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【短編小説】ゆめうつつ

目が覚める。

朱色の砂漠が広がっている。
丘のように積み上がった砂は、途切れ途切れのストライプのような影を描いていた。
照りつける日光も相まって、目がくらむような光景である。

目が覚める。

紫や青が色鮮やかに映える湖が広がっている。
黄色やピンクの光を放つ虫が静かに飛んでいた。
向こうの陸が見えるほど、向こうの木から垂れ下がるツタが見えるほど小さな湖だ。

目が覚める。

見慣れた景色が広がっている。
駅の周りに集中してそびえ立つビル。
街を早歩きで進む人々が見える。
何となく心が落ち着かなくなる。

目が覚める。

水平線が広がっている。輝く夕日が海に沈もうとしていた。キラキラとした光の道が海にかかっていて、ありとあらゆるものがシルエットになっている。船も、鳥も、分け隔てなく同じ影だ。

目が覚める。

森の中にいた。見上げると、木がずうっと空に伸びていた。表面は荒く、それでいてキメ細やかに見える。圧倒的な自然に囲まれていた。
差し込む日差しが緑色に感じられる。

目が覚める。

高層ビルの屋上ほどの高さから、今まさに落下している最中だった。ぼやけた地上には、代わり映えのない日常が広がっているのだろう。
あっという間に地上がはっきり見えてきた。




目が覚める。

机と教科書と散らばった文房具が見える。
…消しゴムはどこに行ったのだろう。
食堂が近くにあるためか、日替わり定食の美味そうな匂いがする。
今日はデミグラスハンバーグか。
くすくすと笑い声が聞こえる。
何事かと顔を上げると、教壇の上で美しいフォームで何かを投げる人間がいた。
…社会科の先生だ。
カンッという乾いた音。
おでこに焼けるような熱さを感じられる。



…なんで夢じゃないねん。

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