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織姫を口説く(万年筆)

織姫は人妻だ。彦星からの略奪愛なぞ私は望んでいない。だが、「織姫」の名を冠した万年筆が私は大好きだ。それについてつらつらと語りたい。

基本情報

万年筆の「織姫」はセーラー万年筆の四季織シリーズ、おとぎばなしの中の一本である。

原型はプロフェッショナルギアスリムで、字幅は中細のみが展開されている。丁度よい大きさで、サリサリした書き心地が楽しい一本である。

名前

もしこの万年筆に「プロフェッショナルギアスリム ラメ入り 青 」なぞという名前がついていたら、私は買うこともなく、引いてはこのnoteを書くことも無かった。つまりはあなたと(文章を通して)出会うことも無かった。

名前というのは重要である。「織姫」という文字列が脳に認識されたとき、あなたが想起する情景は何であろうか?もし人生が何回あっても同じ人を好きになる少女であろうか?私は、古来続く恋の物語と、遥かな宇宙の神秘が脳裏に浮かぶ。人は記憶で物を知覚する。つまり、私は宇宙と恋の美しさをこの一本に結びつけてしまっているのである。

鑑賞タイム

さて、それでは少しばかり鑑賞しよう。

青色の軸に金色が映え、清涼感のある高貴さが漂う。私なぞの平民が話しかけて良いのか戸惑う高嶺の花である。とりあえず、シャワーを浴びて背広とヘアワックスで武装してから声をかけることとしよう。


軸をゆっくり見てみると、神秘的で深い青の中に銀河を模したラメが輝いている。そこに広がる小宇宙に息をのむ。ラメは深さ方向にも散らばっており、宇宙の広がりが感じられる。人間が見る宇宙はほとんど真っ暗闇であるが、織姫の網膜に射影される世界はこんなにも明るく美しいのだと、感嘆の息がもれる。

ニブを正面から見据えると、整った小顔の綺麗な面持ちに見惚れてしまう。14金の輝きは無邪気に笑う顔を連想させる。そりゃあこの笑顔を見れるなら、仕事なぞ一切しないで、遊んで暮らすわな。彦星、わかるぜその気持ち。

さて勇気を出して声をかけよう「あ、あ、あ、その、すいません、えっと、オキレイデスネ…」完全に不審者である。だが、細身で取回しが良く、バランスの良い織姫は、まるで初めて自分の名前を書いたペンのように手に馴染む。

壮大に感じられた宇宙をそっと手で包み、純愛を感じながら文字を綴る。そんな体験がこの万年筆には詰まっている。

結論

セーラー万年筆「織姫」はいいぞ!写真で見るよりも、「織姫」は多様な表情を見せてくれる。ぜひ手にとって見てほしい。


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