならそれに合わせましょう。特に決まっていない場合は、枠の真ん中くらいを狙えば誰が遊んでもそう大きくは外さないはず。
……な~んてこと言っても、この程度だとまだ実戦にはそんなに生かせないんですけどね。まだです。まだ「難易度」という物に対する認識が曖昧すぎて使いにくいので、もう少し解像度を上げていきましょう。
さきほど理想の状態に関して「課題の難易度とプレイヤーの能力が近い状態」と表現しましたが、そもそも『プレイヤーの能力』ってなんでしょうか?
何か気軽に一言のまとめて言っちゃってますけど、これ1つにまとめてしまうと扱いにくいです。
というわけで次は『プレイヤーの能力』について詳しく見ていきます。
◇プレイヤーの能力の内訳
プレイヤーの能力を細分化して考えると、個人的には
の4つの合計で考えられると思っています。こんな感じ。
ちなみにどの能力が重視されるのかはゲームごとに違います。
例えばRPGを世に広め、どんな人でもとりあえずレベルを上げれば勝てるよって形を作った『ドラゴンクエスト』だと「ゲームデータの能力」や「知識」による影響が強いです。
※ちなみに「攻略情報を見る」なんてのは「知識」の部分を底上げすることに相当すると思います。
それに対して極端な例を挙げると、アクションゲームの『Celeste』なんかはそのステージでのキャラの能力が決まっている(プレイヤーによって差がない)のでゲームデータの能力から受ける影響は小さいです。
このゲームの場合は敵と戦うわけではないので「レベル」がありません。
進み方が分かっていても、操作が追い付かなくてしょっちゅう死にます。
ゲームが上手い人でも初見でノーミスクリアは無理です。
しかし繰り返しリトライして挑戦している内にだんだんと操作に慣れてきて、突破できなかったステージがクリアできるようになります。
なのでそれを図にするとこんな感じ。
基本的にその人の基礎能力(①)に依存しすぎるとクリアできる人が限定され、クリアできなかった人から「クソゲー!!!」と言われまくるので、②~④の要素で何かしらプレイヤーの底上げしてあげる必要が出てきます。
これらの要素は大抵は複合的に扱われることが多く、例えば最近出たフロムの『エルデンリング』も死にゲーで何度も挑戦してボスを攻略しますが、その一方でレベルを上げたり装備を強化したりすればけっこう難易度が下がりますね。
モンハンなんかも各能力をバランスよく持たせていますね。
◇「開発者の能力」とは何ぞや
プレイヤーの能力を細分化したところで、冒頭の
を改めて考えてみましょう。
開発者に合わせたら難しすぎるということは、それはつまり開発者の能力が標準よりも高いということ。何が高いのかで言えば、
と言えるでしょうね。図にしたらこんな感じ。
逆に言えば、開発者と同等の知識や慣れを手に入れたら、プレイヤーも開発者に合わせた難易度を楽しむことができる……とも言えますね。
なので1つの考え方として、簡単にすると言っても
とかやると、むやみやたらに簡単にするよりも着実に「面白い難易度」にできるんじゃないかと思います。
さて、そういったことを考えていくときに1つ注意というか、認識しておいた方が良いこともありまして。「プレイヤー」といっても、能力のスタート地点は実の所バラバラなんですよね。
◇「プレイヤー達」の能力は同じじゃない
「プレイヤーの能力」とは言いますけど、そもそもこの「プレイヤー」って誰でしょうか?
