新規事業を支援する占い師の話

昨日、Xデザイン学校の公開講座:ビジネスとデザインに出席してきた。これからの時代、新しい未来を作るためのビジョンデザインについて、「個人の妄想と熱い想い」がまず原動力として存在し、「本当にやりたいこと・ありたい世界のビジョン」を描くことが重要とのこと。その上で、実際の事例としてストーリーとサービスデザインを検討し、プロトタイプを作って体験する。世界を変えるような新しいイノベーションは、このスキームに当てはめることができるのではないか、という話があった。

新規事業関連のイベントにいろいろ参加していると、似たような話はよく聞く。結局一番大切なのは、本人の想いなのだ、と。狂気にも似た強い情熱を持つ人ほど、世界を動かすことができる。あなたも、自分の所属している会社が変わらない、新規事業が生まれないと嘆くくらいなら、自分から外に飛び出して自分で社会を変えてみろ、と。

ここ数年のビジネス・イノベーションはだいたいそういう文脈で語られていると思う。それは現実を見れば確かにそうだ。でも、一方で多くの人は、「自分にそんな強い情熱はないよ」と感じて諦めてしまうのも事実。まぁ万人がイノベーションを起こせるわけないし、そんなもんだと言われたらそんなもんなんだけど、結局それって、職人の匠の技を習得したければ、横で雑用しながら技を盗むんだ、と言ってた時代とあまり変わらない気がして。

今の時代って、そういう非効率なことは止めようよ、きちんと技を教えればもっと短期間で効果的に技を学ぶことができるよね、って変わってきてると思うんだ。イノベーションについても、何か、道しるべとなるものがあってもいいんじゃないかと思うんだ。田所雅之さんの「起業の科学」という書籍は、まさにそういう精神で書かれたものだと思っている。

そんな背景の中、昨日、近畿大学の山縣正幸教授とちょっとお話して、最近の大学生を教える立場として面白いコメントをいただいた。大学生の教育は「18年間水につかっていた木炭に火をつけるようなもの。どうやって乾かして、焚きつけていくか、とても難しい課題だ」とのこと。これは私も実感しているところがあり、「スーパーマリオメーカー2で世界一になったときの話」として別のノートに書こうと思っているけれど、とにかく「個人の強い情熱」を前提条件として求めることは、とても贅沢な要望ではないかと感じている。

一方、最近私が参加している某界隈では「コンフォートゾーンを広げる遊び」というのが流行っている。人間は誰だって保守的になりがちで、新規事業を推進するために社外に飛び出せ、異邦人と出会え、みたいなこと言われたって、たいていの人は躊躇してしまう。でも、適切にエスコートしてくれる仲介者がいれば、まぁちょっとくらいはいいかな、って外に出ることができる。そうやって少しずつ、自分から外の世界に出る経験をすることで、少しずつ人は変わっていけるだろう、という遊び。

これはまさに、個人に強い情熱を持たせるための、適切な教育なのではないか、と思う。およそ強い情熱など持ち合わせない一般人でも、何かしらのきっかけさえあれば火がついて燃え上がることもある。まず、そのために湿気を取り除き、乾かしてあげること、そのデザインが今の社会には足りていないように感じる。

以前、株式会社Ridiloverの安部敏樹さんの講演で、「新規事業を起こせる優秀な人材は5%くらいしかいなくて、95%のマジョリティにはできない。そのマジョリティへの教育として必要なのは『占い』と『勘違い』である」と聞いたのが、今でもずっと心に残っている。一般人が、まわりの流行に乗って今からAIとかに取り組み始めても、先を行く優秀な人材に追いつけるわけがない。でも、もし誰も取り組んでいない未開拓の分野を占って示してあげたら、少しは勝率が上がるはず。そして、自分は実はすごいんじゃないか、って勘違いすることで火が付く。

今はSNSなどで世界中の情報を検索して知ることができる。そのせいで、自分なんて大したことない、という劣等感を抱きやすい状況にある。本当は、お山の大将でも全然かまわないから、自分って実はすごいんじゃない? って勘違いすることが大事で、それによってやる気が沸いて、さらなる上を目指す原動力になる。つまり。

勝率の高そうな未開拓の方向性を示し、そちらに向かってコンフォートゾーンを広げる手助けをして、君はすごいんだよと勘違いさせてあげられる、そんな占い師が、必要なんだ。

ただ、占い師ってなんとなく日本では胡散臭いイメージがあるし、ビジネス用途で上司に「占い師に占いを委託したいので経費利用の許可をお願いします」とか言ったら絶対却下される気しかしないので、名称は変えよう。「ビッグデータを利用した機械学習による統計学的新規事業テーマ診断」とかにしよう。それっぽいバズワード並べよう。そうしよう。

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