この逆転劇が快っ感♯087【逆転のトライアングル】
【ストーリー】
カールは男性モデル。旬を過ぎて仕事が減りつつある
落ち目のモデルだ。カールにはヤヤという恋人がいる。
彼女もモデルで人気上昇中のインフルエンサー。
カールはヤヤの特権で豪華客船に乗った。
乗船客は大富豪ばかり、爆弾製造で大儲けした人、
ロ○アの新興財閥、、
しかし船は沈没。カール達が流れ着いたのは
文明のない無人島だった。
生き残った彼らは無人島で生存競争が始まる。
【解説というか、レビューというか】
リューベン・オストルンド監督が前作『ザ スクエア』よりも
攻撃力を上げて世に放った爆弾映画。
私は全然思いませんけど、イケメンと美人のモデルカップルなんてイケすかない奴ら(しかもカップルでいると人気を稼げるっていうビジネスカップル)はバナナの皮でも踏んで転んでくれよってたまに思うじゃない。
私は思いませんが、さらに庶民を困らせるような権力者は、バナナの皮で転ばすくらいじゃ済ませたくないっていう性格の良い一般庶民に捧げるエンターテイメントです。
雑誌を開くと必ず目にするモデルたち。
ハイブランドのモデルは庶民を見下しているみたいに
無表情に巻頭を飾る。対して、ファストファッションの
モデルたちは、札束ビンタをされて喜ぶ庶民みたいに
笑顔を振り撒く。
セレブと庶民のこの関係性は、犬と飼い主の主従関係にそっくり。
終始、富のために見た目を売る主人公の男性モデル、
カールくんのイヌっぷりが超絶面白い。
人間の動物性を扱ってルッキズムをユーモアで揶揄う冒頭は人の考えよりも、外見に価値をおく風潮に切り込んでいます。
カールとヤヤが、モデルという特権で豪華客船に乗り込んでから
『タイタニック』ばりにありありと階級社会を見せていきます。
眺めのいい上層階は大富豪と権力者のエリア。
中層階はそれに従う者たち。
そして船の最下層にはお掃除要員たちがいる。
この三つの階層は主、犬、現代版の奴隷の
三角関係である事が分かります。
この関係性が成り立つ豪華客船。
船の優雅な食事には謎の名前が付いています。
“〜風の〜を添えて”とか、なんとかの“キャラメリゼ”とか。
この料理名の滑稽さに薄々気がついているなら、
多くの人は笑わずにはいられません。
そうゆう料理を前にセレブ達の弾む会話はほとんど自慢話し。
料理もイタければ会話もイタいのです。
皮肉でセレブに揺さぶりを掛けるこの映画は、
階級社会という豪華客船を沈没させます。
泣ける映画『タイタニック』とは全く違う、
ざまーみろ、という感想がつい出てくるのは
私だけでは無いはず。
どんなに良い人ぶったって、本性をえぐり出されます。
無人島にたどり着いた生存者たちは、
サバイバル生活を余儀なくされ、それまでの
ヒエラルキーもルッキズムも一気に意味を無くす。
文明がなくなった途端、人間の関係性に大逆転が起こります。
サバイバルの中で、もっとも優秀な人は誰なのか。
どういう人が新しい権力者となれるのか。
おのれが何者なのか疑問すら持たない人々。
私たちはなんて可笑しくて哀しい生き物なんでしょ。
人生を飾り立てる人類の一員である自分に
リセットボタンを連打で押されてる気分になりました。
感動ドラマじゃ描くことができないこの世の愚かさを
明るーーく面白ーーく施した、
自傷行為みたいな映画です。
【シネマメモ】
人は逆転劇に快感を覚えるもの。
そこをエンタメ化したトップガンとは全く違うアプローチで人を楽しませる娯楽作。
時代の転換期のいま、社会不適合者が成功しやすい世の中ならば、ちゃぶ台をひっくり返す大逆転のチャンス。
*合わせて読みたい漫画
さいとうたかを
『サバイバル』
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?