私も自分のゲームを作って感想を集めてたりするんですが、実際には同じゲームでもEasyで「難しい!」という感想を抱く人もいれば、初見でHard(開発者でも難しい難易度)を遊んで「もっと難しくして!」と言う人もいます。「初見のプレイヤー」といっても能力が全然違うんですよ。
プレイヤー能力でも「知識」や「慣れ」って他のゲームから応用できる部分も多いです。
顕著なのは格ゲーで、そのゲームを始めて遊ぶプレイヤーでも「色んな格ゲーを遊んでいる人」と「初めて格ゲーを遊ぶ人」では始めた時期は一緒でもスタートラインは違います。
なのでプレイヤーが持っている「基礎能力」や、「知識」「慣れ」の初期値は人によって大きく変わるわけですよ。その変動値はかなり大きい場合もあるので「プレイヤーに合わせた適切な難易度」とは言葉以上に難しいわけですね。
ということで、「プレイヤー」によって適切な難易度は乱れます。
そのことを念頭に置いて考えていかないと「適切だと思いこんだ何か」を調整することになるので注意が必要です。
それを踏まえて「調整」をするわけですが……その前にゲームの「難易度」に関わるシステムの話をしましょうか。
そもそも難易度調整をする前にこっちを決めるのが先なので。
◆難易度設定のシステム
変動するプレイヤーの能力に対して上手く対応しようとして「難易度」に関するシステムが生まれてきました。
大雑把に分けて3パターンあります。どのシステムを使うかはそれぞれ特徴が違うので、自分のゲームに合ったシステムを使うと良いです。
じゃあどういうシステムがどういう場合に合うのか?というのを解説していきます。
◇難易度を複数用意する場合
Easy, Normal, Hard みたいなの。
という考え方。
頑張って強敵を倒したい人はHardをやればいいし、ゲームでそんなに苦労したくないよという人はEasyをやればいいよ、みたいな形でプレイヤーの好みに合わせて棲み分けができるので柔軟性があります。
プレイヤーの能力差が激しくなるゲーム(ゲームデータや知識によるフォローがしにくいゲーム)に向いていますかね。例えばアクション要素のあるゲームとか。
もし「何度も挑戦している内にどんな人でも勝てるようになる」というゲームであったとしても、何度も挑戦する前に「俺には無理だ、ついていけない」となってしまったらそのゲームは遊ばれません。
そうなる前に各々に合った難易度を選んでもらえればクリアしてもらえます。その意味ではリトライ性を抑えたいけど一定以上の難しさも作りたい……みたいなゲームにも合っていますかね。
ただし難易度のラインが低・中・高と複数用意できるので柔軟性がある反面、複数用意することで以下のデメリットも発生します。
敢えて難易度ごとに別の面白さを作る……みたいなこともできますが、どちらにせよ手間なのは変わらないです。
要は、柔軟性はあるけど手間はかかるし面白さを保つのも大変なのがこの手法ですね。
◇難易度を自動的に変動させる場合
プレイヤーのプレイ状況に合わせて難易度を動的に変えるやり方。
上手いプレイをすればするほど難易度が上がり、逆に敵にやられるプレイをするほど難易度は下がっていく。
という発想。なんともハイテクで、デジタルの強みを生かした方法です。
DDA(Dynamic Difficulty Adjustment)って呼ばれているみたい。
まぁ問題点もそれなりにあるので完璧じゃないんですけどね。
例えばプレイ中に
と露骨に接待感を感じると萎えてきたりしますし。
あと敵に負けた時、その敵に勝とうと頑張りたいのにシステムによって敵の強さが変わってしまうと
とモニョっとした気持ちになったり。
なので使うとしたら、自分のゲームとの食い合わせとかはよく考えた方が良いです。例えば『エルデンリング』みたいなリトライを繰り返しながら強敵を倒すのを楽しむゲームでやったら「弱くすんなや!!!」と逆に迷惑がられたりします。
対して相性が良さそうなのはサバイバル性の強い協力ゲーでしょうか。
Left 4 Dead(ゾンビを捌きながら生き残る協力ゲー)に搭載されていると聞いたことがあるんですが、こういうゲームは向いていると思います。
「敵を倒す」よりも「生き残る」のが目的のゲームですし、協力ゲーで友達と一緒に遊ぶことを想定した時に「何度も負けて結局クリアできなかった」だと気持ちよく終われないので、負けても相当面白くないと「次は別のゲームでいいか」になりがちです。なので動的に難易度を変えるのは相性が良い。
特徴を考えていくと、このシステムはプレイヤーの「今」に合わせたシステムと言えるかもしれません。(逆に言うと「プレイヤーの成長」に関してはガン無視している所はある)
◇難易度を固定化する場合
難易度を1つに絞るやり方です。難易度は選択できないし、ゲーム中に変動するわけでもない。システムっていうか、特に何も用意しなければこうなります。
他のシステムが色々と工数をかけて調整している中、こちらはその時間を1つの難易度に注ぎ込めるので
のに向いてます。
ただし能力がバラバラのプレイヤー達に対して1つの難易度で作る分、設定を慎重にやったり、幅広く対応する必要があって設定が難しい……
という話もありますが、必ずしもそうとは言えません。なぜか?
