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家のない眼 第七話

2021年、7月に東京オリンピック2020が始まった。開会式の前に数試合あったが無観客の世界は異常だ。
開会式、ネットは相変わらず荒れていたが、開会式の催し物のあまりのへぼさに、これのどこに160億かかっているんだとネット上で怒りが起きていた。そこへ、
ブシュ、ブシュ、という音が入った。IOC会長のバッカとJOCのシン会長の脳みそが散弾銃で吹き飛ばされた。撃ったのは一番近くのSP、彼はその後、逃げて選手たちが入場する中でマシンガンをユダヤ人にめがけて撃ちまくった。ユダヤ人だけだった。
顔を覚えているのかそれ以外は殺さなかった。ネット上ではお祭り騒ぎ。テレビも中継を切るわけにはいかない。全世界同時放送なのだ。
そして、明らかに日本人であるSPは、英語とアラビア語で叫んだ後に、
「ハマスに栄光あれ!」
自分の頭に散弾銃を向けてぶっ放した。だが、直前に玉を使い切ってしまったのか銃弾が出なかった。
慌てて足元からナイフを出して死のうとするがそこを他の人間が押さえつけた。しかしその男は自分の左手の腕時計を地面にたたきつけた。

それがスイッチだったらしい。新国立競技場の至る所で爆発が起きた。急いで作ったもの、身元がよくわからない人間を雇うからこうなる。
無観客ゆえにマスコミと政治家以外は死ななかった。そこで中継が消えた。

スタジオのアナウンサーや芸能人たちは真っ青。何を行ったらいいかわからない。

充はテレビを切った。
「これくらい起きても心なんか動かないよ。さてと、明日は早いから寝よう。」
充は酒を飲まない夜にハルシオンで寝た。
その晩、夢を見た。

うっそうと茂った原生林に近い林の中で男と女が交わる。そこへ人の声が聞こえてくる。二人は慌てて去る。姿は江戸時代の格好だ。
二人は三日前にかくまってくれた家入家に感謝して藩を抜けるつもりだった。しかし、見つかってしまった。
男は眼をえぐられた。それを見た女は吐く。
「わしの血筋を汚すものにはこうするんじゃ。」
初老の男がその目玉を二つとも食べた。周囲には火縄銃と刀を持った藩士たちがいた。
女はどこかへ連れ去られた。
男は、近所のものたちが掘った約150メートルもの穴の中に手足を切断されて治療されたうえで人身御供として沈められた。
男は声を振り絞って、
「この穴を掘ったもの、私に砂をかけるもの、埋めるもの、全て呪いつくしてやる。○○殿、あなたの家系は永遠に呪われてしまえ!」
近所の住人たちは嫌々ながら砂や石で穴を埋めていった、その間、声は聞こえ続けた。
「かくまってくれた者たちよ、永遠の幸を与えん!」
声は穴が完全にふさがれても少しだけ聞こえていた、異常な生命の暴走である。

充はふと、眼が覚めた。冷房はかけていたが全身が汗で濡れていた。
「何だ、今の夢。うちの事と関係あるな。叔父さんも見たかな。いや、家入家の皆が見たかも。」
ふと、深夜でありながら本家に電話をしてみた。すぐに出た。
夢のことを伝えると直系のものは皆見たということを知った。
コロナ禍での法事で色々話すということで収まった。法事まであと一週間ある。充は夢のリアルさとあの男の執念を感じて、怖くなって頓服を飲んで無理やり寝た。

起きたのは午前十一時だった。テレビをつけてみる。昨日の開会式の事ばかりでテレ東だけがアニメをしていた。
未曽有のテロ事件、新国立競技場、崩壊、死者130人以上、詳細は不明、などと出ていたがSNSでは、
スッキリした、やっぱりオリンピックはテロがなきゃ、などと不謹慎なことだらけ。それを紹介するワイドショーとネットのニュース。
充はくだらないからすぐに切って12時に間に合うように朝ごはんは食べずにバイクで地元の空港に向かった。洋子とリツ子が二人そろって初めて家に来るのだ。
再会したときに自然と涙があふれて充と洋子は人目もはばからずに泣いた。
感動の再会である。実に二年間、会えなかったのだ。リツ子は父親が顔が穏やかになっていることに安心した。もう7歳の娘、色々なことが分かる。
何故充がバイクで行ったかというと二人が地元の空気を味わいたいというので歩いて帰るからだ。充の家まで40分とかからない。三人は笑顔で歩いた。空港側のイタリアンレストランでたっぷり海鮮を食べて、海なし県育ちの洋子と自然の魚がこんなにおいしいことを知ったリツ子は感動していた。

荷物は多くない、二泊三日でそれほど大きなカバンでないから歩いて持っていけた。

家について、ふたりが何も感じないことに改めて安心して充は中に入った。
充のきれい好きのせいできちんとした家は、ふたりには驚きだった。

男の一人暮らしはカップラーメンとかが散乱していて、埃まみれと勝手に想像していた洋子は、あんしんして、
「充は一人暮らしの時から変わってないのね。やっぱり几帳面だわ。」
リツ子は充が用意していたくまの抱き枕が気に入った。

三人で昨日のオリンピックテロのことを少し話したがあんまり興味ないからすぐにやめた。充は料理はずっと一人用しか作ってこなかったから洋子と一緒に夕飯のすき焼きの準備をした。
暑い夏にすき焼き、奮発してA5ランクの赤身の肉を煮て食べた。

酒はあまり飲まなかったがリツ子が飛行機に疲れたのか、すぐに寝てしまったので、久々に会えた歓びで充と洋子は8年ぶりにセックスをした。きちんと避妊具をつけて。

穏やかな夜が流れる。

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