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精索静脈瘤でも自然妊娠できるのか?【胎児・流産・体外受精への影響】という話

妊娠は確率論です。

健康な20代男女がタイミングを合わせても妊娠する確率は20%ほどとも言われています。

その逆で流産や奇形リスクを1%でも下げることが元気な赤ちゃんを産む確率を高めてくれます。

精索静脈瘤という原因がわかっていながら経済的・心理的な理由などから治療することができないご夫婦もいらっしゃいます。

その場合、精索静脈瘤でも妊娠できるのか、妊娠しても子供には影響は出ないのか、流産の確率が高まってしまうのかなど、不安はたくさんあると思います。

精索静脈瘤でも妊娠は可能か?

あなたが、あるいは旦那様が精索静脈瘤である場合、そのまま手術等を行わなくても妊娠できるのかどうかは非常に気になるところだと思います。

そもそも精索静脈瘤は男性全体の15~20%ほどに見られ、精索静脈瘤があることはそれほど珍しいことではありません。

しかし不妊男性を見てみると、その40%ほどが精索静脈瘤であることがわかっています。

精索静脈瘤があっても精液所見が正常である人もいるので、精索静脈瘤があること自体はよくあることですが、不妊男性には特に多いということになります。

では自然妊娠の場合と、体外受精の場合に分けて見ていきます。

精索静脈瘤での自然妊娠確率

妊娠するには卵子と精子が必要ですが、精子の場合、精子の数・運動率・奇形率が非常に重要となります。

精索静脈瘤である場合、精巣の温度が上がってしまうことで、精子DNA等へダメージを与えることになってしまいます。

そのダメージは数・運動率・奇形率に影響しますので、精索静脈瘤のままですと、その3つの状態が悪い可能性があるということになります。

つまりそれは正常男性よりは自然妊娠の確率が低いということです。

しかし、精索静脈瘤であっても、まだ進行していない状態を含めて精液所見に異常が見られない場合もあります。

精子の数と運動率がまだ正常範囲であれば自然妊娠の確率は低くはないでしょう。しかし精子の質に関してはわかりません。

奇形率は精液検査でも判明できますが、DNAの損傷に関しては判断できません。

DNAが損傷していることで卵子と受精する先体反応が起こりにくくなっていたり、前進運動能力が低下したりします。

その場合は、やはり自然妊娠の確率が正常男性よりも低くなってしまいます。

精索静脈瘤である場合、自然妊娠は不可能ではありません。

ただし、その進行具合や精液所見の内容によっては自然妊娠の確率は低下していき、最悪不可能のレベルにまで悪化してしまいます。

精索静脈瘤は初期段階であれば薬物療法か、中期段階以降であっても手術をすることで改善することが可能です。

そして手術により妊娠確率が上がることがわかっています。

・手術による精液所見の改善率は70%ほど。
・自然妊娠率は改善者中20%~50%程度まで改善すると言われています。
・女性要因を除くと1年目で43%、2年目で69%の自然妊娠確率とも言われています。

精索静脈瘤での体外受精確率

精索静脈瘤である場合、精子数・運動率・奇形率が非常に悪い状態であることが多く、自然妊娠は厳しいと判断され、人工授精を飛ばして体外受精や顕微授精へとステップアップすることもあります。

体外受精を行う場合、確かに自然妊娠や人工授精よりは確率が高くなるかもしれません。

しかし、精索静脈瘤である場合、精子DNA損傷の可能性が高く、受精先体反応が起こりにくく、正常男性と比べると確立が高いわけではありません。

そこで手術が検討されます。

精索静脈瘤手術を行うことで精子DNA損傷が少なくなったという報告があります。

精索静脈瘤手術によって、総運動精子数は670万から1540万へ有意に改善し、顕微授精による妊娠の可能性が1.82倍、出産の可能性は1.87倍と高くなり、流産の可能性は 0.433倍と低くなった。また、精子DNA損傷が減ることは染色体異常児の出産率が少なくなると考えられる。精索静脈瘤手術後2カ月で、精子のDNA損傷が有意に改善した。

この報告から、体外受精や顕微授精を行う前に、精索静脈瘤手術を行うことで人工授精・体外受精・顕微授精の成功率が高くなることが判明しています。

体外受精は費用が費用です。

できるだけ少ない回数で成功させたいのは当然です。

精索静脈瘤手術は現在では施設によっては保険適用可能ですので、手術→体外受精・顕微授精の順で不妊治療を検討してみるべきかもしれません。

ちなみに、手術は症状が軽い患者よりも重い患者の方が改善傾向がはっきりとわかるそうです。

ただし、上述したように、手術したからといって100%改善できるわけではありませんのでご注意ください。

精索静脈瘤のまま妊娠した場合生まれてくる子供への影響は?

精索静脈瘤のまま、自然妊娠や体外受精等により妊娠、出産した場合、赤ちゃんへの悪影響や流産を心配することは至極当然です。

せっかく授かった命に余計なリスクを残したくないと誰しも思います。

では精索静脈瘤のまま妊娠した場合、胎児や流産への影響はないのでしょうか?

胎児への影響

精索静脈瘤のまま妊娠したとしても、胎児への影響はありません。

精索静脈瘤があることが問題ではなく、問題なのは精索静脈瘤であることで精子の数・運動率・奇形率などの精液所見が悪いことです。

ただ精索静脈瘤は精子DNA損傷を招きます。

それは染色体異常への影響が考えられますので精索静脈瘤を手術により治療することで染色体異常児の確率が減少する可能性はあります。

とはいえ、正常男性による自然妊娠でも染色体異常児の割合がゼロというわけではありません。

そこを気にしているといつまでたっても妊娠への一歩を踏み出せませんので気にしてはいけないと思います。

ちなみに染色体異常は母体の年齢に大きく関わりますし、自閉症は父親の年齢も関わります。高齢で出産する場合の方がその割合が高くなることは有名です。

流産への影響

妊娠の約7分の1は流産になるという結果があります。

流産の最も多い原因が染色体異常卵子に起因するものですが、その他にも様々な要因があり、精子もその要因になることが研究されたのはここ最近の話です。

その結果、受精した精子に染色体異常があれば流産の要因となりえます。

通常射出精子の0.6%に染色体異常を認めるが、高度乏精子症においてはその割合が6%に上昇し、非閉塞性無精子症に至っては14%となることがわかっています。

だからといって高度乏精子症のままの妊娠は危険なのかというとそういうわけではありませんが、正常精子より染色体異常割合が高いのは事実です。


何1つ不安要素がない状態で妊娠するご夫婦はいないかもしれません。調べればそれだけ不安も増えていくことでしょう。

妊娠には年齢というリミットがあります。ご夫婦の年齢によってどの道を選択するべきかは変わっていきます。

まだ若いのであればまずは精索静脈瘤の手術、40代であれば体外受精と並行して行うなど、様々な選択があります。

ご夫婦の気持ちや、経済的、身心的なことを考えて今できることを2人でやっていきましょう。



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