プレイヤーの能力を細分化した時のことを思い出して欲しいんですが、プレイヤーの能力の中には「ゲームデータの能力」もありますよね。
他の能力はプレイヤーへの依存度が高いんですが、この能力に関しては最もゲーム側で制御がしやすいです。なので「勝つための能力」として「ゲームデータの能力」の重要度がそれなりに高いと、難易度が1つでも
みたいに作れるのでわりと幅広く対応できます。
これまで紹介してきた上記2つは「ゲームがプレイヤーに合わせる」形で設定していましたが、こっちは
というやり方だと言えるかもしれません。
ちなみに「アクションゲームは難易度複数ある方が向いているよ」とは書きましたけど、アクションゲームでもゲームデータの力が強いと難易度は1つでやれたりはします。例えばさっきからちょくちょく例に出しているフロムの『エルデンリング』も高難易度のアクションゲームである一方、
こういうプレイが成立しています。
もうちょい正確に言うと、基本はプレイヤースキルの影響が強いゲームであっても、(最適解ではないが)プレイヤースキルの影響が低い攻略法も仕込んでおくと幅広く対応しやすいのかもしれませんね。
◆どこに合わせて「難易度のライン」を引くのか
◇難易度調整に必要なもの
さて、話は変わりますが。難易度調整をする前にちゃんと決めておくべきことがあります。難易度調整って要するに
の③と④の作業なんですが、そもそも①の設計ができていないとその後の工程が全部ダメになっちゃうんですよね。
つまり、そもそも「調整をする」と言った時に
といったものが曖昧なまま進めると、当然曖昧なゲームが出来上がります。何を目指しているのかよく分からないゲームになっちゃう。
なので、まずどこに、どうやって難易度のラインを引くのかって話が重要になります。
◇『誰が』『どんな状況で』『どうなる?』
何にもない所から難易度のラインを決めようとしてもよく分からないので、ラインを決めるための基準をまずは作りましょう。
の3点を決めると基準がハッキリしてきます。
◆誰?
難易度のラインを引くために最初に決めるのは『誰』の部分です。基準となる人を決めることで「ラインの大まかな位置」が決まります。
例えば子供向けのゲームであれば対象は『子供』になるでしょう。
でも『子供』だけだと曖昧なのでもうちょっと詳しく。
「生涯でまだ0~2作品ほどしかゲームに触れていない、ゲーム慣れしていない子供」とか。
そうすると「未成熟な子供であること」「ゲーム慣れしていないこと」から、引くべきラインがそれなりに下の方になるのが分かります。
ですが、まだ確定ではありません。ここで決まるのは大まかな位置です。
この状態だとゲームデータの状態なんかが不確定で、実際に調整作業をする際にどんなデータを使うのかも曖昧です。なので次に状況を決めます。
◆どんな状況で?
不確定なゲームデータの基準を決め、それによって難易度ラインの大まかな位置も微調整します。
設定する状況は、例えば
とか。ここの条件が緩いほど(レベル上げが必要ないとか)難易度ゾーンは下に、厳しいほど(レベル上げが2時間くらい必要とか)難易度ゾーンは上になります。
スーファミの時のドラクエなんかは、新しい街に着いたら多少レベル上げをする前提で組まれている印象がありますね。そこでお金貯めて新しい装備を買えるくらい頑張ったらクリアできるよ的な。
いやもうずいぶんうろ覚えなので違うかもしれないですけど。
さて、こうして難易度のゾーンも定まったらソーンの中に線を引きます。
そこが難易度のラインになるわけですが、じゃあゾーンのどこに線を引きましょうか?
