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実践コミュニティのマイナス面

第7章ではコミュニティのマイナス面に注目しています。コミュニティはすごくポジティブにとらえられがちですが、やっぱり悪い面もあるのです。まぁ長所と短所は表裏一体、といったところ。

メンバーの人間的な弱さを反映したものである。このマイナス面は、見たところうまく機能しているものを含め、あらゆるコミュニティが本質的に持っているものだ。結局のところ、コミュニティは人で成り立っているのだ。実際、不調が表れるのは、コミュニティのいくつかの側面が、うまく機能しすぎている場合が多い。

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派閥

メンバー同士が仲良くなりすぎて異議を唱える人がいなくなったり、新参者を締め出したり、自分たちが一番すごいと思い込んだり、コミュニティが居心地よすぎるがゆえに独善的になってしまうケースがある。

派閥的なコミュニティは停滞しがちである。緊密な友好関係や社交的な雰囲気を求める心が過ぎると、メンバーが批評し合うのをやめてしまったり、領域に対する理解を深める意欲を失ったりすることがある。そうなるとコミュニティは、メンバー同士が互いを挑戦から守ろうとし、盲目的で自己防衛過剰な結束になってしまう。

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不満

また、嫌いで連帯するコミュニティもよくない。不満は簡単に人を結びつけるが、そこには生産性がないことが多い。

共通の不満はメンバーの感情に強い影響を及ぼすことがある。疎外されたと感じる人々の間に、一体感を生み出すからだ。だが満たされない気持ちは、領域としてはほとんど価値がない。このようなコミュニティはましなものでも、まるで家畜にたかる「アブ」のように、組織の抱負と現実とのギャップについて盛んにはやし立てるようになり、最悪のものになると、愚痴のコミュニティと化して、メンバーの不満のはけ口となるだけで、率先して変化を起こすことは決してない。

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文書化

これは私に当てはまりそうな項目でドキッとした。なんでもかんでもデータ化していれば満足してしまう、すごく分かりすぎて困る。

文書化は実践を生み出すために必要なので、これは非常に陥りやすい落とし穴だ。実際、多くのコミュニティがこれを経験している。論文や覚書やウェブサイトがコミュニティを規定するようになり、コミュニティのその他の側面、たとえば関係の構築や共同の問題解決などに取って代わる。文書化の行き着く先は、潜在的には有用だが活用できない情報が詰まった、情報のガラクタ置き場だ。

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記憶喪失

これはすごく実感する。いつもいつも同じような議論ばかりしていると、だんだん飽きてくる。そこから新しい知見が得られないのであれば、そこに新しい実践がないのであれば、そこにいる意味がない。

メンバーが現に直面している問題を議論するだけで、生み出した洞察を文書化することがない。後に似たような問題が生じると、すでに議論したアイデアを蒸し返す。その結果生じる既視感はコミュニティにとって命取りになりかねない。なぜなら参加しても意味がないとメンバーに思わせてしまうからだ。

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マイナス面を受け入れよう

最初にも述べたように、マイナス面とプラス面は表裏一体です。マイナス面を排除しようとするのではなく、そうした可能性を考慮に入れながらうまく操作していい方向にもっていくのが重要です。

コミュニティを絶えず新しい挑戦で刺激し、外で起きている問題に対して(直接的または間接的に)責任を担わせ、新しい世代のメンバーがもたらす新鮮なアイデアやテーマを進んで受け入れさせなくてはならない。コミュニティ(またはリーダーやスポンサー)が不調の発生に早く気付けば気付くほど、それを改めるための行動も早く取れる。成功するコミュニティは自らの弱点を認識し、その自覚をバネに成長して、自らが長期的に存続可能であることを再確認していくのである。

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越境

本当に革新的なことはコミュニティとコミュニティの境界で起こります。強いネットワークの中で得られた知見が、弱い紐帯によって遠くのコミュニティとつながったときに、真価を発揮するのです。だから私たちは越境をしないといけません。

境界を超えるためには、コミュニティの中で信頼関係を築くだけでなく、境界でも持続的な相互交流を通じて信頼を生み出さなくてはならない。この二つの目標は当然せめぎ合うものである。コミュニティが発展すればメンバーの視点が内向きになることが多いが、境界での活動は関心を外に向かわせる。だが実践コミュニティが真の知識資産となるのは、その中核と境界とがお互いを補うような形で進化する時なのである。つまりコミュニティの内部で深い専門知識を生み出しつつ、境界では絶えず知識を再生していくということだ。組織の潜在的な学習能力は、コミュニティの十分な発展と、境界線の積極的な管理とのバランスにかかっているとも言えよう。

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応用できない

しかし頑張って越境しても、あっちでできたことがこっちではできない、どうして同じようなことができないのか、と残念な気持ちになることが多々起こります。せっかく得られた知見がなかなか他所で応用できず、狭いコミュニティ内の知見にとどまってしまうことは多いようです。

人間はなじみのない他人の物語や経験でも解釈する力を持っているため、実践という文脈を超えられるはずだと暗に期待する。だが結局のところ、文脈にまつわる問題を克服するのは非常に難しいことが判明する。知識は思いがけない方法で、実践に粘着しているのである。

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複雑性

実践コミュニティは複雑性をもたらします。会社のなかで、縦割り組織とは全然関係ない横のつながりが生まれたら統制が取りにくくなります。そいつらが勝手に社外の同業他社とも情報交換をし始めたら、どうなることでしょう。もう耐えられませんね。

企業は二つの誘惑に耐えなければならない。それは、この新たな複雑性を敬遠し、現在コミュニティに適用されている、伝統的な管理体制に立ち戻る誘惑。そしてもう一つは、この複雑性のすべてを公式の機構に持ち込む誘惑である。これらに打ち勝ち、非公式の組織の複雑さを、扱いやすい公式な体制とうまく調和させることが必要になる。

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でも、そんなことをしたら実践コミュニティはおしまいです。自由に泳がせてあげることでしか得られない栄養素がそこにはあります。経営者にはその覚悟が求められるようです。

有意義な領域を核にしたコミュニティを構築することにより得られる、自己献身と所有者意識には、分裂や硬直化、手に負えない複雑性などのリスクを補って余りある価値がある。コミュニティを構築することで得られる知識の深みが、コミュニティに必然的に生じる境界のマイナス面を埋め合わせるからである。コミュニティは惰性を生み出すこともあれば、変化に直面した時に組織に俊敏性を与えることもある。

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ということで、マイナス面を排除することはできないけれど、それ以上に価値があると信じて、複雑で未知の世界に飛び込んでいくことが、実践コミュニティを作るうえでは重要なようです。むずかしいね。

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