◆どうなる?
難易度のラインを確定させるために、戦ったりした際にプレイヤーがどんな状態になってどんな印象を持つのか決めます。
例えば
とか。
これを「誰が」「どんな状況で」という設定と組み合わせると、例えば
だと、低めの位置に設定した範囲の中でも、かなり下の方の難易度にラインを引くことになります。逆にこれが「初回は勝てないけど、2~3回挑戦すると勝てる」だと、範囲の中でも上の方のラインになるでしょうね。
ここまで決まれば、難易度調整の方針もけっこうハッキリしてきます。
誰に対する難易度調整で、どういう状況にするための難易度調整なのか、目標を決めてそこに向かって調整ができるので、何となくの曖昧な感覚で調整する時よりも狙った面白さが作れます。
◇難易度のラインは複数のパターンから考えても良い
さっきの例でそれなりに細かくターゲットやらを設定しましたが、「そのターゲットの人」だけがゲームを遊ぶわけではないですよね。
色んな人が色んな状況で遊ぶので、複数パターンから難易度のラインを決めるとより正確なラインが引けます。
だいたいの人は何回か挑戦してクリアできるけど、上手い人なら初回でクリアできるくらいの難易度とか。
より色々考えているパターンだと
とか考えて、人や状況の色んなパターンを増やしてそれらに収まる所へ難易度のラインを引いてますね。
ただまぁ「めんどくせー!そんなのできねー!!」って人は自分のやりやすい範囲でやっていけばいいかなーとは思ってます。
ラインが増えれば増えるほど調整の難易度は上がるので、パンクするくらいなら絞って調整しちゃった方が良い時もあるので。
◇勝てれば神ゲー、勝てなきゃクソゲー
難しめの所にラインを引くか、易しめの所にラインを引くかで言えば、間違いなく易しめの所にラインを引いた方が『無難』ではあります。
高難易度のゲームにありがちですが、負けてなかなか勝てない時って
なことになりがちです。
ですが、そういう相手でも勝てると
という、満足感と共に評価が変わります。皆さん手の平をこう、クルクルっとし始めるんですね。ちゃんと作れていれば。
でも問題は勝てなかった時で、この
という気持ちのままそのゲームから離れます。
手のひらをクルクルっとする前に離れちゃうと、当然そのゲームへの評価は良くなりません。場合によってはガンガンに評価が下がり、攻撃的な感想も目立ち始めます。
なのでプレイヤーによるゲームの評価は、極端な話(元々のポテンシャルが高ければ)
という、クリアできたかできなかったかで評価が大きく変わる……みたいなことも十分に起こり得ます。
難しいゲームを作ること自体は簡単でも、難しいゲームをプレイヤーに楽しませてクリアさせるのはけっこう大変でリスキーなのです。
だったら難易度のラインを低めに設定しておいて、だいたいの人がクリアできるようにしておいた方が評価は下がりにくくはなりますね。
ただしこの考え方は「こうすれば面白くなる」という話ではないです。
簡単なら評価が上がるってわけでなく、下がりにくいだけなので元々の評価が低ければ結局は低評価になるとはと思います。
調整に自信が無かったり、戦闘は用意するけどこだわりはなく重視もしていない……のであれば、低めの方が『無難』だよって話ですかね。
私の場合は難しいゲームを作ってそれを乗り越えてもらうのが好きなので、そっちを作りがち。
◇難易度のラインを決めたら
と言われちゃったら「後はそのラインに向かって頑張るだけだよぉ!」と思うのでちょっと困るんですが、一応書いておくと。
これをやりましょう。再検討のフェーズも大事ですよ。設計通りでもつまんなかったら意味ないので。
あと「開発者の能力そのまま」で調整すると難しくなりがちなので、そこも加味して工夫すると良いです。それが次の『枷』の話。
◆調整時に開発者へ『枷』をつける
さて、難易度のラインを引いてみたはいいものの、調整時には大きな問題点があります。
調整をする開発者が、必ずしもそこで決めた『誰が』の部分に当てはまらない事。というかゲームの知識が最大級に豊富で、ゲームに対しても慣れ慣れの慣れってる人物なので、まず決めたターゲットと状況が合致しません。
なのでテストプレイヤーにいっぱい遊ばせて確認したい所ですが、そんなにホイホイとテストプレイヤーなんてのは出てくるはずもなく。特に「初見の人」は一回遊んでもらうともう「初見の人」じゃなくなります。
それにそもそもその人たちに遊んでもらう前にも最低限の調整をしておかないと、遊んでもらった後の修正も大変なのでひたすらに遠回りをすることになります。
ちゃんとテストプレイを生かすのであれば、事前にしっかりと調整をしておくことが重要です。
と、いうことで。
いかに「いかに開発者自身がうまいことテストしていい感じの調整をするか」っていうのがひじょ~に重要となってきます。
じゃあどうするかって言うと。
開発者の能力が比較的高くなっているのが問題なので、開発者に『枷』をつけて最適解を避け、能力を下げちゃいましょう。完璧とは言えませんが、多少はマシになります。
※最終的には他人にテストプレイしてもらって、それに合わせて調整するのが大事ですよ
◇『ゲームデータ』に枷をつける
まずはけっこう簡単なやつ。開発者が(慣れや知識によって)強いならゲーム内のキャラを弱くしちゃおう作戦。例えば
とかですね。こんな弱い状態で戦って勝ててるんだから、ま~初見の人達でもなんとかなるでしょ!的な考え。
あとは、「知識」がある故に「最適解の装備」が分かるのであれば、あえて最適解の装備を外すことで「知識」の能力を弱めることができる……とか。
ただ「初見は超難しいけど慣れれば防具無しでも勝てるぜ!」みたいな要素が強いと、「ゲームデータの能力を下げても開発者としての強さがあまり下がっていない」みたいな状況になったりするのでその点は注意です。
◇『プレイ内容』に枷をつける
慣れてるし知識もあるなら最適な行動ができる。
でも最適な行動をしすぎるのもこの場合は問題。
だったら最適な行動をしなければいいよねって話ではあるので、あえて最適解を避けた行動をしながら調整をすれば良いよねって話です。別名舐めプ調整
例えば
とかですかね。
ゲームデータに枷を付けても結局本人の力で何とかできる部分が強い場合、能力が想定よりも下がらなかったりするのでそんな時はプレイ内容の方で能力を下げた方が有効ですかね。
◇『枷』のリアリティ(閑話)
ちなみになんですが。
『枷』はただつければ良いというわけではなく、そこにはリアリティが必要です。
こういう状況になるかもしれない……というのを念頭に置いた上で、ちゃんと開発者の能力を下げなければなりません。
なので枷は付けたけど想定した難易度のラインまで能力が下がっていないとか、能力は下がったけど誰もこんなプレイしねーよって状態になれば、正確な調整はできないわけです。
テストプレイをしてもらうと制作者の想定外の動きがバンバン出てきたりして難しい所もあったりしますけどね。この辺は想定力を地道に積み重ねて上げていくしかないです。
テストプレイしてもらう時はただ感想を受け取るのではなく、実際にその人がどういう動きをしていたのかチェックするとか。気になる動きがあればテストプレイ後に「あの時こういう動きをしていたけど、どういう考えでそうしたのか?」と意図を聞いておくとか。
色んな人の行動パターンを自分の中にインプットして積み重ねることができれば、だんだんと『枷』のリアリティも増して、より実際の状況に近い調整ができます。たぶん。
ではお話再開。
◇『自動戦闘』に任せる
開発者が強いなら、開発者が戦わなきゃいいんですよ。
(それほど優秀ではない)CPUに任せちゃえ。
これをやるには自動戦闘の機能が必要なのでできるゲームは限られますが、ソシャゲ系のゲームはけっこう標準搭載してたりするので使いやすいです。
大抵は「人間が操作するよりも弱い」程度のCPUなので、自動戦闘で勝てるなら大抵の人は勝てますし。
なので
みたいな形でラインを引いて調整をすることができます。
あと、この方法の強みは「自動化ができる」ことですね。
例えばRPGとかなら演出を端折って「戦闘結果のみをすぐに表示する」機能があると便利です。ボタンを押すと1万回戦ってその結果を表示する……とかできると勝率が出せるので、
みたいなことができます。
人力で試すと時間がかかるのを効率よく試せますし、「これは強すぎる」「これは弱すぎる」みたいのが感覚ではなく数字で可視化できるのでバランス調整をする上でも便利です。(正確に判断するためにはCPUの作りこみも必要になってきますが)
コマンド式のRPGとかなら、自動戦闘の機能がゲーム内になくても調整用に作ってしまってもいいのかなーとは思いますね。
作るの大変だけど、上手く使いこなせばメリットは結構あるので。
◇『時間』を空ける
例えば同じ人が同じゲームを遊ぶ場合でも、
だと、②の方が確実に下手になってますよね。有効な戦術とかも忘れてるし、ずっとやっていなかったから前はできたコンボが今はできなくなっているかもしれない。
この例ほど大きな期間は空けられないですけど、
とかだと、①は慣れも知識もMAXの状態だったりするので、まだ②の方が調整の状況にリアリティが出てきたりします。
◇『枷』をあえてつけない
開発者に合わせて調整しちゃう。
と思った人、ちょっとお待ちください。傷つくから罵倒しないで。
ちゃんと説明するから。待って。
難しすぎるのが問題じゃないと思うんですよ。標準の難易度が難しすぎるのが問題。じゃあ例えば、難易度「Hard」とかなら難しくてもいいじゃないですか。そのゲームに慣れていて知識があるような人向けの難易度であれば、高い能力を要求しても問題ない。
(Hardでも強すぎならもう一段階上の難易度を用意しても良い)
この方法の良い所は
ってところですね。自分の感覚に合わせて作れる。
なのでHardを作って調整して面白さを確認した後、そこから面白さを保ちつつも弱くしたNormal、Easyを作る……みたいなことだってできるわけです。
これなら冒頭で話した
を解決できたりはしますね。
難易度を複数用意しない場合でも、(ある程度のリトライを前提にしたゲームであれば)
という形になっていれば問題なかったりはします。
プレイヤーの能力は一定ではなく成長していくので、その成長をちゃんと設計できていればOKって感じですね。できてなきゃダメですけど。
ってことで次の章ではそのプレイヤーの成長について話をしましょう。
◆プレイヤーの成長も含めて設計する
◇プレイヤーの能力は変わる
っという浅~~~い言葉はどうでもいいんですが、プレイヤーの能力は一定ではありません。何度も戦っている内に
みたいな感じにプレイヤーの各能力は成長していきます。
なので、例えば「何も学習していない状態だと強すぎる」ボスであっても、ボスに至るまでの道中でプレイヤーが学習し、能力が上がっている状況を作れればボスの強さは同じであっても「ちょうどいい難易度」になるわけです。
基本的に「開発者」と「プレイヤー」の能力差が大きければ大きいほど難易度調整は難しくなるものですが、ちゃんとプレイヤーの成長を設計できていればその差は差が縮まり、面白いゲームが作りやすくなります。
◇勝てなかったらどうする?
他にも重要なのは、「プレイヤーが勝てなかった時」の話です。
つまり開発者が引いた難易度のラインに、プレイヤーの能力が達していなかった時。
色々と想定してゲームを作っても、プレイヤー能力はピンキリなのでこういう事態もでてくるわけですが。
「勝てれば神ゲー、勝てなきゃクソゲー」の項で説明したように、勝てないままだとゲームへの評価が下がります。それはよろしくないので、こういう時の対策を……つまり
を考えることが大事になってきます。
それぞれ特徴がありまして
とか。自分のゲームの方針に合わせてこの辺りのケアも含めて考えることができると、「面白い難易度」が作れるんじゃないかと思います。
その意味では「自分のゲームをクリアできなかったテストプレイヤー」って貴重なんですよ。敵の強さ自体を変えなくてもその人がクリアできるように作れれば、そこを上手くカバーできることになるので。
◆難易度調整の注意点
その他、こういう所って注意した方がいいよな~って所がいくつかあるので挙げていきます。
◇キャラのカスタマイズ性は調整の難易度を上げる
皆大好きですよね。ステータス割振りとか、自由なジョブチェンジ、クラスチェンジとか。好きなスキルを覚えて、大量にある職業のキャラから選んでPTを組んだりとか……。
これらのシステムは楽しいものではありますが、それが戦闘への影響度が高ければ高いほど難易度調整は難しくなります。
色んなパターンを考えなきゃいけないですし、それをプレイヤーが自由に選べるってことは、プレイヤーの能力で最も安定して楽ちんな「ゲームデータの能力」がプレイヤー毎に大きく変動するってことでもあります。
アクションが苦手な人のためにレベルアップで強くなれるようにしたけど、育て方が悪かったからそれでも厳しい状態で勝てない、みたいな。
同じレベルでも強さが全然違うと「レベル」が基準として使えなくなります。
バランス調整を頑張れよって話ではあるんですが、ステータスによっては戦闘向き・戦闘向きじゃないステータスなんかもあり、やっぱり難易度調整は難しくなりがちなので
みたいな事も十分にあり得ます。例えば
で②の戦術性を重視するのであれば、カスタマイズ性は強くない方が面白くしやすいです。例えば「この攻撃はシールドを張れば対処できるぞ!」って言った時にプレイヤーがシールドを張る行動を持ってなかったら対処できないじゃないですか。1つの戦闘を作りこむ時、状況は限定した方が作りこみやすいです。
なお、これは「やるな」という話ではありません。調整は難しくてもうまく調整できれば面白いので「やるんだったら覚悟はしておけ」という話です。
自分の調整能力に自信がない場合は
といったことをすると調整しやすくなると思います。
◇難易度調整でコンセプトを壊さないこと
調整する際には実際にプレイしながら調整するわけですが、
みたいな話はわりと少なくないので注意しましょう。
面白くするために難易度調整をしているのに、根本的な所が劣化して面白くなくなったら本末転倒です。
※これは難易度を複数用意した時のEasyとかにも当てはまります。簡単だからと言ってコンセプトが消えると、低難易度を選ぶとつまらないゲームになるので。
なお、面白くするためにどうやって「コンセプト」を使うのかは、以下の記事に書いたので気になる人はそっちを読んでください。
◆難易度調整のコツまとめ
いっぱい書いたけど「まとめ」が長ったらしいのもアレなのでざっくりまとめると
ちなみに私はプレイヤーの能力を4つに分けて考えてましたが、これは自分の考えやすいように変えても大丈夫だと思います。パズルゲームなんかだとまた別の能力で考えた方が良さそうな気もしますし。
重要なのは、「どんな能力があるのか考えて、扱いやすくする」ことなので。
◆宣伝
頑張って難易度調整しながら、インディーゲームを作っております。
ゲームブック風のRPGです。今春アーリーアクセス版が出る予定。
ちなみにこのゲーム、多少のアクション性を持たせているくせに『レベル上げ』で解決できないゲームデザインをしているので、難易度調整がけっこう大変なんですよ。
体験版も良い評価を貰えていますが、裏ではかな~り頑張ってます。
サポート(投げ銭、金銭支援)歓迎です。 頂いたお金はゲームの開発費に使用させていただきます。 ↓ 支援が多いと私のゲームのイラスト枚数が増えたりオリジナルの曲が組み込まれたりします。美味しいお肉を食べに行ったりはしません。